第2話 評議会
魔導国評議会。この国の最高意思決定権を持つメンバー全員が一堂に会している。
そこはドーム状の空間が広がりっており、そこを中心に10つの演台が大きく円形に囲み、中央の空いた空間にはほんのりと青い光が浮かぶように灯っている。
評議員は全員白のフード付きローブを着用し、金の刺繍で縁取りされたフードを深深と被っているため顔は隠れている。
彼らについては魔道国内においても深く知るものは殆どおらず、謁見することすら滅多にない。
外見から得られる人物像も、嗄れた声や白い髭を蓄えた口元が覗いているため、老年の者だとわかる程度だ。
そんな彼等が緊急会議を召集した。もちろんそれは件の、訓練修了生の魔導器授与式で起こったことについてである。
「さて、諸君。件の…"鍵"が召喚されたことに関して集まってもらっ訳だが」
そういうと評議員の一人が周りを見渡す。
見えない顔からは、神妙な面持ちで黙している様が見えてくるかのようだった。
そこにいる誰もがその"鍵"と呼ばれるそれを知っていたからだった。
「皆があれを一目で本物だと認識したのを分かってはいるが、彼の者から一時的に借り受け改めて文献や伝承と照らし合わせ調べさせてもらった。その調査結果をまずは報告してもらおう」
別の評議員が手を軽く挙げ、引き継いで話し始める。
「まず我々が長い月日をかけて各地にて収集してきた伝承のうち、"鍵を持つ者"についてのもの、及び前鍵の所有者であり我等が師、アイザック老から伝え聞いた伝承から照らし合わせるに、形状や装飾が同一のものだと確認出来た」
当然のことかのように皆黙したまま静聴している。
「次に文献…最も"鍵"について具体的記述のある創世の物語にはこう記されている」
──その鍵は七つの実がなり、いかなる大地にも張る白銀の根を持つ生命の木だった。その鍵は創造界に隠され、相応しき者の前に現れるとされる。──
「これを踏まえた上でこれをご覧頂こう」
そういうと手を前に、中央に向けかざす。すると、ほんのりとした青い光が漂っていた空間に例の大剣が現れた。しかし、それは半透明で質感の感じられないもので、それは魔術により作られた虚像であることが分かる。
「まさに伝説に語られる『鍵』そのものと言うべき形状をしている事が一目瞭然だということが分かる」
「ううむ」「これ程までとは」と唸る声が上がる。
「以上のことより、あの大剣はまさに『鍵』そのものである、と結論付けた。皆も異論はなかろう」
そこには同意の静寂だけがあった。
「次にその"鍵"の材質や働きについて調査した」
再び皆の目が報告者に集まった。
「"鍵"の柄の部分や刀身の両端……本来はがある部分の材質は非常に頑丈で硬く、今まで見たこともないような金属が用いられていた。それは伝説のみに存在が伝わる、アダマンタイトなのではないかと思われる」
「アダマンタイトだと……」と驚きの声が漏れる。
無理はない。それは神話にのみ登場し実際にはないといわれる金属の名前だったからだ。金属を熟知している山の民ドワーフに聞かせても同じ感想を持つだろう。
皆の驚きを他所に報告は続く。
「刀身の腹にはほぼ同等の硬度を誇るが色は銀色で、魔力伝導が非常に優れている金属で出来ている。そして剣先から徐々に純度が増し、切っ先に至っては純度100%その金属で出来ており、白銀に輝いている。恐らく硬度を保ちつつ使用者の魔力を手元から切っ先に伝えるために、アダマンタイトとその白銀に輝く金属との合金が使用されたのではないかと考えられる。柄の部分にも螺旋状に銀色の金属が埋め込まれているのがみうけられた。」
「ありえない!!」
一人が信じられないものを見るかのように目皿のように開き言い放つ。
「そんなどちらも御伽話のものでは無いか!アダマンタイトに加え、神の金属が使われているだと!?馬鹿馬鹿しい!」
鼻息を荒くしながら捲し立てる。
「そのまさか……だ。実際に魔力伝導度を調べた結果、切っ先にて魔力の超伝導を確認できた」
男は淡々と冷静に事実のみ伝える。
その男はそれを聞くと、喘ぐような音にならない言葉を発するしか出来なかった。
「確かにミスリルが使われているわけだな?」
別の男が静かに問いかけると、報告者が頷く。
沈黙が広がる。
国宝級の代物、がある日突然になんの前触れもなく現れたのだから無理もない。
しばらくの静寂のあと問いかけがあった。
「それで召喚者以外でも"鍵"は使えるのか?」
ここにいる誰もが最も知りたかった問に皆の興味が飛びつく。
「いや、それがなんの反応もなく魔力がただ流れるだけに終わったのだ。」
再び沈黙。
「では仕方ない。あの少年にはまだ利用価値があるということだ……」
顰めるように呟く声が静寂に木霊する。
「彼を利用すれば当初の計画も早まろうぞ。早速前線の侵攻部隊に投入するのはどうだろうか?」
「いや、まだ"鍵"の力が如何なるものか分からずに死んでしまっては困る。ここは侵略済みの拠点近くで、敵兵の残党狩りの任に就かせて試用期間を設けてみよう。さすれば鍵の力と手駒として彼奴の利用価値も見極められよう。」
「ただ『鍵』が現れたということは奴らも動き出す。警戒レベルを最大に引き上げなければ。いくらか兵士を首都へと帰還させ防衛戦力を固める必要があるな」
「侵攻の手は緩めるか?」
「いや、敵国にこちらの動きを悟らせてはならない。前線部隊は侵攻を続けさせ、攻略済み都市の待機兵たちを防衛の任に就かせれば良い。念の為……『イカロス』の起動も視野に入れて動く必要があろう」
「首都から鍵を離すことで被害も最小に抑えられ、侵攻軍と防衛軍とで挟撃するというわけだな」
そういうと妖しく笑みを浮かべる。
「彼奴には死なない程度に囮になってもらい働きによってその後の取り扱い方も測れるという訳だ」
「では計画を続行させるとしよう」
仄暗い空間に立ち並ぶ白いフードの男たちの顔は、死者のように青白く照らされ死神が笑みを浮かべているかのようであった。
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