シャウス乗り込み作戦準備

 坑道の完成が半年に迫った報告を受けてユッキーが、


「シャウスへの乗り込みはシャラックに担当させる」

「パリフやないの?」

「パリフは陽動作戦で忙しいでしょ」


 呼び出したシャラックに、


「シャウスの坑道の完成が近づいている。そちがシャウスへの乗り込みを担当する」

「はっ」

「甘くないぞ、シャラック」

「心してかかります」


 どうもユッキーはシャラックの器を再確認したいみたい。


「コトリ、なるべく口出しせずに見守ってあげてね。第三広場を自分で攻略できなかったのがシャラックの心の傷になってると思うから」


 シャウス乗り込み作戦はコトリの予想通りだったら楽勝。アングマール軍は第二広場でのパリフの陽動作戦に目が釘付けのはずだし、たとえ第二広場が陥落しても次は第一広場の防衛ぐらいに考えているはず。つまりシャウスはまだまだ後方基地の位置づけだから、ロクに防備もしてないはずやんか、乗り込みさえすれば大混乱を起こしてアッサリ占領ってところ。

 ただなんだけど、不確定要素もあるのよね。四座の女神が必死になって計測と計算を繰り返した坑道の方向。コトリもユッキーも一緒になって検算したけど、


「八割ぐらいね」


 そう二割はシャウスを外れる可能性があるのよ。穴を塞いでやり直しが利くかもしれないけど、その時点で見つかっちゃえば、あれだけ時間と手間をかけた坑道作戦はオジャンになっちゃうの。

 ほんじゃあ、シャウスの城内には入れれば成功かと言えば、これまた不安要素が一杯ないのよね。とにかくシャウスのどこに出るのか、出てみないとわからない状態なの。それこそ池の底になんか出たら大変なことになっちゃうのよ。池の底は論外としても、敵の監視所の目の前なんて可能性もあるのよね。

 無事にそれなりのところに出れたとしても、シャウスの城内がどうなってるかはサッパリわからないのよね。坑道から送り込める兵力は、時間さえかければ数は増やせるけど、そうそうノンビリしてられるとは思えないのよこれが。そりゃ、アングマール軍だって対応に動き出すだろうから、少数兵力で効果的に動き回る必要があるの。

 シャラックは演習場に穴を掘らせて乗り込み作戦の訓練を重ねてた。坑道からの奇襲のネックは、一遍に兵士を繰り出せない点にあるとシャラックはまず見たみたい。早くに気が付かれるとワラワラと包囲されて押し返されちゃうからね。シャラックに聞いてみたんだけど、


「想定として旧王宮が敵の本営と考えて作戦を組み立てています」


 それぐらいしか考えようがないけど、そうじゃない場合の対応も素早くしないといけなくなるわけ。そのシャウスの兵力だけどシャラックは、


「第一広場・第二広場と合わせて一個軍団規模ではないかと」

「シャウスには?」

「どう考えても五千ぐらいはいるはずです」


 アングマールの軍団規模もエレギオンとほぼ同じ。つうかアングマールの軍団をコトリがコピーしたようなものだけど、第一広場にしろ、第二広場にしろ広くないのよね。エレギオンと同じように火炎弾対策で横穴掘ったとしても、両方合わせても千人も入れないのよ。


「何人乗り込ませる予定」

「せいぜい一戦列程度が限界です」


 一戦列十五個大隊だから千五百人だけど、


「おそらく五個大隊もそろわないうちに乱戦になる可能性があります」


 シャウス乗り込み作戦の成否は奇襲であることに尽きるの。まともに備えられたら千五百対五千で勝負にならないのよ。乗り込んで行ったエレギオン軍が手早く混乱を巻き起こせるかどうかがカギになってくるの。


「やっぱり夜襲」

「御意」


 少数兵力を大きく見せ、相手の混乱を誘うには、それしかないものね。


「決め手は」

「火を考えております」


 これも常套手段だけど、相手の混乱を引き起こすには火は有効なの。


「上手く見つかるかどうかは運次第ね」

「管理がルーズであるのを期待しております」


 火をつけるといっても燃やすものが必要で、シャラックは薪の集積所を襲うつもり。そこに油を運び込んで燃やせば効果が望めるだろうって。これだけシャウスの城内の情報が乏しければ、これぐらいしか手がないよね。


「後は臨機応変、私が戦闘に立って指揮を執ります」


 見てから瞬時に判断して動かざるを得ないもんね。シャラックは色んな事態を想定して兵を訓練させていたのは良くわかったわ。


「ユッキー、シャラックは頑張ってるよ」

「物音対策は」

「エルルが抜かりなく」


 坑道作戦が相手にばれるのは、掘り出した土と城に近づいた時の掘削音。そんなもの消せるわけないけど、エルルは夜間工事を中止にしてた。バレる可能性が高いのは夜に寝静まった時だから、工事は日中限定にしてる。


「坑道作戦の損害は?」

「五百人ぐらいだよ」

「結構出たね」


 落盤事故での生き埋めもあったし、とくに大きかったのは火事になった時。照明用の大きな油壷に引火して十個ほど燃えたんだ。火が消えた時には奥にいた人は全滅やった。エルルも責任感じてた。


「それでも道から攻めるよりマシか」

「これで奇襲が上手く行ったらね」

「上手くいっても、ハムノン高原争奪戦になったらまた死ぬね」

「そうだね、何千人も死ぬんだろうね」

「何やってんだろうね」

「ホントに」

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