白コレ

エリー.ファー

白コレ

 雪の日のことである。

 寒くはなかったので、それはたぶん、幻なのかもしれないが。

 とかく。

 雪の日のことであると記憶している。

 私は一人、書斎で本を読んでいた。別段、そこに意味がある訳ではない。調ものをしていたとか、探し物をしていたとか、そういうことではない。もっと言うのであれば文字を目で追ってすらいなかったのかもしれない。

 日常の中にある、いつもの行動がただそこでもなされたということである。

 書斎は安心できるところだ。

 なにせ、何も起きない。危ないことなどは特に。

 本はすべて読んだものであるから、知り合いばかりであるし、気心のしれたものということで、展開もすべて覚えている。だから、今更何を読んだところで、作品などすべて頭の中である。読むという行為に最早意味がない。意味がないのだが、なんとなく繰り返してしまう。

 手癖。

 死んでしまった父にはそう言われた。

 父も本を愛していたが、私程ではなかった。私が本にはまったのは父の影響ではあったが、残念なことに父は私のことを余り好きではなかった。

 本を愛しすぎていたということだろう。

 私は子供の頃には本に取りつかれていたから、ありとあらゆるものを読み漁った。

 結果、どうなったか。

 単純だ。

 私は父の持っている本を全て読んでしまい、むしろ、父に本の内容について父以上に深い解釈を交えた感想を言えるようになってしまった。

 これがいけなかった。

 父は、余り、私に話しかけなくなった。

 父は小説家になりたかった、と後に母から聞いた。

 父はたぶん、私の中に小説家としての才能を見つけてしまったのだろう。それが、引き金となって、嫉妬が生まれた。

 自分の子どもの才能を羨ましがった。

 父の最期は壮絶だった。

 本に埋もれて亡くなったのだ。

 本棚が倒れて、本が飛び出し、その下敷きに。

 しかし。

 重要なのは、そこではない。

 父が発見されるまで、四日もかかってしまったという点だ。

 メイドが走って来て、本を読んでいた私に来るようにと言う。

 どうしても自分の手では本をどかすことも本棚をどかすことも当然できない、と。

 旦那様が埋もれている、と。

 私は本を読んでいる最中で。

 その言葉に一切の偽りがないことを分かった上で、ページの最後までを読み切り、しおりを挟んでから向かった。

 もう。

 父の中にあった本への情熱は。

 私が完全に受け継ぎつつあった、という事なのだと思う。

 私は気が付くと小説家になっていた。

 物語を紡ぎ続ける小説家になっていた。

 他の作家は知らないが、小説家としてかなり裕福な生活をさせてもらっており、衣服にも、食事にも、家にも、もちろん、金にも何不自由なく暮らしている。

 私の中に間違いなく才能はあり。 

 それは間違いなく、開花するべくして開花し。

 今日も小説を書く。

 自分の販促ルートも持ち、自分の名前の賞も立ち上げ、もはや、今は自分の作品を自分の意思で世に出し続け、それによって自分の手で利益を手にしている。

 当然のように。

 一人でこと足りた。

 そして。

 一人で足りる世界に落ち着いた。

 他の人は何故にそのように小説でそこまでの信頼を得られるのか、どうして一人でできてしまうのか、と尋ねてくる。

 もう。

 そういう時代になった、ということしか言えない。

 最初は一人だったのに、今は一人しかいない。

 寂しさはない。

 最初から分かっていたことだ。

 皆、分かっていたのだ。

 もう、間もなくすべてに一人の時代が来て、一人で裕福になる。

 間違いなく、私はなった。

 次は誰か。

 誰がなるのか。

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