第283話茜は麗が可愛くて仕方がない

麗は、その後、石仏保存調査の話を少しして、茜と病室を出た。

晃も感極まったような表情で、病室から出てきて、頭を下げる。

「ほんま、ありがたいことで」

「こんなに気をかけてくれて」


麗は晃の肩を抱く。

「先週よりは元気な顔でした」

「京都に戻った時は、来るようにします」


晃が潤みだす。

「そんな石仏保存調査で忙しいのに」

「立派な後継です」

「あちこちから、お褒めの言葉を聞いとります」


麗は晃の手を握る。

「久我山から高輪に移ることになりました」

「奈々子さんと蘭についても、出来る限り気をかけます」


晃は麗に手を握られたまま、泣くばかりとなってしまった。


晃が泣いて、話ができる状態ではないので、麗と茜は「また来ます」とだけ告げて、病院を出た。


車に乗り込むなり、茜が麗をねぎらう。

「お疲れさん、麗ちゃん」

「いろいろ気を使うて、大変やったな」

「でも、素晴らしいわ、はぁ・・・ここまでとは」


麗は、車窓から街を見ている。

「思いつきばかりの話をして、これからが大変」

「やり遂げないと、何が何でも」


茜は麗が心配になった。

あまりにも自分を追い込んでいるのでは、と思うから。

「なあ、麗ちゃん、うちも協力するよ」

「何でも困ったことは言って」

「一人でかぶり過ぎて、倒れられるほうが困る」


麗は、その顔を街に向けたまま。

「そんな簡単に倒れない」

「姉さまには、姉さまの仕事がある」


しかし茜も引かない。

「いやや、そんなの」

「麗ちゃんと一緒に仕事したい」

「うちにも役目を振って」


麗は、そこまで言われて、ようやく茜の顔を見る。

「わかりました、少し考えます」

「姉さまなら安心できる」

その表情も、ようやくやわらいでいる。


茜はここで、我慢ができなかった。

強引に麗の身体を引き寄せる。

「頑張り過ぎや、麗ちゃん」


そして麗の肩や腕を揉む。

「ガチガチや、マジに」

「実は、相当緊張していたやろ?」

「これは・・・お屋敷で、相当ほぐさんと」


麗は、これには困った。

「姉さま、18で肩凝りって言われても」

「すぐにほぐれます」


茜は、麗の困り顔をもっと見たくなった。

「じゃあ、麗ちゃんをほぐしたら、お屋敷でうちをほぐして」


意味不明、と自分を見る麗を、さらに困らせる。

「何しろ、うちは母様の遺伝で、豊胸や」

「重たくてなあ、これが肩凝るんや」


麗は途端に茜から身体を離そうとするけれど無理だった。

茜は麗の腕をしっかりつかんで大笑い。

「あーー!可愛い弟に肩揉んでもらうなんて最高や」


麗は呆れて、何も言えなくなっている。

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