第105話結局麗は、誰も信じない。

叔父晃との電話の後、麗はベッドに横になり、いろいろと考える。


「跡継ぎだとか、世間の評判とか」

「実に京都らしい」

「下手をすれば、相手も決められて来る?」

「18歳で見合い?」

「それを叔父に言われるとは?」

「九条の大旦那は、そこまでは言うまい」

「そもそも親が言うべきでは?」

「あてには全くできない親だけど」


親のことを思い出したら、腹が立つ。

「何しろ会話がない家だった」

「親父は、人目がなければ、必ず殴る、蹴る」

「それも血が出るまで続く」

「泣けば、ますます、ひどくなる」

「だから気が済むまで耐えるしかなかった」


「母親は、見ていても止める仕草をするだけ」

「結局、部屋の隅で泣いていただけ」

「結局、両方とも、俺を大切にしようなんんて気持は、サラサラない」


妹の蘭を思い出した。

「蘭だけは、見つければ止めに来た」

「でも、親父の暴力は止まらない」

「結局、蘭も母親と泣いているだけ」

「何の助けにもならない」


「だから、結局、何をされても、黙っているしかない」

「笑えば、馬鹿にしているって殴り蹴り」

「黙っていても、気に入らなければ同じ」

「酔っぱらってビール瓶で殴られたことも」

「首も絞められたこともある」


「お年玉も、全て没収だ」

「晃叔父からも九条の大旦那からも、厚い・・・一万円札が何枚も入ったお年玉袋」

「あれは嫌だった」

「あの後、親父がひっぱたいて取り上げて、酒に酔って殴るし蹴るし」

「死ね!とか」

「このゴクツブシとか」


麗は、首を横に振った。

「そもそも、あんな家族がいて、どうして結婚式が出来る?」

「俺は新婦の前で、殴られ蹴られるのか?」

「それを京都で出来るのか?」

「それを見られただけで、京都では生きていけない」

「家の門から出ることは無理」


九条の大旦那と茜の顔が浮かんだ。

「まあ、適当なことを言って、はぐらかそう」

「受けるような顔をして、実行や結論は先延ばし」

「先延ばしを続けて・・・後は知らんぷり」

「京都人の手法を使えばいいだけのこと」

「何も悩むこともない」

「そもそも、あの家族では、京都では結婚式は出来ない」

「だから、俺には結婚は無理」


山本由紀子、麻央と佐保のことを考える。

「山本さんは、癒される」

「少々、年上過ぎて、恋愛感情など芽生えないのがいい」

「ただ、山本さんは、田舎者の面倒を見て・・・野良犬や野良猫の世話をした程度かもしれない」

「単に善良な人であるだけ、俺にではなくて、誰でもよくて、善良な行為をしたかっただけだ」


「それは麻央も佐保も同じ、俺を遊んでいるだけ」

「こんな地味な、田舎者の俺だ」

「今は、田舎者過ぎて面白いから遊ぶだけ」

「遊ぶだけ遊んで、飽きればごみ箱だろうな」

「簡単なことだ、何しろ、自由が丘育ちのお嬢様二人だ」

「言い寄る男には不自由しないはず」

「だから、いつまでも信じてはいけない、気を許すべきでもない」


麗は、京都に縁がある桃香や美里などは、全く考えもしない。

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