第267話麗は詩織の財団ブログ参加に同意はするけれど

葵祭が明日の月曜日になるので、今日の麗は、特別な用事はない。

できれば、九条屋敷を出て、少し散歩でもしたいと思うけれど、どこに行くとも決心が定まらない。


朝食後、また自分の部屋に戻って読書をしていると、ドアにノック音。

麗がドアを開けると、三条執事長だった。

「学園の詩織様と財団の葵様がお越しになりたいとのことですが」


麗は拒む理由もない。

ただ、訪問の目的を知りたいと思う。

「ところで、お二人の用件は何と?」


三条執事長は麗の表情を伺う。

「はい、ブログの話ということで」

麗は、そうなると断る理由も見つからない。

「わかりました、お待ちしておりますと、お伝えください」と答えると、三条執事長は安心したような顔。

「ありがたいことで」と、部屋の前から姿を消した。


麗は考えた。

「ブログの話か・・・財団の葵はわかるけれど」

「学園の詩織さんは・・・別の大学でもあるし、生活圏も京都、俺は東京」

「まあ、聞いてみないとわからないけれど」


その30分後に、学園の詩織と財団の葵が、九条屋敷を訪れた。

麗は、リビングにて、その二人と相対する。

茜も興味あるらしく、同席する。


話の口火を切ったのは財団の葵だった。

「急な話で申し訳ありません、九条財団のブログに学園の詩織様も参加されたいとの御意向、麗様のお考えを伺いたく」

麗は、「わざわざ訪問して言うべきことか」と思うけれど、シンプルに答える。

「特に構わないと思いますが、九段事務所の了解は?」

葵は笑顔。

「はい、全く問題なく、むしろ、喜ばしいと」

詩織は麗に頭を下げた。

「テーマは源氏物語にしたいと・・・そうなると麗様と相談しながらに」


麗は、少し考えて、詩織に質問。

また、詩織は麗と同い年、性格は桃香によく似ていて、積極的なタイプであったことを思い出す。

「詩織様は、どのようなイメージをお持ちなのですか?」

「源氏物語と言っても、様々に幅広く」

あまり何でもかんでも「お任せ」されては困ると考えたので、まずは詩織のイメージを聞くことにした。


詩織は、その性格そのもので即答。

「はい、源氏物語に書かれた和歌を中心に」

「そこで、麗様のアドバイスをいただければ」


麗は、戸惑った。

そんなことなら、自分の大学の講師にでも聞けばいいと思う。

少なくとも大学一年生、入学して一か月程度の自分に聞くほどではないと思う。


じっと黙って聞いていた茜が笑い出した。

「要するに、詩織さん、麗ちゃんともっと交流を深めたいってことやろ?」


あまりに、あからさまな物言いで、麗は引いてしまうけれど、当の詩織も笑い出すし、葵も笑っている。


茜は麗の肩をポンと叩く。

「麗ちゃん自身が書くんやない、原稿をもらって意見するだけや」

「かまへんやろ?」


麗は、そう言われても、まだ考える。

しかし、単に源氏物語の和歌と言っても、わきまえなければならない点がかなりあると、考えた。


麗は、少し厳しめの顔で詩織を見た。

「詩織さん、源氏物語に登場する人物は、ストーリーに合わせて詠んでいるだけではないので、その元歌も勉強しないと、難しいと思うのです」

「元歌には万葉集もありますし、古今もあります」

「ストーリーそのものの源流に、白楽天もいます」

「それらを意識して書かないと、ただの浅いブログにしか、なりません」

「やはり、九条財団の出す文章となると、それなりの深みが求められると思うのですが」


これには、強気、積極的な詩織も、青ざめている。

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