第3話 想いの力 〜直緒&友美〜
『友美』
憎念の気配がする現場に駆けつけて状況を一瞥する私たち。だけど、直緒は不安そうに弱音を漏らす。
「大丈夫かなぁ」
「たとえ不安だったとしても、大丈夫と思うことが大事」
そんな直緒の肩に手を置き、励まし言葉をかける。
「そうだったね」
私の言葉が届いたのか、直緒の表情は晴れた。
「それに私もついてる」
ついでに、自分を戒めるために、直緒に聞こえるか聞こえないかくらいの声でそう呟く。言ってみて思ったけど、聞こえてたらめっちゃ恥ずかしい。
聞こえてるかどうか直緒を見てみると、すでに臨戦体制に入ってる感じ。まあ、聞こえるわけないか。
余計な心配を一個解消し、周囲を見渡してみる。うん、誰にも見られてない。
「今なら変化して大丈夫」
そう直緒に合図を出す。なんでこんな確認をするかと言えば理由はいろいろあるけれど、姿が変わるところを他人に見られたくない、これに尽きる。
直緒がポーズを取り始め、変化の準備に入ってる。
それに遅れを取らないよう私も、光のラインが入った左手を胸に当て、右手を水平に突き出し、半円を描くよう左手のところに持っていき、両手でハートを作る。そのハートを身体の前に突き出し、身体を抱きしめるよう一気に両肩を掴み、そして叫ぶ。
「情愛変化!」
その瞬間、両腕の光のラインが全身に広がり、私は光に包まれ瞬間的に変化する。まるで女児向けアニメの変身ヒロインみたいに。
横を見ると直緒も変化が終わって、装甲を身に纏っている。
「お互い準備はできたようね」
「さあ、行こう!」
そう言いながら直緒は状況も確認せず、一目散に駆け出してしまう。
「ああ、ちょっと!」
声をかけるけど、私の制止も御構い無しだ。
「もう、しょうがないなぁ」
直緒は純粋で真っ直ぐだ。だから、たまーに自分の事に全力で突っ走っちゃうことがあるんだよね。それが直緒のよさでもあるんだけど。
私は呆れながらも現状を分析してみる。
とりあえず数は多いけど、そんなに密集はしてない。
ならばこいつの出番ってとこね。
背中に差している刀を抜き、迫り来る憎念に剣先を向ける。
刀身が日光を反射して鋭く、美しく輝く。鋼のように輝くこの刀も、憎念を切り裂き倒すという、私の想いが具現化したもの。
その想いを遂げるため、刀をその手に私は駆け出す。予備動作ほぼ無しに初速から全速を出し、憎念が防御態勢を取る隙を与えない。
間合いに入り込みながら、刀を振り上げ、呼吸を止める。そして「斬る」という想いを胸に抱き、
「ハァッ!!」
と左肩から右腰に向かって一思いに振り下ろす。
刃が憎念の肩に触れようがその勢いは止まらない。虚空を斬り裂くが如く、裂けてゆく。だらりと胴の横に置かれた右手も、胴を抜けた刃に巻き込まれ切り飛ぶ。
私は目を見開き、消滅した憎念の向こうから現れる次の得物を、そいつを消滅させる方法を見据える。
「せいっ!」
振り下ろした刀身をそいつの腹部へと流れるように突き立て、
「うらぁあああ!!」
そのまま上段へと構え、薪割りをするように迫り来る敵を縦に真っ二つ。
その後も迫り来る憎念を斬り続け、攻撃してくるやつの攻撃をいなしながら、カウンター的に蹴りや拳を当てて後ずらせ、斬る。
「フッ!」
斬り上げると同時に真上に刀を投げ、飛びかかってくる憎念を空中で斬る。
落ちてくる刀の柄をハイキックするように足裏で掴み、
「うらぁああああ!」
回し蹴り、三体ほどまとめて倒す。
刀を手に持ち直し、一息ついて周囲を見てみる。私の周りの憎念はあらかた片付いたか。まだ奥の方にはまだまだいるから、休んでもいられない。残った憎念を倒すべく、その方へ向かって駆け出す。
「うわっ!!」
突然の悲鳴。
その方を見ると、直緒が転倒してしまっている。慌ててブレーキをかけ、直緒の方へ向き直る。
直緒は敵陣のど真ん中、仰向けで無防備に倒れている。どう見たって大ピンチ。
直緒を守らなきゃ!
