スタンピード
ドガァ!!!!
先ほどの岩壁を貫いたロイアーティの大剣での一突きとは比べものにならない、純粋な拳の破壊力はすさまじいものだった。
爆裂魔法が目の前で起きたのかと疑ってしまうほど、大きく穴が空いた岩壁。
モウモウと立ちこめる粉塵の向こうには、岩壁だった破片になぎ倒された騎士たちと――。
「ロイアーティ!!」
破片が頭部に被弾したのか、マントで顔を覆っているがその隙間からポタポタと血が流れ落ちているのが見えた。
「今だ、行こう!」
荷物は全て置いていく。
だが、絶対に置いていってはいけないユーリエスの手はしっかりと握って駆け出す。
「まっ、待てごがっ!」
ロイアーティに駆け寄る騎士が多い中、残りの騎士は俺たちを足止めしようと躍り出るが、ダグジアの一撃で文字通り粉砕されてしまう。
ダグジアも剣を帯びているが、「これは飾りだ」と言わんばかりに、殴って、蹴って、また殴り道を作る。
「雑魚相手に何をやっている! それでも精鋭かッ!」
心配する黒騎士たちを振り払い、ロイアーティは潰れた目を隠すことなく叱咤した。
この時点で仲間の黒騎士たちの約半数は岩に被弾するかダグジアに殴られて戦闘不能になっている。
本来であれば斬り殺すところだが、これ以上、手駒を減らしては追いかけるのも大変だと、ロイアーティはギリギリのところで思いとどまった。
□
「ダグジア! 俺たちは、どこに向かっているんだ!」
「ドラゴンに会いたいのだろう!」
「そうだけど!!」
初めは手を引っ張っていたが、目が見えないユーリエスにこの不安定な足場の迷宮を走らせるのは困難だ。
だからほぼ走り始めの内に背負ったのだが、これがまたキツい。
今まで人を背負いながら迷宮を走ることは、多くはないがあった。
その時は大体、怪我人を背負っての走破だったので火事場の馬鹿力というか、そんなものが出ていたので気にならなかった。
しかし、今は本当に辛い。
「辛いなら、置いて行ってくれ。私はもう救われた」
「まだそんなこと言ってんのか! もっと他の言葉は言えないのか!」
あまり語気を強くするつもりはなかったが、息も絶え絶え体力も底が見え始めた状態で相手を気遣うの無理があった。
ユーリエスは怒鳴られたのが効いたのか、俺の服をギュッと強く掴む。
止めて。息できなくなる。
「オーガだ! おい! こっちから、オーガが来るぞ!」
「クソッ!」
走る先からこちらに向かってきていた光。
冒険者だということは分かっていた。
問題は数だった。
奥に潜っていた冒険者たちが、何か問題が起きたのか集団で地上方向へ歩を進めていた。
「後ろからはモンスターの群れが。前からは単体のオーガか!」
どうやら、冒険者たちはモンスターの群れと遭遇し、仕方なく撤退してきたようだ。
……ん?
モンスターの群れ?
気になりダグジアを見ると、少しだけバツの悪そうな顔をしていた。
岩壁を砕く前に、あれだけ良い顔で言っていたスタンピードを止められていたんだ。
王云々の前に恥ずかしいことだ。
だから俺は何も言わずにただひたすら走る。
「クソッ! 何人か掴んで突破するぞ!」
「待て! 俺に任せろ!」
人数どころか、相手の輪郭までハッキリと見え始めた辺りでダグジアは舌打ちと共に言う。
だがそれは悪手だ。無駄な戦闘は、無駄な時間と手傷を負う。
「こいつは俺の獲物だ! 誰も手を出すなッ!」
「こちらに向かってきているだろ!」
「手出しはせん! だから、どけぇッッ!!!!」
異様な雰囲気を放つダグジアと、それを追う俺。
どちらに気圧されたか分からないが、冒険者たちは警戒をしながらも道を開ける。
「そっちは、モンスターの群れが居るぞ! 今は結界で足止めしているが、長くは保たんぞ!」
「分かった! そっちは、王族とその騎士が来るから気をつけろ!」
「――ッ! お前、ケイスかっ!」
あぁ、クソッ!
あいつら、ロイアーティから何か言われていたな!?
地上へ向かっている最中にロイアーティたちと遭遇し、難癖をつけられないようにと注意をしただけだったが、それが裏目に出てしまった!
「追ってくるな! 死ぬぞ!」
「なら止まれ! こっちも
他の冒険者たちが俺たちを追うのを止めろと諭しているが、目の前に吊られたニンジンが猛毒であるにも関わらず、追ってしまう馬鹿が居るようだ。
ロイアーティが約束を守るわけがないだろう!
「ドオィリャ!!!!」
岩壁を砕いた時と同じく、咆哮と共に張られていた結界をアグジアが破壊した。
「ちゃんと着いてこい! 巻き込まれるぞ!」
「はぁっ!? おっ、うわっ!?」
大きなダグジアの背中で見えていなかったが、結界に阻まれていたモンスターが一気にこちら側へなだれ込んできた。
普段であれば人間を見つけるなり襲いかかってくるモンスターが、ダグジアの横を通り過ぎ、そして俺の横までも通り過ぎていく。
「うぎゃぁぁぁぁぁ!!」
「なっ、なんでだ!」
「ぐぎゃ」
モンスターのうなり声や地響きのような足音に混ざり、俺たちを追ってきていた冒険者たちの悲鳴が聞こえた。
「だから追うなって言ったのに」
ため息すら出ない。
「こっちだ。ちょうど良いくらいに穴が開いている」
出遅れ組のようなモンスターの小さい群れが出ていく道を指し、ダグジアが言う。
「こんなところに横道があったか……?」
「開けさせた」
「なるほど」
スタンピードの影響により、新しく道ができていたようだ。
大体はモンスターの湧き穴として小さな物ができるのはよくあったが、これはエグい大きさだった。
その道を早足で進む。
真新しい道にはまだヒカリゴケが生えておらず、完全な暗闇だった。
かろうじて道が分かるのは、迷宮を駆け、スタンピードによるモンスターの群れが近くを通ったことによってヒカリゴケが体中に付着しているからだった。
数分――いや、数十分だろうか。
ほぼ暗闇を歩き続けていたら、一気に開けた明るい場所にたどり着いた。
ヒカリゴケとはまた違う、目に痛い光に包まれた巨大な空間と地底湖。
そしてその地底湖に体を半分、沈めて居たのは――。
「ドラゴン……!?」
地底湖に使った側は肉が崩れ落ち、出ている方はほとんどミイラ化したように干からびているドラゴンが横たわっていた。
貪欲なスキル・クラウン いぬぶくろ @inubukuro
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