第158話麗は祇園の小料理屋に入る。

麗がどう思おうと、昼食は予約してあったようだ。

祇園の歴史の深そうな小料理屋に入ることになった。

その小料理屋では、大旦那と茜は、当然に顔なじみらしい。

実にスンナリと入って行くけれど、麗は戸惑う。


「まさに一見さんお断りの、敷居が高そうな店だ」

「そうやって自分たちの付き合いだけの世界、京都人だけの世界を作り」

「田舎者は、ゴミとして相手にせず」

「もちろん、京都人に紹介をされて何度も通った、一見さんではなくなった他の地方の人もあるけれど」

「そんな馴染みになった人であっても、祇園の人は心の底では、京都以外の人には厳しく差別をつける」

「そうなると、いかに大旦那と茜さんが一緒であっても、俺みたいな田舎者は、格差をつけられた接待か」

「どうせ、話題は大旦那と茜さんだけに振り、俺は無視される」

「京都生まれ、京都育ちだけが、人間であって、それ以外は家畜かゴミ虫の判断が徹底しているのが京都、しかも祇園の料亭はその最たる場所の一つ」


しかし、大旦那と茜が店に入ってしまった以上、麗としても別行動というわけにはいかない、

いつもの無表情にて、店に入る。


さて、大旦那と茜が、店の人に既に麗の話を付けてあったようだ。

麗は、その店の主人と女将、そして若い中居から、深々としたお辞儀を受ける。


主人

「ありがたいことで」

女将

「今後も気兼ねなく」

中居

「心待ちにしておりました」


麗は、ここでも違和感。

とても、心からのお辞儀とは、思うことはない。


その麗に茜が笑う。

「麗ちゃん、そんな怖い顔せんと」

「うちの母の五月の兄さんと奥さんや」

「事情は全部知っとる」

「それから中居は圭子ちゃん、うちの従妹や」

「麗ちゃんと同い年や」


茜の紹介で、三人が顔を上げて、笑顔を麗に見せるけれど、麗は表情を緩めない。

ただ、「はい、わかりました」と頷くのみ。


奥まった座敷に案内され、食事が始まった。

ランチのコースながら、前菜 、お造り、 焼物 、煮物、 油物、 酢の物替わり、 食事 、 留椀、 水物と出される本格的なもの。

また、料理の素材や調理方法も、丁寧でしっかりとしている。

器も麗が驚くほど、料理に合っていて、食欲をそそる。


大旦那が麗に声をかける。

「どや、口に合うか」

麗は、素直に答える。

「はい、ありがとうございます、美味しく食べております」

その麗の答えがうれしかったようだ。

中居の圭子が、パッと笑顔になる。


茜も麗に声をかける。

「どや、麗ちゃん、料理も美味しいけど、圭子ちゃんも可愛いやろ?」

と、少し含み笑い。


麗は、その名前まで言われたら仕方がない。

茜の従妹との関係も考える。

そして麗にしては、実に珍しい女性に対する褒め言葉。

「はい、しっかりとして、愛らしいお嬢様と」


麗の言葉に真っ赤になった圭子を見て茜が、また笑う。

「何や、麗ちゃん、同い年やって言ったやろ?」

「それをお嬢様なんて言わんと」


大旦那も笑っているけれど、麗はそれ以上は反応しない。

時折、源氏やら古文のことで、女将に話しかけられても、適度に答え、頷く程度。

その答えとして出て来る言葉に、女将や中居の圭子が、時折目がうっとりするけれど、麗は、ほぼ無表情。

食事も半分食べたところで終え、ゆっくりと緑茶を飲んでいる。



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