不便すぎる不死身で転生者を只管に斬る
怒りを胸に抱く。
動かぬ心臓に熱を与える。
俺の、この怒りは。転生者どものフザケた強さからでもあり。頭の中で嗤い続ける邪神に対してでもあり──何より。
転生者を未だに虫の様に容易く殺せない、己の弱さに。怒りを燃やす。
燃やした怒りのままに、刀を振るう。
次々と襲い来る魔法やら攻撃やらを、片っ端から斬り裂いていく。
身体を蝕み続ける激痛に、いつもは叫び、吼え、断末魔に等しい声を轟かせる──
だが。
こんなゴミクズ野郎にはそれすら惜しい。
刀──
地に叩き付けられ伏せた奴に、冷徹な声音で呼び掛ける。
「立てよ、“生塵”。そういう演出とか要らねえんだよ」
俺の呼び掛けに
「ぐぉ……!」
「意識あんならとっとと立てよ──斬り刻んでやる」
冷徹な意識そのままに。振るう刃に憤怒を乗せて力の限り。宣言通り斬り刻んでいく………だが。
「ぐ……ぅ、おおっ」
いくら刻んでも一向にダメージを与えられていない。
叩き切って数分。宙に浮くかどうかの瀬戸際で漸く、刀を振り払われる。
「一体……どうした? さっきまでと随分ノリが違うじゃねえかよ……つぅ……」
「猿芝居に付き合うつもりは無い」
振り下ろした刀に。
眼前の
……ダメージを負っている気配がねえから薄々そうだとは思ったが。
やっぱりフリだけか。クソが。
「なあ、教えてくれよシソウ。何がそんなに気にくわないんだ。さっきまで普通に戦ってたじゃないか」
「慣れ慣れしいんだよ生塵。話かけてんじゃねえぞ」
「いーや、オレは諦めないぞ。お前がちゃんと教えてくれるまでずーっと訊ねるからな!」
舌打ちと共に刀と鞘で連撃を叩き込むが、悉く防がれる。
埒が明かないので一旦、吹っ飛ばし、今も溜め込んでいる怒りを吐き出すように、告げる。
「お前がッ! 親を売り飛ばそうとしたからだろうがァッ!」
その答えに、奴は。
「──ああ。そんなことか」
まるで、棄てたゴミを思い出すかの様な、奴の、態度に。再度、怒りを腹の裡で煮え滾らせて突撃していく。
痛みに意識が飛びかけそうになりながらも、鞘に刀を納める。
「………ッ、はぁッ、ぐぅ……はぁッ……」
納刀した途端、痛みが嘘の様に引いていく。
痛みは消えたが……疲労は、消えない。
「は──っ、はぁ……はぁ……が、はぁっ」
『ふッ。シソウくん毎度毎度毎度毎度マゾいねー。マジでそーゆー趣味なの? ウケる』
「何もウケねえよ……クソアマ……」
嘲笑う野太い男の──
眼前に転がるアサヒの死骸を一瞥し、深呼吸……目の前の
「次は……向こうか……」
「シーソーウーさーん」
腐臭の方へ歩を進めようとすると、背後から声を投げかけられ、振り返る──
「何だクソガキ──っ、うおッ!」
間近に迫った足の裏に対して反射的に身体を反らして回避する。飛び蹴りをしてきた張本人の白髪白装の白い子供──ムンは華麗に着地すると、舌打ちしつつ俺の方に向き直る。
「おまえは! 普通に声かけられねえのか!」
「失礼な。シソウさん以外でこんな事しませんよ。自惚れも程々にしてください」
「てめえ……!」
「大体、私も何度も言ったじゃないですか。いきなり転生者に襲いかかってどっか行くの止めろって。追うの大変なんですよ、もー」
ため息を吐いて、やれやれといった素振りをするムンに。
俺の沸点が限界を越えた。
「てめえ、もう許さねえぞ!」
「は? 別にシソウさんの許しなんか要りませんけど? 思い上がりも甚だしいですね」
「そこを動くなクソガキィッ!」
俺は怒号と共に、鞘に納めた刀を振りかざしてムンを追い回す。
異臭のする方向にムンを追い立てて……体感……数日。
