第48話麗が忘れていた三井芳香情報、高橋麻央のお願い
麗の授業は午後から、先週一悶着があった高橋麻央の「源氏物語講義」となる。
麗としては、「あの日限り、今後は古典文化研究会に参加しない」と決めているので、講義中の高橋麻央の視線も、全く気にしない。
普通に講義を聞き、講義が終われば、そのまま席を立ち、教室から出ようとする。
しかし、やはり高橋麻央に呼び止められた。
「ちょっと、麗君」
高橋麻央の表情は、少々厳しめ。
麗としては、古典文化研究室に出向かないことを責められると思い、少々困惑する。
「はい・・・何か」
高橋麻央は厳しい顔のまま。
「あのね、三井さんのことなの」
麗は二重の意味で首を傾げる。
一つは、麗が古典文化研究室に出向かないことを責めるのではないこと。
もう一つは、麗が全く興味がない三井芳香の名前が出たこと。
麗自身、三井芳香の顔さえ、実はよく覚えていない。
麗は「はい」と応えて、取りあえず聞くしかないと思った。
高橋麻央
「あのね、三井さん、自分のアパートで転んで頭を怪我したみたい」
「何でも、お酒を飲んで、転んだようなんだけど」
麗は、また首を傾げた。
「それが、僕に何の関係が?」
麗としては、アパートに行ったこともないし、そもそもアパートがどこにあるのかも、わからない。
高橋麻央の顔が曇った。
「救急車で運ばれたみたいだけど、病院でうわ言だけど、麗君の文句ばかり言うみたいなの」
「それも傷をつけたいとか、殺してやるとか」
「私も、お見舞いに行って言われたけれど・・・実に支離滅裂で」
「三井さんのご両親も呆れているほど」
麗は困った。
「僕は、三井さんに全く興味がありません」
「呼び止められたことはあるけれど、呼び止めた理由も言わないので」
高橋麻央も、それには頷く。
「大丈夫、私もそれは見ていたから」
「麗君は、何も間違っていない」
麗は高橋麻央の顔を真っ直ぐに見た。
「僕は、何も犯罪を犯してはいません」
高橋麻央は頷いたけれど、すぐに首を横に振る。
「いや、麗君ではないの、問題は三井さんなの」
麗がまた首を傾げると高橋麻央。
「三井さんが、ストーカー気味になる・・・いや・・・なっていたのかもしれない」
「住所まで私に聞いて来たもの、教えなかったけれど」
麗は、ようやく事態を察した。
「要するに、注意をして歩きなさいと?」
高橋麻央は頷いた。
「日向先生にも相談したの、そうしたら、この状態で麗君を古典文化研究室に出入りさせるのは実に危険ということ」
「三井さんは、何をするかわからないし、そんな揉め事で、将来優秀な若者に傷をつけたくないとも、言われた」
麗は、ここで少しだけ、ホッとした。
三井芳香は危険と思うけれど、これで古典文化研究室に出向く必要はない、それが大きい。
高橋麻央の話は、まだあった。
「でもね、私も日向先生も、麗君には興味があるの」
「それだけはわかってね」
麗も、高橋麻央や日向先生に悪意まで感じているわけではない。
そのため、「はい」と頷くより他はない。
すると、高橋麻央は笑顔、麗の手をいきなり握った。
「ねえ、麗君、お願い、研究助手をして欲しいの!」
麗は、またしても困惑顔となっている。
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