第348話定例の混浴 涼香の希望

夕食の後は、ほぼ定例となってしまったお世話係たちとの混浴。

ただ、定例的になってしまったけれど、麗は「見られる」のも、「見ること」も、顔から火が出るように恥ずかしい。

お世話係たちは、多勢の余裕だろうか、実に賑やかに麗を洗い、取り囲む。


「裸のお付き合いや、これもなかなか」

「うちはダイエットせんと、危険や」

「そや、そう思うわ、食べ過ぎや」

「麗様に少し分けましょう」

「ほら、目を閉じんと、恥ずかしがらずに」


あまりにも押し付けて来るので、麗はようやく目を開ける。

「お風呂の中で、おしくら饅頭?」


その言い方が、面白かったのか、お世話係たちは、一斉に笑う。

「それは、肉まん?」

「いや、なめらかやから、大福や」

「そやなあ、今度から大福風呂って言わん?」

「あらーー・・・いい案や」

「その案は、餡子の餡?おもろい洒落や」

「ほらーー!麗様が呆れとるし」


実際、麗は呆れているけれど、このお世話係たちに囲まれては、うかつに湯舟から出られないのも、事実。

ただ、呆れているけれど、そのどうでもいい話が、神経を苦しめることはない。

「まあ、いいや、お気楽で」

「あえて笑顔を壊すこともない」

などで、少なくとも関係筋のお嬢様の前ほどには、表情を固くしない。



そんな和やかな混浴を終わり、麗は涼音と自分の部屋に戻った。

そして、英語の課題などをこなした後、涼香と明日からの打ち合わせ。


「新幹線車に乗るのは、定例の時刻」

「来週の特別な用事は、蘭を都内の高校転入に尽力していただいた日向先生と、高橋先生にお礼をするくらい」

涼香は麗の予定帳を、自分の予定帳にしっかり書き写す。

「わかりました、誠心誠意、対応いたします」


そんな涼香に麗。

「最初の直美さんとは神保町を散歩」

「その次の佳子さんとは、銀座でした」

「涼香さんは、どこか歩いてみたい場所はありますか?」


すると涼香は、本当にうれしそうな顔。

「あの・・・横浜に」


麗は、頷いた。

「わかりました、横浜は面白い」

「横浜駅からシーバスに乗って、山下公園にしましょう」

「小さな船旅です」

「そのまま、まっすぐ進めば、大きな中華街」

「その絢爛豪華な通りを曲がって、元町へ」

「中華街とは異なる、ヨーロッパみたいな美しい商店街」

「横浜発の有名ブランド、もちろん海外の有名ブランドも」


麗の珍しく長い説明が続くと、涼香の目がうっとり。

そして、そのまま麗の手を握る。

「それで麗様、坂を上って、港の見える丘公園に」


麗が、「はい」と頷くと、涼香の顔が赤い。

「港の見える丘公園で、恋人して欲しいんです」


麗は、「その恋人して欲しい」の意味がわからない。

「えっと・・・それは?」

と聞き直した瞬間だった。


涼香は、いきなり麗の唇を奪っている。

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