第362話
冒険者ギルド会館へ向かっている途中、呼ばれた理由をリゼは考えていた。
しかし、アンジュの考えを聞いたことで解決した。
「今朝、正式にシアトム王子が亡くなったことが発表されたそうよ。そして国葬の日程もね。多分、シアトム王子の喪に服することや、国葬の日程と関係して、訓練場の使用が出来なくなるってことじゃないかしら」
別日への延期だと思うが、すでに訓練場の予約もあるため、希望した日にならない可能性もある。
ただ、別日への延期に関しては、金狼への確認も必要になる。
一応、金狼と銀翼とで申請を出していたからだ。
だが、冒険者ギルド会館に到着すると、ナナオがいたことで状況が理解できた。
やはり、アンジュの言う通りシアトムの国葬があるため、訓練場の使用が許可できなくなったということだった。
別日への変更も検討していたが、金狼はすでに受注しているクエストがあり、別日次第では日程が重なる可能性もある。
「……銀翼がよければだけど、私たちの稽古場を使うのはどうかしら?」
ナナオが代替案を口にするが、冒険者ギルド会館の地下訓練場とでは強度が違う。
物理攻撃もそうだが、魔法攻撃への対策が違っている。
当然、ナナオもそのことは承知だった。
「有り難いことですが、本来の目的と変わってきてしまいますので」
「そうよね、仕方ないわ。そもそも、本来の目的は銀翼の入団試験だから、私たちの都合は二の次ね」
「コウガさんから、文句言われませんか?」
リゼの言葉に、ナナオが苦笑いして答える。
「言うでしょうね。でも、仕方ないわよね。最悪、あなたとだけでも戦わせろっていうかもしれないから、その時は覚悟しておいてね」
「はい、大丈夫です」
迷わず答えたリゼに驚くナナオだったが、すぐに笑顔になる。
「なるほどね。コウガたちが、あなたに執着する理由が分かった気がするわ。あなたも私たちと同じなのね」
「……同じ?」
「えぇ、戦闘狂ってことよ」
「私は違うと思います」
「そう思っているのは自分だけってことよ。そのうち、気づくと思うわ。その時は受け入れることね」
ナナオの言葉に納得していないリゼだったが、その横で話を聞いていたアンジュとジェイドは、少しだけ納得していた。
「そういうことなので、銀翼が都合の良い日を決めてくれていいわ。そのあとで、私たちにも教えてくれるかしら。シアトム王子の国葬で、私たちのクエストにも影響は出ているようなので、とりあえず申請は銀翼だけってことでいいわ」
「わかりました」
「じゃあ、私は帰るから。あとで金狼郭に寄ってもらうか、夜に誰かを銀翼館に行かせるわ。私としても戦える日を楽しみにしているわ」
冗談か本気かわからない言葉だけ残して、ナナオは冒険者ギルド会館から去っていった。
すぐに、アンジュが受付嬢と訓練場の使用日について調整の打ち合わせを始めると、リゼとジェイドは後ろで一緒に話を聞く。
シアトムの国葬が二日間あり、それから十日後からしか空いていなかった。
かなり延期されるが、悩むことなく、その日に決定する。
銀翼館に戻らず、このまま金狼郭に向かう。
だが、念のため受付嬢には金狼のコウガかマリック、あるいはナナオが、冒険者ギルド会館に来たら伝えてもらうように伝えておく。
「ちょっと、話があるっス」
冒険者ギルド会館からの金狼郭に向かっている途中、ジェイドが口を開く。
「歩きながらでも大丈夫?」
「う~ん。できれば座って話をしたいっス」
「わかったわ」
ジェイドの様子に、いつもとは違うと感じたアンジュとリゼの視線が交わる。
そして、ジェイドの要望に従うことにして、目に入った飲食店に入ることにした。
「いらっしゃいませ」
威勢の良い声で迎え入れられる。
「個室って、空いている?」
「はい、ご案内しますね」
従業員が三人を奥の個室に案内する。
「ここは、ジェイドの支払いだからね」
「いいっスよ」
ジェイドの言葉に、アンジュは隠れるように笑った。
