第169話麗はお世話係話に困惑する。

予定された全ての面会が終わり、麗はリビングに戻った。


その麗を大旦那がねぎらう。

「どや、麗、疲れたか?」

麗は、素直に頷く。

「確かに重要な話ばかりで」


五月は、麗が面白くて仕方がない。

「みんな面白かったけれど、葵ちゃんの追っかけと、麗ちゃんの焦った顔は最高や」

「気が付かなかったとはいえ、笑える」

茜はクスクス笑う。

「どうせ同じ財団で仕事するんや、同じ大学で同じクラスで」

「同じアパートに住んだら?」

麗は首を横に振る。

「まだ話を聞いたばかりで、彼女には彼女の生活もあるだろうし」

と、麗としては「拒絶」の意志を示す。


大旦那がククッと笑う。

「と言うよりは、麗にも選ぶ権利があると言うことやろ?」

「それはそうや、いきなり顔を見たばかりで、簡単には決められん」


さて、麗としては、そんな「お相手の話」よりは、次の予定がなければ、今にでも京都から都内に戻りたいと思っている。

そのため、珍しく麗から、今後の予定を確認することになる。

「ところで、明日以降、特に面会はないとのこと」

「それ以外には何かあるのですか?」


すると五月が答えた。

「そうやなあ、少し京都を散歩してもらいたいな」

「ただ、連休で大混雑、まともな散歩は無理や」

「それでな、麗ちゃん」

五月は、ここで大旦那の顔を見た。

そして大旦那が頷いたのを確認して、話を続ける。

「麗ちゃんの、お世話係を考えとるんや」


麗は、難しい顔になった。

つまり家政婦のような人がアパートに来るのかと思い、実に面倒と感じる。

「それは・・・特に・・・困っていることはないので」


五月は首を横に振る。

そして厳しい言葉。

「何故、そんな話になっとるかは、麗ちゃんもわかるやろ?」

「もう少し食事をキチンとせな、うちらも心配なんや」


麗が黙っていると、大旦那は席を立った。

「あとは、五月と茜に任せる」

「麗が困らん程度に」


大旦那がリビングから姿を消すと、茜も厳しい指摘。

「冷蔵庫には水と珈琲豆しかない」

「一日一食?ありえん」

「大切な麗ちゃんや、自分だけの身体やない、自覚して欲しい」


麗は、ようやく口を開いた。

「ご心配をかけて、ごめんなさい」

「健康を気づかってくれるのも、うれしいこと」

「ただ、食べるだけのことであれば、僕が努力すればいいこと」

「とても、わざわざ、お世話係をつけていただくほどでは」


五月は、麗の「拒絶」の意志には付き合わない。

「もう、九条麗様や」

「都内で倒れられたら、九条家は危険なことになるんや」

「確かにコンビニも近くにあるらしいけど、そんなものを食べさせるわけにはいかん」

「しっかりと栄養価があり、材料を吟味して調理したもの」

「身だしなみも大切、どこで生活をしようと、そのお世話もせなあかん」

「それに九条家の次期当主が、洗濯から掃除など、ありえんのや」


茜の顔が柔らかくなった。

「まあ、麗ちゃんの、お世話係兼仕事上の秘書を考えとる」

「誰を選ぶか、すでに、そんな話になっとるんや」

「なるべく麗ちゃんの顔が明るくなる娘さんが、ええけど」


「そんなことを言われても・・・」

麗は、明るくなるどころか、思わぬ話に困惑するばかりになっている。

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