数分の小休止と時折頭に響く邪神の茶々を挟みつつ、何度か昇る朝日を背に。
ムンを狙い、鞘付きの刀を振り……避けられる。
「ぜぇ……はぁ……はぁ……」
「シソウさーん」
呼吸を整えていると、離れた所からムンの声が聞こえる……クソガキめ………
顔を上げてムンを見ると、奴は頬をリスの様に膨らませ、もっちゃもっちゃと咀嚼していた。
……何食ってんだコイツは。
「もうやめませんか。不毛の極みですし、何よりお腹が空いてペコペコなんですよ」
「だったら……一発………ぶん殴らせろ……ぜぇ……はぁ……クソガキが……」
「いーやーでーすー。というか、殴らせろって。甘えないでください。シソウさんが口程にも無いだけじゃないですか。このウスノロ」
そこまで言って、ムンは口をすぼめて風船を作る……ガム食ってたのかよ。
肺活量が異常なのか、食ってるガムが狂ってるのか、ムンの顔面……身体を越える勢いで膨らみ──破裂した。
「好機……!」
破裂したガムが顔を覆う様にくっつき、それを取り除こうとバタバタしているムンに疾走する。
「おッ、らァああッ!」
怒号と共に鞘に納めた
「んむぅ、んっ」
鞘がムンに直撃した……が。
当たったのは、足の裏。しまった、と思っても時は既に遅く、ムンは俺の振り抜く鞘を射出台にし、彼方へ飛ぶ。
「見えてねえクセに、何でタイミングが完璧なんだ……!」
『予想以上に飛んだねェー』
その場で跳ね上がり、鞘の打点を足裏で捉えたムンに驚愕しつつ、全力で追いかける。
極小の染みのような遠さのムンを追って。走り。転び。
「ぜぇ……はぁ………」
肩を上下させ呼吸を整えながら、忌々しそうにムンを睨む。
……いまだに全身に粘着したガムと格闘していた。
「長時間……空飛んでて……てめえは一体何してやがる……」
俺の声に気づいたムンは、呆れた風に肩を上下させると、頭頂部の髪を左右から掴み。
べりべりと包装紙を引き裂くように、自身の身体を真っ二つに分け、中から妙に艶やかなムンが現れた。
「ぷぁっ。あー、息苦しかった」
「脱皮かよ……」
「乙女の嗜みですね」
雑に返答するムンは引き裂いた自身の皮……らしきモノを無造作に投げ捨てる。
ムンに対しての怒りは全く以て収まっていないが、鼻腔を貫く異臭で本来の目的へと意識を向ける。
「……ここか」
「シソウさんほっといて先に街に入っても良かったんですけどね。あんまり放置しちゃうとニャー様からオシオキされるので。私の良心に感謝してください」
「黙れ。散々罵詈雑言浴びせといて厚かましいんだよ」
ムンの戯れ言を一蹴し、人の身長を優に越える高い塀を眺める。塀は門を起点に左右に伸びており、地平線の彼方まで続いていた。
門の上の方に掲げられている文字を一瞥し、街へと入る。
「それでは、トネカロイヒヒのレストランを探索ー」
「主な目的が転生者殺しだっての忘れてんじゃねえぞ」
「それはシソウさんの目的であって、私は基本的に食い倒れ旅行のつもりなので。あとはシソウさんのお目付け役ですかね」
「お目付け役も何も、アイツには俺の事なんぞ筒抜けだろうが」
『は? 私がシソウくんの全部を把握してると? 自意識過剰なんだが?』
「……いつにも増してクソうぜえ喋りじゃねえか
『八割くらいはシソウくんの事は網羅してるけどさ。私もヒマじャ無いのよ。ちョいちョい呼び出されるし。とは言え、肝心要の所だッたり、私の機嫌が悪い時なんかは必ずちョッかい出すから! 期待しなくていいんだからねッ』
邪神が口開けばコレだ。ろくでもねえ。
ムンがレストランに入るのを見送り、俺は俺で
大通りらしき道に出て深呼吸──異臭に吐き気を催すが、堪える。
臭いに怒りを募らせて、捜索を開始する。
