23、誰が為の自由
「よぉ、リュート。今日も学校は休みなのか? 遊びに来たぜ~」
「……げ、アキ。ホントにまた抜け出してきたんだ」
首尾よく宮殿を抜け出してギルドに向かった俺は、すぐさまリュートを発見した。イリーネさんも私服姿で隣に立っている。
「おいリュート、友達に対してその反応はひどくねぇか? 泣いちゃうぞ、豊穣神」
「やめて、みっともない。この国の人はみんな豊穣神を大事にしてるんだから、少しは周りの目を気にして」
相も変わらず素っ気ない。まったく、可愛げのないガキンチョだ。
「……えぇと、豊穣神様? もしかして、今日も、街を見て回りたいと、考えていらっしゃるの、でしょうか?」
イリーネさんが口を開く。ちょっとぎこちなく聞こえた気がするけど、気のせいだろう。
「そのつもりです。まだまだ面白いとこ、あるんだろ? リュート」
「アキが見て面白いと思うかどうかは分からないけどね」
「それでいいんだよ。2人が選んでくれた場所に行きたいんだ」
そうやって、少しずつ街の人達との交流を深めていけたら尚良い。あれからも住人たちとの交流会は定期的に開かれてるけど、やっぱり同じ国に暮らす人間として対等な付き合いをしていきたいからな。
と、リュートがギルドの中を見回した。
「じゃ、早く行こう。一応、僕と姉ちゃんである程度候補は絞っておいたから……じゃあまずはここから」
「ちょっと待ちなさいバカリュート! なんでそんな遠い場所から行くのよ。まずはここに行って、効率よく回れるように最短距離を攻めないと。時間がもったいないでしょ」
「……姉ちゃんってさぁ、渋々付き合うみたいな顔しておきながら誰よりも前向きなんじゃない?」
「そ、そんな事ないし! 豊穣神様も、そんな目で見ないでください!」
い、行きましょう! と真っ赤に染まった顔を隠しながら勢いよくギルドを出ていくイリーネさん。残された俺達3人は顔を見合わせ、笑みを漏らしながらその後を追うのだった。
前回同様、2人が案内してくれたスポットは素晴らしかった。ファンタジーはやっぱり最高だぜ!
とは言え、俺が動けるのは神都の街中だけ。ここまで行動可能な範囲が狭いと、さすがに案内できるお薦めスポットはほとんど観光し尽してしまったらしい。
次に抜け出した時には、観光以外の事でファンタジーを満喫したいもんだ。魔物と闘ってみたい、とレイナに言ったら、光の速さで却下されたが。さすがにそれは許されないようだ。
「とか言ってたら、もう夕方か。早いな……」
薄紅色を帯び始めた空を見上げてぼやく。そんな俺を見て、リュートが溜息をついた。
「まだ足りないの? かなり見て回ったと思うんだけど」
「あぁいや、それは満足したさ。ただ、こういう楽しい時間は経つのが早く感じられるな、ってだけ」
「むぅぅ、それって宮殿の暮らしがつまらないって事ですか? アキサマ」
「そうじゃない。あれだけ良くして貰ってて、そんな罰当たりな事言うかっての。やっぱり外で羽を伸ばすのも必要だよな、ってだけだよ」
不満げに唇を尖らせるレイナを笑顔で宥める。機嫌を取るための嘘なんかじゃない。本心だ。
この2回目の外出で確信した。やっぱり、ずっと宮殿にこもり切りなのは良くない。ヘンリエッタさんにこの世界について学んで、ファンタジーな事もそれなりに詳しくなったはずだけど、やはり直接見て聞かないと実感が伴わない。
うん、王様とかも民の暮らしを伝え聞くだけじゃダメで、直接出向いて自分の目で見た方が良い……って何かのゲームで言ってた気がする。宮殿に戻ったら、この路線でもう一回ヘンリエッタさんに直談判してみよう。
「それでは豊穣神様。私達はこちらですのでここで……」
と、人気の少なくなってきた十字路でイリーネさんが申し訳なさそうに言う。
「あ、そうなんですか。今日はありがとうございました」
「いえ、豊穣神様にご満足いただけたのなら良いんですけど……えっと、宮殿までお送りした方が」
「それは大丈夫です。ボクが責任を持ってアキサマをお守りしますから!」
胸を張るレイナ。おお、夕焼けを浴びた巫女服が神々しく見えるぜ……。
それならいいのですけど、と腰を折るイリーネさん。その横に立ったリュートが顔を逸らしなが言葉を継ぐ。
「レイナ姉ちゃん、僕からもアキを頼むね。少しずつ分かってきたけど、アキはわりと後先考えずに無茶をするタイプみたいだし」
「おいちょっと待てリュート。誰が後先考えてないって?」
「宮殿を抜け出してきてる時点で無茶してるでしょ」
「ぐっ……」
そう言われると返せない。押し黙る俺を見て、リュートは静かに笑った。
……なんだかんだで、いつも仏頂面のリュートが笑うのを見たのはこれが初めてな気がする。前よりは仲良くなれてる、のかな。
「じゃ、僕達は帰るね。バイバイ、アキにレイナ姉ちゃん」
「失礼します、豊穣神様と巫女様……ちょっとバカリュート! あんたはまた最初から最後まで豊穣神様に失礼な言葉を!」
「本人がそれでいいって言ってるし。ていうか、姉ちゃんこそ観光の時にわりと羽目を外し、痛っ! ……照れ隠しで弟を殴るとか最低だよ、姉ちゃん」
「う、うるさい! 殴る、ってそんなに力入れてないでしょ!」
騒がしく、けれど微笑ましい言い合いをしながら、2人は黄昏とマナの入り混じった輝く街並みの奥へと消えていった。
「……じゃあ、ボク達も帰りましょうか」
「ああ、そうだな。早くしないと、前みたいにヘンリエッタさんに見つか」
「お呼びでしょうか、豊穣神様!」
お呼びじゃないです、はい。
声の方を見やると、やはりヘンリエッタさんだ。彼女は指で何かをつまみ上げ、それをこちらに見せるようにしながら歩み寄ってくる。
アレは……ボタンだ。俺の声を魔法と一緒に込め、ドアに貼り付けていたアレに間違いない。
「レイナの危惧した通り、バレちまったのか……」
「…………」
レイナは少し悲しげな表情で立ち尽くしている。俺も動けず、ヘンリエッタさんが俺達の前で立ち止まるのをただただ見ていた。
「豊穣神様、お迎えに上がりました」
「……そう、ですか」
冷静な語り口。前と一緒だ。嵐の前の何とやら、にしか思えない。
「これは豊穣神様の魔法によるものでしょうか? それともレイナの?」
「俺がアレンジした魔法だ。レイナは関係ない」
「そうですか。こういった発想からアレンジされた魔法を、わたくしは見たことがありません! 素晴らしい魔法です、感服いたしました!」
興奮気味に微笑んだヘンリエッタさんが、俺にボタンを手渡す。
嵐が来ると思ったら、来なかった。これも、前と同じだ。
「さぁ、帰りましょうか。日も暮れてきて肌寒いですからね」
「…………」
歩き出すヘンリエッタさん。俺はその後ろ姿をぼんやりと見る。
「……豊穣神様?」
ヘンリエッタさんが少し急かすように言うけど、俺は動かない。
(最初に抜け出した時から違和感はあったけど……)
おかしいだろう。これは、さすがに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます