第24話 ツンデレな僕の幼なじみとの報告

 僕が部活を始めることを決めた翌日。


 もう一人、このことを告げなければいけない人物がいた。


「に、人形演劇部!?」


 僕の幼なじみ、明坂あけさか華恋かれんは朝から甲高い声でリアクションをした。


 朝の登校時間だったので、通勤途中のサラリーマンや、小学校へ向かう子供たちが僕たちをチラチラと見てくる。


華恋かれん! そんな大声出さなくても」


「だっ、だって! ぐぐっ……」


 僕に指摘されて気が付いたのか、華恋かれんは歯噛みしながら声のトーンを落とした。


 華恋かれんの赤髪が燃えているようにみえるのは、きっと僕の勘違いだ。


 そして、結んだ両端の髪の毛をぴょこぴょこと動かしながら、彼女は話を続ける。


「人形演劇部って……あんた、そんなのに興味があったわけ?」


「いや、そういうわけじゃない……けど」


「だったら、なんでその部活に入ったのよ?」


 切れ長の目で、じっと見てくる華恋かれん


 ううっ……変に嘘を吐いても、言い訳がましくなってしまいそうだ。


 なので、僕はありのままに事の顛末を華恋かれんに説明した。


 途中で華恋かれんからの質問があったりして、話は長くなってしまったが、学校の正門に到着したところで、何とか最後まで説明することができた。


「全く、いっつも変なことに巻き込まれるんだから、りくは……」


「ご、ごめん……」


「あたしに謝ったって仕方ないでしょ。あんたがそういうのに首を突っ込むことは、よく知ってんだから……」


 んー、自分では普通にやっているつもりなんだけど、華恋かれんから言わせれば、そうでもないらしい。


「……あんたのお人よしっぷりは、あたしが一番よく知ってるのよ」


 ぼそぼそと、華恋かれんが何か言ったような気がしたが、上手く聞き取れなかった。


 しかし、すぐに僕のほうを向いて尋ねてくる。


「で、紗愛さらさんは許してくれたわけ? あの人、あんたを生徒会に誘ってたじゃない?」


「うん……それは大丈夫。むしろ、なんか喜んでた」


「??」


 首を傾げる華恋かれんを見ながら、昨日の夜のことを思い出す。


 姉さんは、買って来たパペット人形をずっと手につけたまま、僕と会話をしていた。


 その表情は、子供に戻ったみたいに無邪気なものだったけれど無駄にテンションが高くて宥めるのが大変だった。


 そのことを華恋かれんに話すと、彼女の頭の中で想像できたのか、眉間に皺を寄せながらため息を吐いた。


「ほんっと、陸には甘いわよね、紗愛さらさん」


 仰る通りで。


 姉さんの過保護っぷりは、僕が高校生になっても、全く改善しない。


 まぁ、それはすぐに解決することじゃなさそうだし、ゆっくりやっていこう。


「……あのさ、それで……」


 僕が姉さんとの今後のことを考えていると、華恋かれんが言葉に詰まりながら話しかけてきた。


「その……部活の先輩って、どんな人なの?」


「どんな人……そうだな……」


 僕はしおさんの姿を頭に浮かべながら、華恋かれんに説明した。


「一つ上の先輩で、眼鏡をかけてる恥ずかしがり屋さんかな? 人見知りみたいで、いつも代わりにブルースさんが話してくれるんだ」


「ブルース……?」


「あっ、パペット人形だよ。すっごいダンディな柴犬なんだ」


「……大丈夫なの? その人が部長で……」


 怪訝けげんそうな目で僕を見てくる華恋かれん


 まぁ、僕の説明だけ聞くと、そんな反応になっちゃうよね……。


「大丈夫だよ。僕にも部活のこととか丁寧に教えてくれたし、人見知りなだけで、しっかりしている人だし。あっ、あとしおさんは黒髪が綺麗なんだ。リボンを結んでいるのも凄く似合ってて……」


「あのさ、りく……」


「ん?」


 あれ? どうしたんだろ?


 華恋かれん、顔は笑ってるのになんだか強張っているような……。


「あたしは、別にその人の外見までは聞いてないんですけど?」


 ……そうでしたっけ?


「そっか、そっか~。りくくんは、その先輩が綺麗だったから助けたんですかねぇ~?」


 ゴゴゴ、と華恋かれんの背中から疑似音が聞こえてくる。


「ちっ、違うよ! そりゃ、しおさんは綺麗な人だとは思うけど、別にそういうんじゃ……」


 必死に弁解をする僕だったけど、華恋はいまいち納得していない様子だった。


 そして、最後に華恋かれんは僕にこう告げた。


「あんた、年上の人から好かれやすいんだから、自覚持ちなさいよ」


「えっ?」


 華恋かれんの言ったことが上手く呑み込めなかったので、思わず首を傾げてしまう。


 そんな僕を見て、華恋かれんはまた何か言いたそうにしていたけれど、結局、続きは何も言わずに僕より前を歩きだした。


「女の人と二人っきりってことよね……こうなったら……」


 華恋かれんはブツブツと何かを呟いているようだった。


 きっと、僕のことなんて、もう眼中には入っていないのだろう。


「……あっ」


 でも、僕はこのまま華恋かれんを放っておくことができなかった。


華恋かれん……」


「なによ?」


 不機嫌そうに返事をした華恋かれんに対して、僕は告げる。


「そっち、学校とは逆方向だよ」


 華恋かれんは次の路地を右に曲がろうとしたけれど、残念ながら学校があるのはこの路地を左に曲がった先だ。


「……うぐっ!」


 下唇を噛みながら、プルプルと震えだす華恋かれん


 顔もみるみるうちに赤くなってくる。


「知ってるわよ! りくのバカッ!」


 そう言って、華恋かれんは急いで方向転換をして僕の前を横切った。


 華恋かれんの方向音痴は、今もなお継続中らしい。


 僕の部活動で朝練があるとは思えないけれど、華恋かれんの部活では朝練があるのかもしれない。


 そうなったときは、仕方がないので僕も早起きに付き合うことにしよう。


 華恋かれんには、色々と助けてもらってるしね。


 それが、僕が華恋かれんに対して出来る、ちょっとした恩返しだ。


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