道行く人々……大体が人型の亜人だが……を流し見る。
往々にして様々な人種が居るものの、ある共通点が一つ。
剥き出しの腕に烙印が有る。
「奴隷か……」
自身にのみ聞こえる声量で呟く。
更に細かく認識すると、エルフやウェアウルフ等の亜人は主人。奴隷になっているのはそれ以外の人種……に思える。
なんにせよ、胸糞の悪い景色だ。
短く溜め息を吐き、異臭を辿って、大通りに着く。
もはや産業の一部となっているのか、さっきまで居た通りとは桁違いに賑わっている。
……喧しいな。
ごった返す人の波を掻き分け、近づけば近づく程に強くなる異臭を辿り──見つける。
人の往来が激しい中でも。
通りのど真ん中でも。
──無関係な連中が溢れて居ようとも。
殺るべき相手を、殺るのみ。
「転生者よ、今永遠の死を与える」
言い切ると同時に抜刀──激痛が全身に迸る。
「ぐゥ……がぁあ、ッ……!」
絶叫したい程に耐え難い痛みを、噛み殺しつつ、臭いの元たる
狙うは、首。
「……ん?」
「おォおおおッ!」
怒号を飛ばしつつ、
「
跳ね返った勢いを利用し、そのまま一回転、着地。
全身を苛む激痛に怒りを燃やして耐えつつ、眼前の敵を睨む。
「おいおい、いきなり何だ全く」
「黙って、死ね」
その場で刀を振って、斬空を放つ。
「
奴が唱えると同時に、刀を振り切る直前に強烈な衝撃を受け、斬空が不発に終わる。
衝撃で常時激痛の更に上に痛みが……クソッ。
「黒い
ふざけた様子の
周辺を視界に入れるが、特に恐慌した様子は無く、何事も無く営みを保っている。
日常茶飯事ってワケか。
それに……俺の名を知っている様だが、関係無い。殺す。滅ぼす。斬り飛ばす。
「ッ……、がァッ!」
間合いを空けても攻撃が通らないなら、近付いて斬り刻むまでだ。
地面を踏み砕く勢いで跳躍し、距離を詰める。
「
刀の届く間合いに到達する瞬間、俺と
「邪ッ、魔だァッ!」
怒号と共に土の壁を切り裂く。
追撃を加えるべく鞘を振りかぶるが、切り裂いた壁の向こうから剣の切っ先──
「──ちっ!」
舌打ちしながら顔を傾け紙一重で躱し、倒れかけた体勢で無理やり鞘を突き出して反撃する。
「おっと」
「ぐ……ッ!」
見た目とは裏腹に、弾かれた鞘、は、猛烈な勢いで俺の身体を回転させて吹っ飛ばす。
「クソ……っ」
急激な高速回転で、ぶれる視界を頭を振って正常に戻す……攻撃を受けてもいないのに迸る激痛に更なる怒りを滾らせる。
ヤツを見据えると、ずんぐりとした男と何やら会話している……嘗めやがって。
「あのー……カスワの旦那、ホントに買い取ってよろしいんで?」
「ああ、大丈夫大丈夫。もう要らなくなったから」
「へえ。承りました……しかし、子を売る親ってーのは、まあまあ居るんですが。子供が親を売るのは俺ァ久しぶりに見ましたぜ」
ずんぐりとした男の、言葉に。
カスワと呼ばれた
奴はヘラヘラと笑い、男と話しており。
その足下には貧相で汚れた格好のエルフの男女が一組。
それを、見た瞬間。その場の地面を踏み砕き、跳躍。
「お゛ォ゛ォォォらあ゛ッ!」
「うおっ──!」
カスワの腹に爪先をぶち込み──蹴っ飛ばす。
吹っ飛んだ
奴は剣と身のこなしだけで回避していく……だが、しかし。
これだけで終わらせねえぞ、生塵が。
「ふぅー、凌ぎきっ──」
「お、らぁッ!」
「──っく、お……ッ」
一瞬の隙を突いてカスワの腹に再び蹴りを入れ、採石場らしき所に飛ばす。
荒れた地質故か、粉塵が巻き起こって奴の姿を見失う。
『シソウくんさァー。派手に吹ッ飛ばすのはいいけど、見失うのは流石にダメじャなーい?』
「うるせえ! 黙って見てろ!」
粉塵の向こう側から剣が飛来、頭、に……!
