君のお尻で僕を挟んで
森うずら
第一回戦 セックス
自分でも嫌になるほどに、気がつけば、いつも僕はセックスのことを考えている。それはもちろん、
思春期のはじまり、自分自身の身体の感触が強く意識されてくるようになると、僕は友達との雑談だか書籍だかネットだかでセックスなるものを知った。知ったというか、それはあくまで知識として出会って、実際にそれを経験したわけではなく、したがってメディアが表現したがるあの猥褻で耽美的なイメージを真実として受け入れたに過ぎなかった。セックスとは、愛し合う二人が秘密裏に執り行う儀式のようなものであって、それはある種人として成熟した二人にしか許されないもの。そして、激烈な快楽を伴うものであると思った。
幼い僕は、セックスのことを知ると、もう頭の中から他のことは追い出されてしまい、ありとあらゆる手段をもってこれについて調べ始めた。また、自分の両親を見ていても、彼らは自分に隠れて密やかにセックスを行なっていたのだろうと連想して嫌な気分になっていた。そればかりか、同級生の女子を遠くから盗み見ながら、彼女もいずれどこぞの男とセックスをするのだろうと連想しては、露骨に反応を示す自分の身体に切なさを覚えていた。
ある日、僕はかねてから親交を深めていた女子生徒に愛の告白をした。
愛の告白は極めて情熱的に、詩的に演出してみたところ、彼女から承諾の返事を受け取ることができ、僕は
セックスすることを目標としたとき、女性と交際することは中間目標ということになる。交際が成立すれば、何回かデートを重ね、お互いを信頼し合い、やがてお互いにお互いをかけがえのない存在だと思うようになるので、そうすればいつでもセックスできる状態になると僕は考えていた。つまり、世間で愛だなんだと言われている神秘的で美しいものを戦略的に構築していくことが、僕をセックスへと導く最善かつ最短の方法だということだ。世の中の人がどう考えているのかは分からないけれど、僕はただセックスさえできればよかったから、そうするのが正しいと思った。それに、セックスすれば子供を授かり、生物としての使命を全うすることにもなるという完璧な大義名分すら成り立つのだから、正しいとしか言いようがなかった。
こうして僕は
初めてのセックスの感想は、「くさい」だった。女性の唇から滴る唾液のなんともいえない酸味、それが乾いたときに漂ってくる臭い。そしてうなじや脇を伝う汗の臭い。下腹の核心の臭いなどいうまでもなく、目の前に存在する「ヒト」が放つ動物的な臭気に僕は圧倒される形となった。僕はそれまでに幾度も見てきたポルノが実に嘘まみれだったという事実を突きつけられ、まるで世界が寄ってたかって僕を騙くらかしていたんじゃないかという気にすらなった。
「くさい」問題のせいでろくな戯れもなく、挿入行為へ移った僕たちは、五分程度交わった後に解散した。
僕の初めてのセックスには、激烈な快楽も神秘性もなかった。ただ二匹のませた子猿が不器用にセックスの猿真似をしたようなものだった。
ただ、セックスに対する僕の探究心は薄れるどころか以前にも増して燃え上がる形となった。その後、
断っておくと、これは「僕」が自らのセックス探究の遍歴をまとめた手記である。ごく平凡な形で人生を歩みはじめ、やがて精神科医から『
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