第389話隆のお相手と回復 麗の肩の荷がおりる。

翌日曜日の午前、朝食を終え、麗は隆を見舞うため、屋敷を出た。

いつもの茜と、今日からは個人秘書となった葉子も付き添う。


三条執事長の運転で走り出した黒ベンツの中で、茜が葉子に声をかける。

「葉子さん、うれしいわぁ、葉子さんが隣におると、安心や」

葉子は、色白の顔を赤らめる。

「いえ、最初から褒めないでください、後が怖い」

茜は葉子の手を握る。

「これで九条屋敷も、また柱が増えたような」

葉子は、茜に頭を下げる。

「ありがたいことです、お力添えを」


麗は、朝の房事と、朝風呂で疲れが出てきているのか、少しうとうと気味で、ほぼ反応がない。


そんな状態で、隆の入院する病院に着き、病室に入ると、隆に父晃がいて、隆の隣には見慣れぬ若い女性が立っている。


麗が、少し驚いていると、隆は恥ずかしそうな顔。

「麗ちゃん・・・いや麗様には初対面やと思う」

「恵子や・・・つまり・・・」


麗は察した。

「隆さんの?」

「へえ、こんな素敵な人が」


その恵子が、麗に頭を下げた。

「初めまして、恵子と申します」

「隆さんとは、長いお付き合いで」

「麗様、本当に隆さんを力づけてくれて」

恵子は、顔を上げた。

その目が潤んでいる。


麗はやわらかな顔。

「いえ、ほとんど何も、していないので」

「隆さんに元気になってもらいたいだけで」


恵子は、潤んだ目で続けた。

「麗様がお見舞いに来られた時から、見違えるようになって」

「毎週、麗様に逢えるって、笑顔も出て」

「最初は食べた物を吐いたりしたけれど、それでもめげなくて、また食べる」

「いつの間にか、ベッドから出て、歩くように」

「昨日も、階段を上って屋上まで、元気さが日増しに」


麗は、黙って隆の手を握る。

すると握り返して来る隆の力が強い。

麗は、能面を崩す。

「もう少ししたら、腕相撲ができるかな」

隆はうれしそうに笑う。

「いや、麗様には負けたことありません」

「一瞬で倒させてもらいます」


茜が恵子に声をかけた。

「恵子さん、妬けます?」

恵子は、泣き笑い。

「ほんまです、麗様が来られると、笑顔の質が変わります」

「いたずらっ子みたいな顔になっとります」


晃が、全員に頭を下げた。

「麗様のお見舞い以降、相当に体力が回復しておりまして」

「レントゲンで危険な状況もほとんど減り、あと一か月以内に退院の予定となりました」

晃は恵子についても、紹介。

「隆と恵子さんは、長いお付き合い、退院後には隆を任せようかと」

恵子は、その顔を赤らめ、「ふつつかではありますが」と頭を下げる。


麗は、肩の力が抜けたような安心した顔。

「はい、私たちも、全力で支えます」


隆の麗たちを見送りする足取りも力強かった。

病院の玄関を出て、駐車場までついて来た。


麗は隆の手を力強く握る。

「退院したら新作香水作ろうか?」

隆は、満面の笑顔。

「麗様となら、とびきりな香水かな」


晃は目頭を押さえ、恵子は隆の背中に顔をつけて泣き出している。

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