「──ッ!」
頭部に迸る激痛を、怒りを滾らせ、怒号を噛み殺して耐え。
斬空を放ち、粉塵ごとカスワを吹っ飛ばす。
「なあ。いい加減、話合おうぜ」
カスワの呼び掛けを無視して全力で刀と鞘を振る。奴は事も無げに剣で弾いて、俺に反撃を加える。
「……ッ、がはッ」
「お前の速さにも慣れたし。どうだ? ここは一度腰を据えてじっくりと──」
「黙れ生塵」
反撃を貰った腹部の痛みを噛み殺し。返答に殺意を叩きつけて、刀を振り下ろす。
再度、奴の剣とかち合う。クソが。
「そうつれない事言うなよシソウ。んー……あ。そういえば自己紹介がまだだったな。オレはカスワ・ギルイだ。よろしくな」
馴れ馴れしく語りかけてくるカスワに対し、刀と鞘の連撃速度を更に上げて行く。喋ってる暇も余裕もねえんだよ、こっちは。
「そうだなあ。シソウが話してくれないんなら、オレの方で勝手に喋ろうか」
速度を緩め、一撃一撃に、渾身の力と殺意を込めて、叩きつける。
「おっ、今度は攻撃が重くなったな。じゃ、こっちも……」
奴が大振りで俺を弾き飛ばすと、例の
「
何唱えようが──
「殺す……ッ!」
「よっ」
刀と奴の剣が再度ぶつかり合い、発生する衝撃波……で……クソっ、痛え……ッ!
「ぐ、お…ッ!」
「よい、しょっと」
かち合う度に凄まじい衝撃波が俺の身体に激痛を与え。奴は変わらず涼しげに俺の一撃を受けていく。
「えーと、それで何だったっけか……ああ、オレが勝手に話すんだったな」
「…………」
「シソウの様子から察するに……大方、親を売ったのが、琴線に触れたか? なぁ、そこの所どうだ?」
答えをねだる
……いいだろう。そこまで解ってるなら乗ってやる。
「何故売った」
俺の返答に、喜色満面のカスワがペラペラと語る。
「何故って問われたら、一重に要らなくなったに尽きるんだが……ま、もう少し込み行った話をするなら、事ある毎にオレの邪魔をしてきたからだな。元々ちゃんと血が繋がってるワケじゃないから、別にどうでも良かったんだ」
ほら、とカスワは耳にかかった髪を指に引っかけて耳を露出させて俺に見せつける。
「エルフの牡と牝から転生して産まれた肉体なんだが、歳を取るにつれてオレの
肉体は結局魂をなぞっていくモンだな、とヘラヘラと所感を述べる
視線を意にすること無く生塵は髪をかき上げて、告げる。
「そんな訳で。逃げ出すのももったいないから、それなら売った方が
屈託の無い笑顔を向ける生塵に、俺は。
「もういい。よく解った」
激痛と共に溜め息を吐き捨て。
鞘を順手に持ち換えて、殺意を滾らせて生塵を見据える。
結局の所、この
「──殺さなきゃいけない塵屑ばかりだ」
呟く様に告げ、地面を蹴り抜いて生塵に肉薄する。
俺の脳内に鼻で失笑する邪神の声が響き、半ば呆れながら語りかけてくる。
『シソウくんさァー、初手から全力全開みたいなムーブやッてッけど。ちャんとエンジンかかんの遅いよねェー。遊んでんの?』
遊びでやってねえよクソアマ。
……本腰を入れるのが遅いのは否定できねえが……そんな事よりもだ。
俺の、今、成すべき事は──
「お前は、ここで、ぶち殺す」
「果たしてシソウにできるかな?」
『できなかッたらシソウくんの父母妹が私の愉快な玩具になるしねェー。がんばッ!』
塵屑共の戯れ言を聞き流し、更に憤怒を滾らせて攻撃を仕掛けて行く。
刀を振り下ろす──身体を反らして避けられる。
鞘で突きを放つ──剣で弾かれる。
速度を上げても一撃を重くしても捌かれ、凌がれる。
「手詰まりなら、そろそろオレの番──」
ならば、数を増やす。
連撃の隙間に、足裏を生塵に向け、空を飛び跳ねる要領で一気に蹴り抜く。不意打ちが決まり、反動で俺も吹っ飛んでいくが、即座に姿勢を立て直し、
追従して振り下ろした刀の一撃は剣で防がれるが、二撃目に鞘を突き出して生塵の腹に叩き込むが、身を捩って避けられる。
「ぐ……おっ……調子に、乗るなよっ!」
「お前がな」
生塵は不自然な体勢から反撃に剣を突き出し、左目に──
『うッわァー、ちョー痛そォー。眼球に直撃とか、シソウくんフツーの身体だッたら今ので一回死亡じャん』
邪神の嘲りが頭に響、き。目から頭を突き刺し、迸る、激痛に。
「──っ……!」
激痛を、糧に。顔を傾けて剣の腹に沿って顔を滑らせて右目で生塵を視界に捉え──
「落ちろ」
短く告げると同時に生塵の腹に乗せた右足を思い切り踏み抜く。
生塵は地面へと急降下し、激突。
まだだ。こんな程度で死ぬ生塵じゃねえ。
常時全身を蝕む激痛と、顔左半分を激しく苛む痛みに思考と集中力が散らかりそうになるが。
それ以上の殺意と憤怒でどうにか保たせる。
刀を振りかぶり、奴の、生塵の首を刎ねるべく、一閃。横薙ぎに払う。
俺の一撃は生塵の首目掛けて地面ごと切り裂く……が。
猿のような身のこなしで避けられる。
ゴミクズの分際でうろちょろと……!
