第181話当初のお世話係が決定 

麗と茜は街歩きを終えて、お屋敷に戻った。

玄関口で出迎えたのは、執事の三条、五月、そしてお世話係たち。


五月が麗に声をかけた。

「お疲れ様でした、まずは居間へ」


麗が頷いて居間に入り、ソファに座ると執事の三条が頭を下げる。

「お世話係の順番が決まりましたので、ご報告申し上げます」

麗がお世話係たちの顔を見ると、直美が一歩前に出た。


執事三条

「まず、当初の一週間は、直美が務めさせていただきます」

その執事三条の言葉で、直美も頭を下げる。

「心を込めて尽くさせていただきます、よろしくお願いいたします」


麗は、少し頷いただけ。

「わかりました、それでは、御準備を」

麗としては、それ以外に言葉が浮かばない。

いつもながらの地味な言い方になる。


五月が、その他のお世話係たちに指示。

「後は、麗様と、直美の具体的な相談というか、打ち合わせになるので」

「他のお世話係たちは、特に仕事があれば仕事を」

「それでも、最初の打ち合わせやから、一緒に聞いてもかまわない」


少し意味不明な麗に茜。

「つまりな、麗ちゃん、都内に戻ってからのスケジュールや」

「お世話係やから、お世話する相手のスケジュールを確認していないと、意味がない」


麗は、ようやく意味を理解する。

「つまり、授業の予定とか、プライベートな約束とか?」

麗としては、「そこまで管理されて知られるのか」と思うけれど、お世話係を受け入れた以上は、お世話される人が所在不明では困ると思う。

それに、ここでためらっていると、お世話係たちの仕事にも差し支えると思った。


茜も頷いたので、麗はバッグから手帳を出して、スケジュールを確認する。


「基本的には、大学での講義」

「一日、2科目から3科目程度」

「詳しくは、この手帳のスケジュールを確認して欲しい」

「それから、少しお世話になった人がいるので、吉祥寺の香苗さんの料亭でお礼」

「その連絡は、連休明けにと、お世話になった人には連絡をしてあります」

「それ以外には、源氏物語の講師の高橋先生との共同研究の話があって」

「共同研究をするもしないも決めていなくて、連休明けに報告をする予定」

「それと高橋先生の妹さんが香料店、おそらく都内の店になるけれど取材をするので、それに付き合う」

「特にサークル活動には参加していないので、帰宅は、概ね夕方まで」

「それ以外には・・・空き時間に本を探しに神保町まで」


お世話係は、麗の話を聞きながら熱心にメモを取る。

第一番手の直美は、特に麗の手帳を見て、驚く。

「麗様、字がお美しい・・・習字の先生みたいや」

すると、他のお世話係たちも、麗の手帳を覗き込む。

「これは・・・手帳が芸術や、見とれる」

「はぁ・・・ええな・・・」

「キリッとして、品がある」

「何かの本の題字でも・・・」


麗は、一応のスケジュールを提示したので、話題を切り替える。

「この予定もあって、他にも連休明けに、英語の提出課題があります」

「その再確認をしたいので、なるべく早く戻りたいけれど」

「一緒に上京するとなれば、少し準備を急いで欲しいのです」


すると、執事三条が頭を下げた。

「麗様、了解いたしました」

「明日の午前でよろしいでしょうか」


麗が頷くと三条。

「それでは、新幹線の手配をさせていただきます」

「それから、当面のお食事の素材につきましては、九条家で調達をして、都内のアパートに送らせていただきます、明日の午後には届けさせます」


麗は、素直な表情で頷くばかり。

しかし、心に浮かぶのは、「実に面倒で重たい」との言葉ばかりになっている。

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