16、場違い
レイナの案内に沿って歩く事数分。俺は半月前に一度見た冒険者ギルドの佇まいに辿り着いた。
「おー、変わってねぇなぁ……って当たり前か」
「神都は平和ですから、厄介なお仕事も舞い込んで来ないので。それもこれも豊穣神サマのおかげですね!」
胸を張り、まるで自分の事のように誇らしげに言う。俺は何となく頬を掻いた。
「いや、これまでこのギルドが平和だったのは先代の豊穣神のおかげだろ?」
「でも、これからの平和はアキサマのおかげですから!」
「平和、だといいんだけどな」
何せ、俺はここにいるだけでいい、と言われているのだ。自分から何かしらアクションを起こして平和に貢献しているのなら実感も湧くが。現時点ではまだ、自分が豊穣神である事に自信を持てていないくらいだ。
と、レイナがぷくっと頬を膨らませて腰に手をやった。
「もぉ、大丈夫ですってば。アキサマはレーヴェスホルンの豊穣神サマで救世主サマです。豊穣の巫女、レイナが断言します!」
「いや、別にレイナの言葉を信じてないわけじゃないんだけど……ま、とりあえず中に入ろうぜ?」
「はい!」
俺はレイナを伴ってギルドに足を踏み入れる。って、そう言えば今、この国の中で俺の事を知ってるヤツってどれくらいいるのかな。
この間の交流会で話したのは、どっちかって言うと信心深い感じの高齢な人達が多い印象だったけど、ギルドは血気盛んな若い人間の方が多いだろうし、豊穣神の事は知っていてもそれが俺だって事は知らないんじゃ?
そんな事をレイナに訊いてみると、そんな不敬者はボコボコにします、とか
「そういや、最近名を上げてきたチームがあるだろ。ほら、獣人だけで構成されてるチームで、色んな仕事に手を出してるヤツら」
「おー、ちょっと前にウチにも来てたんだっけか。そいつらがどうしたよ?」
「聞いた話じゃ、どっかの国のお偉いさんの目に留まって雇われたんだってよ。獣人を差別する国もあるってのに、夢のある話じゃねぇか」
「んー、奴隷にするってんでもなけりゃ幸運な話だな。ま、レーヴェスホルンには奴隷なんていねぇからどっちにしろ実感湧かねぇけどよ」
先客のおっちゃん達の会話が耳に入ってくる中、俺はギルドの中を見回す。
「……ちらほら人はいるけど、前の時より少ないな」
時間帯の問題だろうか。受付の人もいるにはいるが、あの時のお姉さんじゃない。冒険者の獣人達もやはりいないし、どうしたもんか。
「あ、多分受付の人は奥にいると思います! ボク、呼んできますね!」
「待てい」
「はぅぇ!?」
三つ編みの片方を引っ張ると、走り出したレイナの体がかくんと止まる。涙目の彼女が恨みがまし気にこちらを向いた。
「な、何するんですかぁ……」
「あ、いや、すまん。ただ、そこまでしてもらう必要はないって言いたかっただけなんだが」
やっぱり女の子の髪を掴むのは良くなかったか。けど、体を掴もうとして誤ってこのデカい胸でも鷲掴もうもんなら、俺は色々な意味で宮殿にいられなくなる。引きつった笑顔のレイナと毎日顔を突き合わせるのは拷問だ。
うん、やっぱ俺は間違ってない。無理やり自分を説き伏せる。と、
「おい、お前」
足に何かが当たる感触と、背後から幼げな声。俺は振り返るが……あれ? いない?
「こっちだ。どこ見てる」
否、いた。下だ。少し目付きの悪い子供が俺を睨みつけるように見上げていたのだ。
「ん? 俺、の事だよな」
「そうだよ。お前、レイナ姉ちゃんにひどい事すんなよ」
そう言って俺の足を蹴る子供。レイナが慌てて子供と目線を合わせる。
「ちょ、ちょっとリュート君! ダメだよ、そんな事しちゃ!」
「レイナ姉ちゃん、髪引っ張られて痛かったんだろ? こいつが誰かは知らねぇけどさ、姉ちゃんがポワポワしてると言ってもちゃんと言わなきゃダメだぞ」
どうやらこの子はリュート、と言うらしい。俺がレイナをイジめている、と思って助けようとしたらしい。
口は悪いが、心優しいガキンチョだ。こいつ呼ばわりも、豊穣神生活に慣れてきた今となっては新鮮で、心地よくすらある。
「よぉ、ボウズ。だからって人を蹴るのは良くないぞ?」
レイナに倣って目線を合わせてみる。リュートはふんと鼻を鳴らした。
「ボウズじゃない。僕はリュートだ」
「そっか、悪い悪い。俺はアキっていうんだ。よろしくな、リュート」
「レイナ姉ちゃんをイジめるようなヤツと仲良くする気はないよ」
「リュート君、だからダメだよ! この方は豊じょむぐぐ!!」
俺は咄嗟に手でレイナの口を塞いでいた。
言わせねぇよ? 俺が〝人間〟として会話できるチャンスだしな。
「おい、だから何やってんだよお前。姉ちゃんにひどい事すんな」
「いや、怒られるべきは俺の方なのに、優しいレイナ姉ちゃんがリュートを怒ろうとするから、反射的に止めちまっただけだ。ごめんな、レイナ姉ちゃん」
むーむーと抵抗を試みるレイナの唇から手を放す。彼女は息苦しかったのかそれとも羞恥からか、顔が真っ赤だ。やった張本人の俺が言うのも何だが、可愛いな。
それはそうとレイナさん。抵抗するのは分かるが、だからって俺の手の平を舐め回すのは年頃の女の子としてどうなんですかね?
その顔の赤さも相俟って、すげぇエロい事をされた気分だっつの。こっちも恥ずかしいわ。
「で、お前は誰なんだよ」
「あぁ、俺は最近この国に来たばかりでな。豊穣の巫女だっていう彼女が善意で神都を案内してくれてるんだ。そうだよな?」
「……まぁ、はい、そうですね」
大変ぎこちないけれど、どうやら俺の話に乗ってくれたようだ。うんうん、空気が読めるってのは地球でも異世界でも大事な事だぞ?
「良かったらリュートも一緒に来てくれよ。リュートのおすすめの場所を案内して欲しいし、俺がレイナ姉ちゃんにひどい事をしないかどうかも見張れるだろ?」
「……そうしたいけど、無理。僕、人を待ってるから」
リュートが顔を背けながら言う。
「人を? つーかそもそも、どうしてこんな場所にいるんだ? リュートは冒険者じゃねぇだろ」
「うん。でも、よく来る。姉ちゃんを迎えに」
姉ちゃん、か。レイナも姉ちゃんと呼んでるけど、この感じだと血の繋がった姉ちゃんなのかもな。
「あ、でももう仕事は終わってるはずだから、もう少ししたら来るはず。僕に一緒に来いって言うなら、ちょっと待って」
「お、そうか。それなら喜んで待ち」
「リュート、お待たせ!」
と、ギルドの奥の方から甲高い快活な声。
『あ』
俺とその声が、重なった。
あの時の受付のお姉さんが、あの時とは違う私服っぽい服装で驚きの表情を浮かべていた。
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