第134話麗の「帰省」。大旦那の専門分野。

麗は、従兄隆の御見舞いということで、京都に出向くことになった。

「数日間泊まらせてもらうことに?」

と尋ねると、大旦那が首を横に振る。

「そうやない、帰省するんや」

「お前の実家や、本当の」


茜が笑って

「荷物の準備を手伝うよ」

と言ってきたので、二人で麗の荷造りをする。


「持っていくのは、最小限でいいかな」

「読みたい本とスマホくらい」


麗は意味不明。


その麗に茜。

「京都で着る服一切は、京都で買うよ」

「そうすれば、移動の際に持ち運ばなくていい」

「それと、時間が許せば、明日は麗ちゃん好みの服とか家具を買いに行く」

「部屋は兼弘父さまが使っていた12畳の洋間」


麗は、ポンポンと話が進み、ただ頷くのみ。

結局、九条の御屋敷に持ち込むのは、読みたい本とスマホ程度になった。


それでも麗は気がついた。

「あの、パソコンも」


すると茜が首を横に振る。

「いらん、財団で四月の最新型を買うてある」

「ネット環境もバッチリ整備済み」

「麗ちゃんの今使っているののよりも、新しい」

「容量もスピードも全然違う」


麗は、安心した。

「オフィスの365にしてあるから・・・どこでも打てるのか」

「宿題が出ても大丈夫かな」

「東京で半分書いて、京都で仕上げてもいいんだ」


簡単な荷造りを終え、大旦那がいる部屋に戻ると、大旦那は麗の本を読んでいる。

カエサルのガリア戦記だった。


大旦那

「これも懐かしいな、学生時代は熱中して読んだもんや」

麗は驚いた。

まさに日本文化そのものの大旦那が、まさか古代ローマの本を読む、しかも学生時代に熱中したとは思えなかったから。


驚く麗に大旦那は真面目な顔。

「まあ、京都がいくら古い言うてもな」

「このガリア戦記は2千年前や」

「それに、実に品格のある文章の展開や」

「古代ローマ世界は、この品格ある文章を書く男に、計り知れない影響を受け」

「今でも、その影響が残る」

「確かに、暗殺をされた」

「先が全く読めていない視野の狭い阿呆たちに」

「しかし、暗殺されたとて、結局はカエサルの考えた、描いた政策を踏襲するしかなかった」


茜が麗にささやいた。

「大旦那様は、西洋史が専門なんや、実は」

「まあ、京都では語らんけど」

「何か不思議なペンネームを使うて、本を出しとるかもしれん」


麗が驚いたままでいると、大旦那が麗に尋ねた。

「なあ、麗、古代ローマで好きな皇帝のタイプは誰や」


麗は、素直に答えた。

「好きなタイプと言えば、僕は初代のアウグストゥスに」


大旦那は「ほお・・・」と目を細めている。


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