第396話祇園の料亭にて 麗の指摘

大旦那の怒りに、本当に不安になったのか、議員や首長たちが、席を立ち、大旦那と麗の周りに集まって来た。


「ほんま、申し訳ありません」

「勉強しますよって、ご教示を」

「はぁ・・・情けない・・・こんなことになって」


・・・様々、大慌ての表情になっているけれど、麗は落胆。

大旦那に声をかける。

「帰りましょう、三条さんを呼びます」

大旦那も、怒りを鎮めて頷く。

「ああ、そうやな、ここで食べる気がせんわ」

「ほんま、時間の無駄や」


しかし、それでも政治家たちは粘った。

「お帰りになるなど・・・それだけは」

「ほんま、教えてください」

「はぁ・・・せっかくの麗様とのお食事なのに」


大旦那は、やれやれ、とつぶやく。

そして、麗に話を振る。

「麗、思うたことで構わん、言うてやれ」


麗は、一瞬、顔を曇らせるけれど、自分を見る大旦那も、政治家たちも、女将も仲居も必死の表情。

とても、遠慮できるような雰囲気ではない。

麗は、ゆっくりと話をはじめた。


「若輩者ではありますが。感じたままに」

再び、会場全員の視線に、麗は度胸を固めた。


「まず、夕方からの食事会」

「私が忙しいとかは、受けた以上は不問とします」

「ただ、浜村秘書さんが、何故、お迎えに来たのかは疑問」

「本日司会の竹田議員の秘書だからなのか、それを他の先生方、秘書さんたちにも了承をしっかり取ったのか、あるいは浜村秘書さんの独断か・・・」

「大したことではない、と思うかもしれないけれど」

「そういう根回し、段取りも政治家としては大事なのでは?」

麗の言葉で、浜村秘書は下を向き、竹田議員も他の政治家、秘書も嫌そうな顔で、浜村秘書を見るので、やはり独断か問題のある行為らしい。


麗は続けた。

「こんなことを言うべきか・・・迷うけれど」

「まずお迎えに来た浜村秘書のスーツの匂いは強めの柑橘系」

「それに染み付いたタバコの嫌な臭い」

「そしてポマードの強い匂いが、狭い車の中では混じって充満、エアコンをかけてあっても、九条屋敷とここの料亭は近い、匂いは消えない」

「相当に強い香りで・・・」

浜村秘書は、ますますうなだれ、他の政治家や秘書は、自分のスーツの香りを、クンクンと嗅ぐ。


麗は、女将と仲居の顔を見た。

「歴史ある祇園の料亭ということで期待しておりました」

「出された先付は問題なく美味と思われます、器も立派なもの」

女将と仲居たちが、少しホッとした顔になるけれど、麗は厳しい顔。

「しかし、浜村秘書さんと同じ」

「顔につける化粧品の匂い、着物に含ませた香り、それが全員バラバラで。しかも強い」

「その複雑と言うよりは、臭みと香りが、部屋に充満」

「立派な食器にも移り、料理にまで」


麗は、悲しそうな顔。

「歴史ある祇園の料亭」

「しかし、そもそも料理を美味しく食べ、楽しく有意義な会話で、お互いの親睦を深めるべきお店であるはず、日本料理の教科書であるべきお店では?」

「それが、料理以外のことで、台無しに」

「やはり嫌な臭いを嗅ぎながら、美味しい食事は食べられません」

「食事において嗅覚は大切、鼻をつまみながら食事は出来かねます」

「真面目に料理を作る料理人だけではなく、野菜を苦労して作った人、魚も肉も、調味料も同じこと、とにかく心を込めて、苦労して素材を作り、この店に素材を届けた人たちに、これでは申し訳なくて」


麗の話を、目を閉じて聞いていた大旦那が口を開いた。

「他にもある」

「未成年の麗に、安易にも酒を持って来た議員と秘書」

「他の議員、首長なら、どんな態度を取る?」

「言うてみい」


その行為をした竹田議員と浜村秘書は、再び震えだしている。

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