どうやって? おもむろに駆け出して行って、その後も切り込んでいった直緒と私の間には結構な距離。走っても間に合わない。
直緒の周りの憎念は距離を詰めてる。このままだと本当に直緒が危ない。
なんとしても、絶対助ける!
私のその想いに反応して、右手に小さな炎が灯る。
私は直緒を助けたい。その想いを燃え上がらせて、燃える想いを右手に宿せ!
私の右手が激しく燃える。
この力を、想いを解き放て!
「ストライクファイアー!!!」
────────────────────
『直緒』
両手を振り下ろさんとする憎念の攻撃に身構えたそのとき、突如として目の前は炎に包まれ、私の周囲にいた憎念はその炎に焼き尽くされた。
炎の来た方を見つめると、友美が右腕を突き出している。友美はその手を下ろし、私の方へと駆け寄る。
「直緒、大丈夫?」
「ありがとう! 危ないとこだったよ」
あと一瞬でも友美の援護が遅れていたら、私はダメだっただろう。
「無事でよかった」
「やっぱ、友ちゃんは強いね。それに比べて私はダメダメだ」
あれだけの力を目の当たりにすると、どうしてもそう思ってしまう自分がいる。
「そんなことない!」
友美は私の言葉を否定する。
「私は直緒を守りたいって想いを形に、力にして放っただけ」
「でもそれは友美だからできただけで、私にはまだ──」
私の弱気を断ち切るように、友美は私の言葉を遮る。
「それは直緒にだってできる! だってそれは、私たちが持つ特別な力だから」
「特別な力?」
「そう。直緒、あなたの想いを力に変えるの!」
「私の……想い」
「そう今のあなたが心に抱えている想いは何?」
私の想い、それは──。
「私はみんなを守りたい!!」
その瞬間、風に吹かれたように髪の毛が逆立つ。そして、身体の奥底から、いや心の奥底から力が湧き上がってくるのを感じる。心なしか身体もさっきより軽い気がする。
向こうの方にいる憎念たちを眺める。
その景色を見ても私の心に不安感はない。私の心にあるのは、みんなを守るんだという想いだけ。
その想いが私に勇気と力を与えてくれる。
「さあ、行こう!」
────────────────────
『友美』
直緒が自分の想いを叫んだ瞬間、彼女の力が増すのを感じた。
逆立った髪の毛がその表情を隠していたけど、その髪が下りたところにいたのは凛とした表情をする直緒だった。その表情には不安も、調子づいたことからくる蛮勇もない。
みんなを守るんだという、純粋な想いと覚悟。
「さあ、行こう!」
そう言って、直緒は向こうの方にいる憎念へと駆け出して行く。
直緒は覚悟を決めて、自らの想いを力にした。だから、私も負けてはいられない!
私は燃え盛る想いを宿したヒリつく右手で、手にする刀の刀身を撫で、その想いを刀に宿す。刀身は激しく燃え盛り、一振りする毎に刀身から炎が飛び散る。
私たちの強い想いに反応して、憎念が向こうからやってくる。だけどそれならそれで好都合。向かってくる的を斬ればいいんだから。
先陣切って向かってくる奴を居合の要領で斬る。刃が触れたその刹那その身体は炎に包まれ、胴を切り抜ける途中で燃え尽きる。
その後もやってくる憎念をテンポよく斬り、燃やし尽くす。
向こうからの攻撃を刃で受ければ、触れたところから火の手が回る。
斬っても倒し、守っても倒す。炎の力のおかげで憎念はだいぶ数を減らしたが、それでもまだ多い。
更にコイツらも学習し始める。普通に突っ込んでくるかと思いきや、私の目の前で二手に割れ、私を取り囲むように距離を詰める。おかげで私は、ちょうどさっきの直緒のように囲まれてしまう。
この状況を打破するため、睨みをきかせながら燃え盛る刀身を向け、周りの憎念を威圧しながら考える。
炎をそのまま使ってもいいが、それだと少々部が悪い。それなら一気に決める!
