第5話 それだけは嫌なの
アミナちゃんが連れ去られた。
会場は騒然としていた。魔法使いのアルデールが出現し、アミナちゃんを拉致していったのだ。
会場にいた参加者の多くは、ただ右往左往するばかりだった。彼らは余興なのではないかと訝ったり、何だあのコスプレはと憤ったりもしていた。
エリナはなす術なく妹を拉致された自分を責めた。
「私が目の前にいながら何も出来なかった」
ハルトは何か声をかけないといけないという使命感に駆られた。
「警察でも勝てなかったんだし僕たちに出来ることはなかったよ」
「そうだけど……」
「それに日本の警察があのまま終わるとも思えないよ。期待しようよ」
ハルトがそう言うとエリナは血相を変えて畳み掛けるように言ってきた。
「それだけは嫌なの。それだと、あの播磨巡査に有利に話を進められそうだから嫌なの」
そうだった。ハルトは自分の安易な発言を後悔した。警察にはエリナが嫌いな、あの播磨巡査がいたんだった。
ハルトは気を取り直して言った。
「そうかも知れないけど、今はそんなこと言ってる場合じゃないって」
「もう良いわ」
ハルトの言葉を遮られ、何も言えなくなった。それ以上のことをエリナは何も言わなかった。
彼女のためとは言えハルト自身も熱くなってしまったと自省した。
ハルトはアルデールが立っていた場所におよそそこにあるべきじゃないような異質な小さな箱を発見した。これはきっとアルデールにつながる何か重要な証拠なのではないかと考えた。
そこで早速、その箱を持ち上げた。箱は軽く、1kgもないようだった。近場にいた警察官にその箱を示した。
「あの、この箱何ですかね。アルデールとかいう男が立っていた場所の近くにあったんですが」
警察官はハルトに顔だけ振り向いて面倒臭そうに言った。
「あー、すまんが、今忙しいから後にしてくれ」
ハルトが箱を手に過ごすごと警察官の元を去ると、一人のパンツスーツに身を固めたスレンダーな女性に声をかけられた。女性はショートカットで二十代中盤といったところだろうか。
「警察ではその箱の秘密には辿り着けないわ」
「え」
「あなたたちに連れ去られた女の子を取り戻す気ある?」
「はあ」
突然声をかけられ、警察官に思いがけず邪険に扱われたことも尾を引いて頭が呆然としていた、ハルトは気の抜けたような返事しかできなかった。エリナが先頭に立って女性に言った。
「あります! 連れ去られたのは、わたしの妹なんです」
エリナを見て、その女性は微笑みを浮かべながら言った。
「私は国家公安調査官の犬上麗美よ。自己紹介をしている暇はなさそうね。警察の会議が始まったみたいだわ」
「公安調査官?」
エリナはすっとんきょうな声を出した。
「そうよ。あなたたちも当事者なんだから、話くらいは聞けるように手配してあげるわ」
そう言って犬上麗美と名乗った女性は警察官のもとに歩いて行き、手帳を取り出して警察官に示した。何やら軽く言葉を伝えると、警察官は途端に直立不動になって敬礼をしていた。
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