第329話銀座超老舗洋食店での夕食 麗の佳子へのお願い

浜離宮から折り返すようにして、麗と佳子は再び銀座の街に戻った。

ウィンドウショッピングをゆっくりと続けながら、そのまま四丁目交差点を過ぎ、裏通りにある洋食の超老舗に入る。


「実にレトルトな外観と内装ですが、味は本物なので」

佳子

「うちは、キラキラしているだけの店は好かんのです」

「ほんま、洋食の元祖のような店、しかも銀座で、これは得難い経験です」


麗はポークカツレツ、佳子は元祖オムライスを注文。


「明治32年以来の歴史のカツレツで、豚カツの元祖みたいです」

「肉の脂をカットしてあって、美味しい」

佳子

「卵で巻いていないオムライス。ケチャップも自家製のようです」

「とにかく、トマトの旨みと甘みで食が進みます」

「それから、ご飯と卵が混ぜて焼いてあるのですが、絶妙なバランス」


麗が、黙ってポークカツレツを切り分けて佳子の取り皿に乗せると、佳子は笑顔でオムライスを麗の取り皿に乗せる。


麗は、能面ではなく、苦笑。

「こんなこと、京都では無理ですね」

佳子は深く頷く。

「はい、恐ろしゅうて、とてもとても」

ただ、その顔が少し寂しい。

お世話係の仕事も、明日、京都の九条屋敷に到着するまで、麗は佳子の気持ちを配慮する。


麗は、佳子に少し頭を下げ、考えていたことを言うことにした。

「突然で、申し訳ない、佳子さんには、どうしてもお願いしたいことがありまして」

佳子は、その目を丸くする。

「麗様に頭を下げられなくても、喜んで何でもします」

麗は、水を少し飲み、佳子の顔を正面から見る。

「佳子さんは、九条家の経理部門をずっと手伝っていただきたくて」

「何かあれば、すぐに教えていただきたくて」

「グループ全体の統括部門の担当として」

「会社で言えば、総務部のような部門で、経営分析も」


佳子は、その顔を赤くする。

「ありがたいことで・・・」

「そうなると、もっともっと勉強しないと」

そして思った。

「つまり、ずっとお近くにいられるってことやろか」

「はぁ・・・ありがたい・・・将来のことまで面倒を」

「明日から寂しいと思うたけれど・・・また張りが出て来る」


佳子は、うれしくて仕方がない。

「はい、邪魔と言われても、お側におります」

「もう、何とお礼を申したらいいのやら」

そのうれしさに、肩の力が全て抜けたような感覚をおぼえる。


超老舗洋食店を出た麗と佳子は、銀座土産に少し迷ったけれど、結局定番の和光のクッキーとチョコレートに落ち着いた。

大人数の九条屋敷への土産になるため、少し大きな荷物になったこともあるけれど、麗は高輪への帰路は、タクシーを選択。


「地下鉄ばかりだと、あまり都内を見ることが難しいので」


佳子は、麗にしっかり身体を寄せる。

その顔がますます赤い。

「ほんま、いろいろお気遣いを、ありがたくて」


麗は、「何とか・・・よかったのかな」、その安心感に包まれている。

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