第15話 男の過去①
私達は近くの木に寄りかかって座った。
「私の名前はレレという。だが、私の本当の名前は松井武志だ。この名前は私の両親が、立派な志を持って生きてほしいという願いを込めて名付けてくれた。
もう君は気がついているかも知れないが、私はここの世界ではない別の場所、日本という国から来た。どこか分かるかい?」
この人の話し方は他の住民と違う。だから、松井さんは別の場所から来たのではないかと薄々感じていた。が、実際に本人の口から聞くと 衝撃が走る。どのようにして、この人はこの国に来たのだろうか?
私は私自身も日本から来たことを話した。そしてこの世界に来た経緯も簡潔に言った。松井さんは目を見開き驚いたが、納得したように頷いた。そんな気がしていたと松井さんは言った。この世界に対する感覚について、私とはシンパシーを感じていたそうだ。
「日本で私は父親だった。妻と娘の3人で暮らしていた。本当に幸せな日々だった。
……だが、生活が安定してきた頃、私は突然に会社をクビになった。リストラというやつだ。職を失った私は急いで別の仕事を探した。しかし、当時の私は40才を超えていた。そして高学歴な訳でもなかった。私はあらゆる点で凡才な男だった。そんなやつを採用する会社なんてものはなかった。私はいつまで経っても新しい仕事に就くことは出来なかった。
私の娘は大学受験を控えていた。つまりお金が必要だったんだ。私はそんな娘に十分なお金を準備することが出来なかった。
私は罪悪感を感じながら常に生きていた。早く職を見つけなければという焦りだけが募っていく日々だった。
私は最低なことに酒に逃げた。自分に失望したのだ。いつまでも無職でいる自分に。
希望なんてものは私の目には映らなかった。
諦めてしまえば、堕ちるのは一瞬だ。私は人間の屑に成り下がった。
しかし、心のどこかでどうにかしなければと訴えかけてくる自分がいた。私にはかすかに責任感が残っていたのだ。家族を養わなければという責任感が。
そしてその責任感が私を苦しめた。何もする気が起きないのに、四六時中それじゃダメだと叱責する自分がいる。
私は常に頭痛がしていた。どんな特効薬も効かない頭痛に、私は苛まされていた。
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