四人掛けにアンジュとジェイドは向かい合わせに座り、リゼは入り口に近い二人の間に座る。
従業員が注文を聞きに来て、ジェイドとリゼが頼み、最後にアンジュが注文を言うと、三種類の飲み物と二種類の食べ物を従業員に告げた。
驚くジェイドだったが、「支払いはジェイド」という言葉をリゼは思い出した。
他人の財布なので、気にすることなく思う存分注文したのだろう。
従業員が部屋を出ると、すぐにアンジュが表情を変えた。
「っで、話ってなによ」
「……そのっスね」
言葉を選んでいるのか、思うように言葉が出てこないジェイド。
苛立つアンジュは、ジェイドを責め立てる。
「その……どうやら自分、フィーネのことが好きみたいっス」
「はぁ‼」
「えっ!」
リゼもアンジュも変な声を出した。
「な、なにを言っているの」
あきらかに動揺しているアンジュは、ジェイドに言葉の真意を聞こうとしていた。
「その、自分でもよく分からないっス。でも一緒にいると……なんとも言えない気持ちになるっス」
「……はぁ」
大きなため息を吐くアンジュの表情は険しかった。
「ジェイド。銀翼はクラン内での恋愛禁止ってことを知らないはずないわよね」
「もちろんっス。だから、フィーネに気持ちを伝えるつもりはないっス。自分かフィーネのどちらかが銀翼から去る時までは、黙っているつもりっスよ」
真剣な表情で話すジェイドだったが、アンジュは冷ややかな目で見返している。
「なんで、このタイミングで話したのよ」
「フィーネたちの試験前に話すべきだと思ったっス。あとから話せば、試験に不正をしたと思われるかもしれないっスから。もちろん、試験で手を抜くつもりはないっス。フィーネは自分よりも強いと思っているっスから」
「そういうことね」
今度は小さく息を吐き、気持ちを落ち着かせていた。
(アリスお姉様だって、必死で気持ちを隠していたのに――)
クウガを想っていたアリスのことを思い出す。
必死で気持ちを隠していたが、アンジュはアリスの気持ちに気付いていた。
いいや、誰も口にはしていないが、当人のアリスとクウガ以外は気付いていたに違いない。
簡単にフィーネのことを「好きだ」と宣言するジェイドに対して、耐え忍んでいたアリスの気持ちを踏みにじられた思いと、仲間に裏切られたという思いが入り混じり、ジェイドに対して怒りを感じていた。
一方のリゼは変な感じだった。
小さい頃より一緒に過ごしたフィーネと、ジェイドが結ばれるかもしれない……と考えると、不思議な気持ちだった。
恋愛という感覚が欠落しているリゼにとって、共感できる部分が一つもないからだ。
「破ったら、ジェイドはクラン追放だから……分かっているわよね」
「もちろんっス。絶対に告白はしないっス。まずはフィーネよりも強くならないと駄目っスから」
「絶対よ」
「絶対っス」
「このことは、ここにいる三人の秘密ね……リゼも、いいわよね」
「うん。口外しないと約束する」
恋愛の縺れから崩壊したクランのことが、アンジュの頭の中を過ぎる。
一番最悪な状況に、まさか自分たちもなる可能性があるとは思ってもみなかった。
フィーネに気持ちを聞くことは出来ないが、ジェイドが約束を守ってくれることだけ信じるしかなかった。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十八』
『魔力:三十三』
『力:三十三』
『防御:二十一』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百四十三』
『回避:五十六』
『魅力:三十八』
『運:五十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:
■シークレットクエスト
■罰則
・身体的成長速度停止。期限:一生涯
・恋愛感情の欠落。期限:一生涯
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