第28話 ツンデレな僕の幼なじみからの告白(後編)

「僕と……一緒に?」


「そうよっ! 悪い!?」


「えっ、いや……」


 悪いとか悪くないとか、そういう問題じゃないんだけど……。


 しかし、僕の沈黙を受けて、華恋かれんの表情がみるみるうちに変化していく。


 そして――。



「なによ……、今まで陸と一緒にいたのはあたしなのに……、紗愛さらさんだけじゃなくて、綺麗な副会長に部活の先輩まで……。ううっ……」



 華恋かれんの瞳から、ボロボロと涙が溢れだした。


「ちょ、華恋かれん!?」


 思わぬ事態に、僕は動揺を隠せなかった。


 だって、あの華恋かれんが、僕の前で泣くなんて……。


 実際に、何度も目を擦って、必死で我慢しているようにみえた。


 情けないことに、あれだけ一緒にいた華恋かれんのことなのに、こんな事態は初めてで対応できない。


華恋かれん……えっと……」


 そんな華恋かれんに、なんと声を掛けたらいい?


 僕が、僕がやらなきゃいけないことは……。



『……いいぜ、嬢ちゃん。今日からあんたも、オレ様たちの仲間だ』



 えっ? と声を漏らしながら、華恋かれんは話しかけてきた人物のほうを見る。


『いや、オレ様たちが頼まなきゃいけねえよな。嬢ちゃん、ぜひうちの部活動に入っちゃくれねーか?』


 ブルースさんが、渋い声を発しながら語る。


『兄弟がすげえお人好しなのは、このオレ様たちもよ~くわかってる。だからこそ、傍にいてやりてえんだろ? 嫌いじゃねーぜ、そういうの』


「なっ、何よ……あたしのこと、何も分からないくせに……」


『ああ、分からねえさ。そりゃ嬢ちゃんだけが持ってる気持ちだよ。大事にしな』


「あたしの……気持ち……」


 華恋かれんは、ぎゅっと、自分の胸に置いた手を握り絞める。


 まるで、そこにある心を、包み込むように。


『さぁ、あとは決めるところだぜ、兄弟』


 そして、僕にバトンを渡すブルースさん。


 しお先輩の表情も、とても穏やかなものになっていた。


 そうだ、ここからは僕の役目だ。


 僕は華恋かれんに向き直り、彼女に告げた。


華恋かれんの気持ち、今まで気づいてあげられなくて、ごめん……」


 華恋かれんは、クラスの友達でもなく、中学の頃から続けていたテニス部より、僕と同じ部活に入ることを選んでくれた。


 僕が、姉さんのいる生徒会を選ばなかったように。


 彼女も彼女の意思で、僕が必要だと言ってくれたのだ。


りく……」


 僕よりほんの少しだけ高い位置から、見つめてくる。


「馬鹿だったよ、ずっとこんなに近くにいてくれたのに……」


 僕は少しだけ、華恋かれんに近づくために一歩前にでる。


「えっ!? ちがっ!? そういう意味じゃ……いや、違わないんだけどっ!? えっと……」


 今ならちゃんと、華恋かれんの気持ちに応えられる気がする。


華恋かれん……僕と一緒にいたいのって……」


「うっ、うん……」



「これからも放課後にトロピカルアラモードを食べに行きたいから、だよね?」



「……………………は?」


 僕は朗らかに笑いながら、華恋に向かって話す。


「いやあ、僕も気づくべきだったよ。いくら女の子でも、あの量のデザートを一緒に食べに行こうっていうのも無理があるよね。でも、一人でお店に行ったらニコさんに心配かけるからとか、そういうことでしょ? 休日もテニス部だと試合とかあって付き合えるか分かんないし、僕と同じ部活に入ったほうが都合いいんだよね?」


 華恋かれんが僕と一緒にいたい理由。


 それは、間違いなく華恋かれんが好きなことに起因する。


 だとしたら、その「好きなもの」とは、一体何なのか?



 答えは簡単だ。



 華恋が愛するのは、甘い食べ物。



 そして、その中でも彼女のランキング一位である『ラブリーキャット』のトロピカルアラモードの為に、彼女は僕を必要としているのだ。



 ふむ、どうしてこんな簡単なことが分からなかったのだろう。


 我ながら情けない。猛省しなくては。


 でも、これで華恋かれんも遠慮せずに僕を誘うことが――。


「……がう……わよ」


 ん?



「ぜんっぜん違うわよ!! りくのばかああああっっ!!」



「ええっ!! ちょ、華恋かれん!?」


 なんと、華恋かれんが回れ右をして、部室から全速力で立ち去ってしまった。


「ど、どうしたんだろう……華恋かれん……?」


 あまりの衝撃展開に、僕はその場で固まってしまったのだった。


『いや、兄弟……。さすがにオレ様もあの嬢ちゃんに同情するわ』


 ブルースさんのほうを向くと、そこにはしお先輩の感情が籠っていない冷たい視線を浴びてしまった。


 先輩、そんな顔もできたんですね。


 とにかく、今回もまた僕は、華恋かれんを怒らせるようなことをしてしまったらしい。


 結果、僕の入部記念パーティは散々な結果に終わったのだった。




 ちなみに、部室から飛び出した華恋かれんから連絡が来たのは、約一時間後の出来事だった。


『あんたのせいで、知らない場所に来ちゃったから助けに来なさいよっ!』


 そう言われて、僕としお先輩で隣の町まで華恋かれんを迎えにいったのだが、それは話すと長くなりそうなので、また別の機会にしておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る