「っ、とぉ……シソウもついに本気か? ならオレも出さないといけないな、本気を!」
喧しく叫ぶ生塵に更なる殺意を滾らせて突撃する。
「
生塵が唱えた瞬間、身体を覆う様にして、オーラらしきモノが溢れて発光する。
構わず首目掛けて刀を振るい、剣で防がれる。
「刀振り回してばっかりだが、それしかやること無いのか?」
「殺す」
短い応答を皮切りに薄ら笑いを浮かべる
奴は深く息を吐いて首と肩を回し。
俺は
「いい加減、
「過去を忘れた塵屑が。お前に迎える明日は無い」
『ひュ~、シソウくんカァ~ッコイィ~』
親を売り飛ばすような鬼畜に。明日も──命も、あって堪るか。殺してやる。殺す。
風が吹き──身体に波打つ様に激痛が走り──駆け出す。
「なら……徹底的に叩きのめさないとな!」
生塵が剣を振りかぶる。駆け出した足で力を込めて踏み抜き、宙を跳躍。奴の背後に回り、刀で首を狙う。
生塵が振り返り様に剣を振り下ろし、刀と刃がかち合い、火花と衝撃が散る。
すかさず鞘で打突。身体を半身に反らして避けられ、勢いをつけた裏拳を食らう。
「ぐ……」
揺れる視界の中、足裏を生塵に向け、蹴り抜く。
「うお──っとぉ!」
これも上体を反らして回避される。
……うねうねと器用に動く奴だ。
崩れた体勢の中、足元を狙って横薙ぎに鞘を振り、斬空を放つ。
生塵は片足で跳躍しつつ、再度、俺の頭に剣を振り下ろし、そのまま、直、撃──しようが。
「死ね……ッ!」
「おっ」
生塵の間抜けな声と共に剣を空に弾き飛ばす。即座に体勢を立て直し、徒手空拳となった奴に、刀を首を狙い、突く。
「甘いな」
不敵な笑みを浮かべた生塵を視認した瞬間。顎に──衝、撃。視界が……クソ……ッ!