私は身体を駆け巡る想いの形を、迸る雷へと変え、その想いの雷を刃へ宿す。燃え盛る炎は消え、代わりに刀身が青白く輝き始める。
その輝きが最大に達したとき、天に刀を掲げ、私は宿した力を解き放す。
「大雷撃!!」
その瞬間、刀に込められていた雷が周囲の憎念に向かって一斉に放たれる。その雷は私を取り囲む憎念全てに降り注ぎ、一瞬にして周辺は更地になる。
私の方は終わったから、あとは直緒の方。直緒の方を見ると、そちらも憎念を倒し終わったところだった。
そんなとき、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。
これ以上いると面倒なことになる。
「直緒、逃げるよ」
────────────────────────
『直緒』
みんなを守りたいという想いに身を任せ、飛び出してみて思うのは、やっぱりさっきよりも身体が軽い。足は自分から進みたがってるように力強く大地を踏みしめ、腕は重みが消えたようにスムーズに動く。
おかげで走るスピードも速くなり、接敵も早くなる。
でも、大丈夫。頭に思い描いた通りに動けるから、急減速もお手の物。その行き場を失ったエネルギーは憎念を殴るエネルギーへと変貌し、相手を綺麗に殴り消せる。
身体がしなやかに、そして速く動くようになったから、憎念からの攻撃も楽々躱せるようになる。
右肩を相手の攻撃に合わせて引き、身体を捻った勢いで、
「ぬうっ!」
左拳をお返し。
その体制のまま力を溜めて、一気に解放。
右手が憎念の胴を突き抜け、カウンターも身体のバネを使えるから一撃が重くなる。
迫り来る拳を躱しながら憎念の懐に入り込み、思い切り掌底を胴の中心へ打ち込み、吹き飛ばすと周囲の憎念も巻き込んで消滅。
これで大部分は倒せて、残るは四体ほど。そんなとき、私の心の中に攻撃のビジョンが浮かぶ。その景色は見えてはいても、中々身体がそう動きそうにない。
でもやらなきゃ。だって、私の心がやれって告げているから!
私は心の示すまま駆け出し、一番手前の憎念に、
「やっ!」
右ストレート。
勢いのまましゃがみ、その隣のやつ目がけてジャンピングアッパー!
体制を立て直し、後ろの奴の肩に飛び乗り、両肩に両足を乗せ、ジャンプする踏み切りに合わせて頭にチョップ!
「とうっ!」
憎念がバキッと、悲鳴をあげるのと同時に勢いをつけ、天高く跳び上がる。
両足を振り上げ、飛翔の頂点に合わせ空中で一回転。そこから一気に飛び蹴りの態勢になり、
「ムーンサルトキーック!!」
飛び蹴りの形を保ったまま急降下し、キックはクリティカルヒット。
キックの態勢から起き上がり友美の方を見ると、彼女の周囲で、激しい炎が燃え広がっていたり、雷撃が迸っている。その炎や、雷も友美の力で、広い範囲の人魂や化物をまとめて殲滅し終えたようだ。
そんなところで、遠くの方からパトカーのサイレンが聞こえてくる。
「直緒、逃げるよ」
友美に、撤退を促され、私たちは急いでその場を離れる。
憎念対策処理班とは、近年の憎念被害の増加に対応すべく、警察内に設立された特殊チーム。彼らは私たちと異なり、想いを具現化させた特殊な力ではなく、現代の科学で憎念と立ち向かう。
そして公的な対応では、憎念の対処は全て対策班が行うことになっているから、私たちは彼らと入れ替わりで逃げることにしている。
先程までいた現場から距離を置き、私たちは人気の無いところで変化を解く。
「今日は直緒、なかなかやるじゃん。いい感じ」
友美に褒められて、ちょっと嬉しくなる。
「エヘヘ、ありがとう。あっ、そう言えば、明日の新歓はどうするんだっけ?」
大学で同じサークルの友美に、明日やる予定のサークルの新歓花見について聞く。
「私たちは準備だから、確か開門で場所取りかな。いや、本当悪いね。家近いってだけで準備メンバーにされられちゃって。しかも、下見だけだと思ってたら、明日フルでいてもらうことになっちゃって」
「別にいいよ。八時なら全然余裕。まあ、明日は自転車かなぁ。髪のセットは場所取りしてからしよう」
サー室で花見担当のメンバー決めをしていた時、たまたまその場にいた私は、既に担当だった友美と友達ってことと、家が近いっでことで、半ば無理やり場所取りメンバーになってしまった。
「悪いね。私は買い出し担当だから、終わるまでそっち行けなくて。ちょっと気まずいと思うけど、まあ、何とか頑張って」
「別に、みんなの事を嫌いって訳じゃないから大丈夫だよ」
「確か、そのあと二時くらいまでそこに居てもらうんだったよね」
友美の言う通り、私は場所取りして終わりではない。
「うん。でも、一年生の話聞けて新鮮な気分になれるから問題ないよ」
「直緒マジ神。じゃあ、明日頑張ろう」
「うん!頑張ろうね!」
明日から本格的に、私の大学二年生生活が始まる!
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