第335話慎重な麗と涼香の思い

涼香は麗の腕がやわらかく背中に触れた時点で、膝がガクガクとなる。

「これが・・・麗様の」

「直美さんも佳子さんも、一週間夢見心地言うとった」

「うちのほうが年上なのに・・・はぁ・・・焦らされとる」


ただ、涼香は「それ以上のこと」を期待するけれど、麗は涼香を抱えたまま、ストンとベッドに座らせる。

そして、麗は涼香から身体を離し、鞄の中をゴソゴソとしている。

涼香が「何なされとるんやろ」と首を傾げていると、麗は一冊の本を取り出した。


「涼香さん、この作者さん、知っています?」

涼香の目が輝いた。

「あーーー!はい!もしかして麗様が一昨日お逢いになられた?」

「はい、佐藤先生ですよね、大好きな先生で」

「これは・・・100年戦争の話の本で」


麗が表紙をめくると、著者佐藤のサイン。

涼香の目が、ますますうれしそうになる。

麗は、その涼香に本を渡す。

「これ、涼香さんに」


涼香は、驚く。

「え・・・それは・・・もったいない・・・」

「なかなか、もらえるサインではなく」と遠慮を示す。


麗は首を横に振る。

「かまいません、私の大学の先生ですし、将来ゼミに入ることも約束済み」

「サインなど、いくらでも書くと、おっしゃられています」

涼香は、本を受け取り、ますます感激。

「はぁ・・・何とお礼を・・・」


麗は、涼香の横に座った。

「そんなことは気にせずに」

「私も涼香さんの専門の西洋史は好きなので、その話題になったらつきあっていただきたくて」


涼香は麗の手をキュッと握る。

「はい!お任せください」

「楽しみです、そういうこと」

そして、その身体も寄せる。


麗としては、この時点で抱き合う理由もないと思うけれど、涼香の意図は読めた。

「いくらなんでもまだ早い」と思ったので、ベッドから立ち上がった。

そして涼香に声をかけた。

「夕食まで、ご自由になさってください」


涼香は、慌てた顔。

「え・・・麗様、何か用事でも?」

本当は麗に抱かれたかったし、抱きたかったので、その顔に落胆がこもる。


麗は、やさしい顔

「理事会で少し疲れたので、身体をほぐしたい」

「屋敷内を少し散歩したり、時間があればピアノとか、動画でも見るかなあと」


涼香も立ち上がった。

「お付き合いします」

何より、特別の用事がなければ、麗から離れることは、お世話係として問題がある。

お屋敷内の他の使用人の目もある、それだけは避けたい。


麗は、その涼香を手招き。

涼香が、首を傾げて麗の前に立つと、ぎゅっと抱きしめられる。

途端に、涼香の身体が蕩けた。

麗は涼香の耳元で囁く。

「焦らしているようで、ごめんなさい」

「でも、夜に人に会うので・・・今、ここでは・・・」


涼香は麗の腰を抑えた。

麗の「急な変化」も感じ取る。

「はい、わかりました」

「お楽しみは、後で」


麗は、恥ずかしそうな顔。


涼香は、麗のちょっとした油断を見つけて、その耳を奪っている。

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