第77話麻央が香苗に「麗を引き受ける」と告げる。

困惑する麗の背中を麻央がトンと軽くつついた。

麗が驚いて麻央を見ると、麻央は落ち着いて頷き、その手を差し出す。

佐保が麗に「麻央に任せて、スマホを渡して」と耳打ちをする。


麗が首を傾げて、スマホを麻央に渡すと、さっそく麻央が話し出す。

「麗君のスマホで申し訳ありません、私、高橋麻央と申します」

講義中の麻央のキリッとした話し方になる。


女将香苗は驚く。

「え・・・それは・・・今は先生と麗君はご一緒で?」

麻央

「はい、当方でも、三井芳香の不穏な情報を確認しておりまして」

「誠に申し訳ありません、本学の学生が御迷惑をおかけいたしまして」

「今は、麗君を久我山ではなく、私の実家にて、保護をいたしております」


女将香苗は、麻央のテキパキとした話し方に、驚きもおさまった。

「はい、ありがとうございます」

「実は偶然だったのですが、麗君は私の古い友人の息子さんでしたので、心配しておりました」

女将香苗は、麗のお願い通りに、京都のことは言わない。

麗は、それで少し安心をする。


麻央は、納得したのか、言葉の調子をやわらげた。

「本学でも、事件などが発生すれば、その当事者の生徒だけではなく、大学全体の動揺や名誉に関わります」

「出来るだけ、被害が発生しないよう、麗君が問題なければ、私の自宅にて当分、保護をいたしたいと思っております」

「もちろん、御両親にもお伝えいたします」


女将香苗は、現時点では、承諾する以外にはないと理解した。

「わかりました、それでは、麗君の親御さんへの連絡もお願いいたします」

「私からも、その旨を伝えておきます」

「本当に、ありがとうございます」


麻央は、そこまで話して、スマホを麗に戻した。

「香苗さん、しっかり話が出来なくてごめんなさい」

「今、高橋先生の言われた通りで、少しの間、部屋を借りるかもしれません」


女将香苗の口調も柔らかい。

「わかりました、私は麗君に何か危険がなければいいの」

「後は、大人の女性を信じて」

「高橋先生は、何度もお店に来られて、しっかりとした女性」

「安心して任せられるから」


「心配かけてごめんなさい」

女将香苗

「いや、麗君が謝ることではないよ」


女将香苗と、麗に麻央がフォローした話は、そこで終わった。


麗は、再び、ベッドに横たわる。

「麻央先生、ありがとうございます」

と素直にお礼。

麻央は、麗を横抱きにする。

「ふぅ・・・疲れたかな・・・癒して」

佐保も安心したようで、麗を抱く。

「さすが麻央、キレキレトークは任せられるでしょ?」

麗が頷くと、さっそく二人の愛撫が始まっている。



女将香苗の目の前で電話を聞き取っていた桃香は、複雑な表情。

「まあ、あのしっかりとして、きっちりとした先生なら大丈夫かなあ」

「でも、当分、麗君に逢えないなあ、寂しい」


女将香苗は、少し危ういと思うけれど、どうにもならないのも事実。

「なあ、桃香、男女の仲や、どうなるかわからん」

「ましてや麗ちゃんやろ?麗ちゃんに、その気がなくても」

「・・・でも・・・今は預けるしかない・・・」


桃香は、麗を思いやった。

「実家の自分の部屋をつぶされたのも知らず、アパートにも戻れず・・・」

「可哀想や・・・麗ちゃん・・・ちゃんと住む場所がない」

桃香は、とうとう泣き出してしまった。

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