episode12 大衆食堂たまきの親子丼
第18話
「
――『
弟の
――『場所は、俺たちの家から徒歩十五分くらいかな。マンションの一階に入ってる店の一つで、メニューが
決まりが悪くなった果澄が『仕方ないでしょ。当時は、そんなに翠子と話さなかったんだから』と言い訳すると、『鮎川先輩と同じ中学校に通ってたのに、『たまき』のことを知らない人間のほうが、少数派だと思うけど。姉貴の友達だって、知ってたくらいだし』と言い返された。それから、やれやれと言いたげな顔で付け足してくる。
――『気になるなら、行ってみれば?』
――『え?』
きょとんとする果澄に、透は
――『鮎川先輩の両親の店に。『たまき』のことが気になるんだろ?』
――『あ、えっと……うん』
透に言われた通りなので、果澄は頷いた。翠子の両親が
――『前に食べた親子丼、すごく
*
そんなやりとりを
ドキドキしながらお店に近づくと、ちょうど引き戸がガラリと開いて、中から家族連れの客が出てきた。両親と幼い子どもの三人連れは、満足げな顔で
店内は
――翠子の母だと、一目で分かった。翠子よりもつり目で、少し気が強そうな顔立ちだが、客に向ける笑みの明るさにはパワーがあり、整った
「翠子?」
思わず
目を見開いた翠子が、隣の料理人に声を掛けて、厨房を出た。そして、あっという間に引き戸を開けて、驚き顔で果澄を
「果澄? どうしたの?」
「えっと……ごめん、突然押しかけて」
「なんで謝るの? というか、うちの店のこと、知ってたんだ」
翠子は、不思議そうな顔をしている。果澄としても、翠子が『うちの店』と言う場所が、『波打ち際』以外にも存在したことを、
透に『たまき』を知らない地元民は少ない、と言われていた手前、翠子が気を悪くしないか心配だったが、
「それで、来てくれたの? わあっ、嬉しい!」
そのとき、店内から「翠子、お友達?」と女性の声が掛かり、先ほどの店員が近づいてきた。振り返った翠子が、明るい口調で「果澄だよ。『波打ち際』の」と伝えると、女性は目を
「こんにちは。初めまして、乙井果澄と申します」
「いらっしゃい。翠子の母です。今日は、来てくれてありがとう」
翠子の母が、
果澄が「そうなんだ」と相槌を打っていると、翠子の母――
ちゃん付けで呼ばれた果澄は、少し照れてしまう。もう二十八歳の大人だが、翠子の母から見れば、子どものようなものなのだろう。
「どうも。翠子の父です。娘がいつもお世話になっております」
声音が優しく、
「せっかく食事に来てくれたんだから、
「果澄、こちらのテーブル席へどうぞ」
笑みを輝かせた翠子に、窓際へと案内された。四人掛けのテーブル席だと気づいた果澄は、少し腰が引けてしまった。
「テーブル席なんて、悪いわよ。私、一人で来たのに……」
「いいの、いいの。もうすぐランチタイムが終わるから。それに、あたしも座らせてもらうし。いいでしょ、お母さん」
「もちろん。もう座って休んでなさい。果澄ちゃんと一緒に、お昼ごはんを食べるつもりなんでしょ?」
「うん! ありがとう! 果澄、ちょっと待っててね。エプロンを外してくるから」
快活に言った翠子は、店内の奥の扉に向かった。一人になった果澄は、先ほどから気になっていた店内の壁を見渡して――
店内の壁には、メニューの
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