第183話都内への出発 そしてお見送りに変化。
翌朝の朝食を済ませた午前8時、麗の部屋のドアにノック音。
麗がドアを開けると、今日からのお世話係の直美だった。
「直美です、今日から一週間、よろしゅうお願いいたします」
と、深く頭を下げる。
麗は、少し驚いた。
いつもの和服ではなく、洋装。
淡い花柄のワンピースだったから。
それと和服では想像できない、スタイルの良さ、肌も白くきめ細かいので、いかにも健康で輝いて見える。
驚く麗に、直美はクスッと笑う。
「軽くなりました、動きやすくて」
ほのかな柑橘系の香りがする。
麗は、直美が部屋に来たのは、そろそろ出発の連絡と理解する。
「新幹線は9時過ぎとのことでしたが」
直美は、また笑顔。
「はい、私が責任を持ちまして」
つまり、チケットは直美が持っているという意味になる。
しかし、直美は、その後、やや不安な顔。
「麗様、誠に申し訳ありません」
「あの・・・品川から先が・・・今一つ」
麗は、直美の不安を打ち消す。
「心配はいりません、案内します」
そこまで話をして、麗は荷物を持って部屋を出る。
ただ、都内のアパートから、そのまま来たので、ほとんど荷物はない。
直美と一緒にリビングに入り、大旦那、五月、茜に挨拶。
大旦那はやさしい笑顔。
「とにかく、しっかり食べて」
五月
「直美も、不慣れだろうけれど、しっかりとお務めを」
茜は、涙目
「アパートに着いたら電話して」
あっさりめのお別れをして、玄関に出ると、全ての使用人が揃っている。
麗は全員に声をかけた。
「それでは、一週間、都内に行きます」
「皆様も、これから葵祭など忙しい時期ですが、お身体を大切に」
「また、一週間後に、お互い健康な顔を見せあいましょう、約束です」
麗は、全ての使用人が頭を下げる様子を見て、不思議に思う。
「連休の初日、ここに来た時とは違う」
「あの時は、頭を下げながら、少し横を向いたり、含み笑いをしたり、頭の下げ方も実に少しだけとか、全く揃っていなかった」
「特に年輩の使用人かな」
「それが、今はきれいに揃っている」
そんなことを思って屋敷の玄関を出ると、黒ベンツが横付けになっている。
すでに京都駅の出発時間も迫って来ているので、少しだけ振り返ってベンツに乗り込む。
黒ベンツに乗り込むと、直美が少し身体を寄せてきた。
「麗様がお見えになってから、相当雰囲気が変わりまして」
「もちろん、例の3人がいなくなったのも大きいのですが」
運転手は執事の三条だった。
とにかく明るい声。
「本当です、ようやくまともな九条家の復活なんです」
「麗様が関係筋に示されたご厚情」
「私ども使用人に対しても、実に温かい言葉をかけてもらえる」
「お世話係への筋を通した上での、分け隔てないお気持ち」
「麗様なら、安心できる」
「全身全霊でお仕えしたい、いろんなことが上手く進む」
「みんな、その気になっとります」
麗は実に不思議だった。
物心ついて以来、恵理や結、宗雄に折檻され続け、特に京都人については「完全不信」にまでなっていたことは事実。
しかし、その京都人から、こんなに明るい声で褒められ、期待されている。
それでも、麗は慎重。
「何かの間違いか、騙されているに違いがない」と、ほぼ聞き流している。
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