6月12日月曜日 1981年度生徒自治会長安達寛

古城ミフユ


 昼休みの間に1年E組までなんとか回れた。加美さん、友達にはあまり話が長くしないでね、したかったら放課後に来たらいいからさって事前に言っていたらしい。彼女の視点では私と1年生が話を出来る、聞いてもらえるのだというのを改めて見てもらう意義を重視していたみたいだけど、実際聞いていく事は大事だ。この気持ちを忘れたらダメだ。


 放課後、物理化学準備室にすぐ向かった。他の子たちが来る前に電話したいところがあった。


 部屋に入ると隣接の教室に行った。窓からの日差しも少し弱まった感じになっていた。灯りもつけないまま教室の片隅でスマフォを取り出した。ここならみんなが来てもそんなに音は入らないから落ち着いて電話できる。調べておいた電話番号をスマフォに入れて「発信」ボタンを押した。発信音が2回ほど鳴ったところでつながった。


「はい、……新聞出版です」

電話に出た男性の人に週刊誌編集長の安達さんに取り次いで欲しいと頼んだ。

「どういったご用件でしょうか?」

一呼吸置いてから言った。

「安達先輩、安達さんの出身校である県立中央高等学校の生徒です。安達さんの在学中の出来事で少しお話をさせてもらえたらと」

「ええと、新聞部か何かですか?」

答えるのにちょっと躊躇した。

「……はい。新聞委員会の記者です」

「在席中か確認しますので少しお待ち下さい」

電話から保留音のメロディが流れた。待ちながらどう話をするか考えたけど無策だった。出たところ勝負だ。


「はい。安達です」

なんと当人がすんなり出てくれた。


「私は県立中央高等学校2年の古城と申します。実は少し話を伺いたい事があって電話させて頂きました」

「よく分かったね。俺が中央高出身だって。名前だって変わってるのに」

「先輩のお名前は中央高新聞のバックナンバーを読んで知りました。そして市の中央図書館のデータベースサービスで3年前に記事が出ているのを見つけました」


安達先輩は笑った。

「今時の高校生記者だとそういう調査スキルあるんだね。で、いったいどういう用かな?」

「まず1つお詫びさせて下さい。私は新聞委員会ではなく今度ある生徒自治会長選挙の立候補者です。学校の制服を変えられた時の話で知りたい事があって電話させてもらいました。取り次いでもらうのに嘘をいって申し訳ありません」


 安達先輩は少し怒っている感じだったけど不思議と許してくれてもいた。

「うーん。そういうのは良くないと思うよ。切られたって文句は言えない」

「はい。先輩の言われる通りです」

「後輩のよしみで今回だけ見逃す。さ、話を続けて。悪いけど次の予定までそんなに時間がないんだ」


 私は少し声が強くなった。

「ありがとうございます。制服を今のブレザーに変更する提案をされたのは安達先輩だと中央高新聞で読みました。実は今、私も制服の見直し、というか追加を公約していて一部の先生はいい顔してません。安達先輩の時、学校側は反対しなかったように見えるのですが何故ですか?当時だったら頭ごなしに怒られるような印象も受けるんですけど」


 安達先輩の回答は少し遅れた。そして秘密の話をするかのように、他の人に聞かれたくないかのように小声になった。

「そうだね。普通そう思うような時代だったと思うよ。私の場合は人形遣いがいた。私の方が人形遣いだと言われたけどそうじゃない。向こうが影で動いて地ならししてくれたけど多大な犠牲も払われた。学校側を騙したのは私だけじゃなかったんだ。だから私より彼を探して話を聞くべきだと思うよ。ヒントは『せいけい』だ」


 『せいけい』って何の事? 受話器が向こう側の小さな声を拾った。安達先輩の近くにいる人から何か言われているらしい。普通の声の大きさに戻った。


「ん?もうそんな時間か……古城さん、悪いけど次の予定の時間になってしまったから」

「いえ。安達先輩。貴重なお時間を割いて頂きありがとうございました」

そう言い終わると同時ぐらいに電話が切れた。


 安達先輩、旧姓鳴海先輩から謎の問いかけが残されてしまった。どうやら今のブレザー制服にも何やら秘密はあるらしい。


「ミフユ先輩、隣ですか?クラスの子が先輩に質問したいっていうから連れてきました」

加美さんの声が準備室から聞こえて来た。


 この事は一旦頭から追い出して頭を切り替えた。

「加美さん、そっちいくから」

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