第393話石仏調査は政治家の手柄にはさせない意思を示す

麗が目覚めたのは、約5分後。

「葉子さん、ありがとう、楽になりました」

葉子は、目覚めるのが、早過ぎると思う。

「麗様、ご心配なく、私に任せてください」

しかし麗は、身体を起こしてしまう。

「いや、寝てしまうなど恥ずかしい」と、早速机に向かい、パソコンを開く。


葉子はこれでは仕方がない。

「麗様、夜の政治家さんを事前にお知りになりたいと?」と麗の考えを読む。


麗は頷く。

「あまり寝ぼけ顔とか、会う人を知らないのも、失礼になるので」


葉子は、政治家たちのページを開き、また書棚から印刷済みの資料を手渡す。

「こちらになります、全て与党の方々に」


葉子から渡された資料やパソコンの画面を見ながら麗は考えた。

「元PTA会長、元議員秘書、元官僚、元新聞記者、元アナウンサー、建設会社役員、いろんな経歴はあるけれど」

「特に京都で当選するには、この九条家が後援するか否かに、かかっている」

「となると・・・九条家がやろうとすることには、反対意見を述べない、述べられない」

「要するに、九条家がやろうとしていることに、応援するようなことを言い、九条家の支持と京の街衆の票を取りこもうとして来るはず」


次第に、麗の顔が、不機嫌なものに変わる。

「程度の悪い政治家は、石仏調査を応援するとか言いながら何もせず、選挙では、自分の手柄にする」

「まるで、自分が応援したから石仏調査が実現したとか、しゃべりまくる」

「それでは、石仏調査に参加する多くの人を怒らせることになる」

「そもそも政治家が応援したから、政治家が声をかけたから、話が進んできたわけではない」

「まして、九条家が、そんな政治家の発言を認めるとか、放置したら、九条家の評判も悪くなる、それで京都の秩序も崩れてしまう」


麗は葉子に質問。

「この政治家たちの中で、口が軽いタイプは誰でしょうか」

「あるいは問題発言が多いタイプ」


葉子は、麗の言葉の真意を探りかねたけれど、数人を指差す。

「いつも大旦那様から、余計なことを言うなと、叱られております」

「それでも、政治家が平謝りをするのと、大旦那様のご厚情で一応は収まっております」


麗は、その政治家の経歴などを早速確認。

「元新聞記者・・・確かに頭はいいかもしれないけれど、受け狙いで中身が無いかも」

「元アナウンサーか・・・知名度と九条家に頼り、選挙は安泰、だからお気楽発言しかできない」

「元官僚で将来の首長候補か・・・こいつも市民が参加する石仏調査など、恰好の選挙ネタ、自分の手柄にしそうな奴だ」


葉子は、麗が言ったことや、表情から、懸命に麗の真意を読んだ。

「麗様、つまり・・・石仏調査との関連でしょうか」


麗は、葉子にハッとした顔。

「よくわかりましたね」

「とにかく邪魔されたくないので」


葉子は、落ち着いた顔。

「それは、大旦那様も語っておられます」

「勝手に自分の手柄にしたら、後援は取り消すと」

「もちろん、私たちも全員、同じ考えです」


麗は、この時点で考えを固めた。

「葉子さん、政治家には、調査そのものも、参加させたくない」

「一人一体ではあるけれど、調査をさせれば、必ず秘書がついて来て、写真を撮る」

「それを選挙に使うのは、ほぼ確実」

「応援もさせないけれど、参加もさせたくない」

「とにかく、政治家の手柄に結び付くようなことは、させない」


葉子は、うれしそうな顔。

「ほんま、そう思います」

「うちも皆も、頼む時だけ頼んで、手柄を総取りなんて、我慢できんと思います」

「バシッと言い切ってください」


その葉子の言葉で、麗の目がはっきりと開いている。

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