「剣を使ってたのはシソウに合わせてただけでな。オレ的には素手の方が得意なんだ」
『へェー。シソウくんの突きを避けつつ顎に掌底かますとかやるじャん
「ほざけ塵屑どもが」
「形振り構わないにも程があるだろう!」
喚く生塵を無視して攻撃の苛烈さを、増加させる。
生塵のカウンターが都度入るが……避けない。退かない。押し通る。殺す。斬り裂く。
眼前に迫る二本の指。反射的に顔を逸らしつつ、食いしばる。
勢いを付けすぎた影響で、姿勢を崩して転ぶが、鞘を地面に突き刺して姿勢を無理やり立て直す。
『シソウくん、何百回と転がされても立ち上がる辺り達磨みたいだよねェ。もしかして前世達磨だッた?』
奴は右手を覆う様に左手で押さえ、苦悶の表情で俺を睨んでいた。
「お……ッ前……!」
驚愕……怯懦……スカした面が漸く崩れたな。
生塵が──きっちりブッ殺してやる。
鞘を順手に持ち替え、走る、跳躍。
右腕は使わないつもりなのか脱力してぶら下げ、身体を半身に構え、左手を手刀の形にして正眼に構える。
まずは……脚からだな。
鞘で奴の腕を狙い。刀で足下目掛けて振り抜く。
鞘をタイミングよく手刀で逸らされ、足も器用に跳躍され、避けられる。
そして、ぶら下げていた右腕を振り上げて来る。
振り上げた右手の……欠けた人差し指と中指から、血飛沫が俺の目に飛来する。この期に及んでまだ目潰しがしたいのか、この生塵は。
苦し紛れの嫌がらせを避け。
口の中に含んでいたモノを、生塵の顔目掛けて吐き、飛ばす。
「く、うおっ……! オレの、指ッ!」
「クソ不味い指を返したついでだ。首も斬り落としてやる」
怒りを胸に灯す。
屍の血潮を加速させる。
「
叫んだ
「ぐぅ──おぉおおッ!」
鞘と刀を振り回し、吹っ飛ばそうとしてくる圧力を斬空で斬り刻み、霧散させる。
元よりこの身は屍。生塵の悪足掻きなんぞに怯む気は毛頭無い……懸念すべきは、逃げられる事。無論、逃がすつもりは微塵も無いし、この世の……地の果てまででも追い詰め、首を刎ね飛ばし、殺す。
手間と、時間の浪費など、言語道断。
矢継ぎ早に放って来る生塵の拳圧を、斬り刻み、叩き潰し、一歩一歩、進む。逃さん、必ず殺す。
「く……う、おおおおァッ!」
左で放つ拳に精細さが欠ける……代わりに、回転率が上がり、手数が増える。
……俺に向けた言葉がそのまま反って行くとはな。滑稽にも程がある。
「ッ、ああああっ!」
生塵が絶叫しながら地面を踏みつける。
浮いた瓦礫を飛び跳ねて、生塵の下に向かう。
対する生塵は浮いた瓦礫を俺目掛けて殴り飛ばして来る……くだらねえ。
「殺す。殺す。親を売る外道畜生め──
振るう刀は首を斬り落とす為に。
飛来する瓦礫を跳躍して避け、鞘で払い、蹴り飛ばし。
奴に、生塵に、カスワに。
落ちる──迫る。
「ッ──ちっ!」
瓦礫の、破片が。目に直撃……一瞬視界を塞ぎ、地面に衝突。
「ぐ…………っ、うぅ゛ッ!」
転げ回り、立ち上がる。瞬間、襲い掛かる圧に姿勢を崩され、飛ばされかける。
「ッ、だらァッ!」
鞘を無茶苦茶に振り回し、圧を霧散させ──走る。駆け抜ける。
「シソォォォォッ!」
『うッさ。
「喧しい。黙らせてやる」
刀の切っ先を生塵に定め。奴は輝く左拳を振りかぶり──
「おおッ──ぐボォぇ」
「黙って、死ね」
生塵よりも──速く。
奴の肩を踏んで足場にし、開いた口に刀を突き刺す。
大道芸人のパフォーマンスの様な格好になるが……芸人と違い。
細心の注意を払って呑み込ませた訳でも無く、肉を裂く感触が刀から伝わる。
まだだ。仕留める。
「──ふッ!」
口に刺し込んだ刀を、渾身の力で真横に斬り抜く。奴の左半身から血飛沫が散り、切り口が背中と前面に開かれていく。
振り抜いた遠心力で落ちる様に一回転、着地。
「せえいッ!」
居合の構えから立ち上がり様に、首を刎ね飛ばす。
刀を振って血を払い捨て……納刀。
その数秒後に、どさりと肉と骨の塊が落ちる音が聞こえた。
「はぁ……はぁ……ッ……痛ぇ……な……クソ……」
「……ソぉーさー……」
間伸びした微かな声……
三六〇度周囲を見渡し、警戒する。
前、右、後ろ、左……姿は見えない。
ならば。残るは──
「……上か!」
顔を天に向けると、踏みつけようと今まさにムンが落下して来ていた。
「く……っ!」
身体を無理矢理捻って回転する。
そしてその勢いのまま──
「おっらあああッ!」
鞘に納めた
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