第38話 試着室での秘め事

 試着室は意外と広く、四畳半近くある。よくあるカーテンで仕切られた簡易なものではなく、ちゃんとした部屋の体裁を整えていた。


「隣にはセンパイもれいなもいるから、しーっ、とね♪」

「何も、こんな強引に――」

 雅の姿を見て、思わず息を呑んだ。


「へへ……どうかな? コレ」

 ピンクの派手なビキニ。胸は半分以上露出し、下半身もかなり下腹部が見えている。


「あと決め手はバックなんだよね」

 くるりと後ろを向いて、お尻を見せた。


「うぉぅ!?」


 思わずヘンな声が出るくらい、凄い露出度だった。

 柔らかさと重量感を併せ持つ、量感たっぷりな雅のお尻がほぼ丸見え。


「ブラジリアンビキニっていうんだって。足がぎゅんと長く見えるし、お尻もほら、アタシのつるつるすべすべだから、余計にキレイに見えていいらしいよー」


 そう言いながら、上半身を少し屈め、俺に向かってお尻を突き出して見せた。


 確かに染み一つない美しい肌だ。そして圧倒的なボリューム感……にしても、ちょっと露出し過ぎじゃないか? もう、ハダカに近いだろ、これ。


 上半身に関して言えば、風呂に入ったときのマイクロビキニよりはまだマシだ。しかし下半身はより過激で危険。


 そもそも、控えパレスの風呂に入るのとはわけが違う。


「念のため訊くが、これで海水浴場とか……人目のあるところへ行くわけだよな?」

「うん。そうだよ」


「うーん……」

 思わず腕を組んで唸った。


「あれ? あんまし良くなかった?」


「いや……いいけど、他の大勢の人に見られるのは、ちょっと抵抗あるなって」

「それって……ユート以外の人に見せたくない、ってこと?」

 雅は正面を向くと、一歩俺に近付いた。


「まあ、そうなる……かな。独占欲丸出しみたいで、かっこ悪いけど。何で俺にそんなこと言われなきゃいけないんだ、って感じだよな? 気を悪くしたなら――」


 じりっと雅は俺に近付く。


 というか、水着に包まれたおっぱいの先が俺の胸に当たった。


「ううん。イヤな気は……しないかな。というか」


 雅の頬が、さっと赤く染まる。

「……う、うれしい、よ?」


 さらに雅は顔を俺に近付けた。

 おっぱいに突き飛ばされるようにして、後ろへ下がった。

 背中が壁に当たるが、雅はそれでもおっぱいを押し付けて来る。


「だから、ユートが見たいなら、アタシ何でも着るし……嫌がるなら、他の人には見せたりしないよ」


「み、雅……」

「アタシの水着姿……どう、かな?」


「あ、ああ……いい、と思う」


「やっぱりお尻とか?」


「そ、そうだな」


 雅は嬉しそうに笑うと、俺から体を離す。

 ほっとしたのも束の間、今度は背中を向けて俺に寄りかかった。


 そしてお尻を俺の股間に押し付ける。


「ま、待て! そこは、そこはヤバい!」


「ええ~どうしてぇ? アタシのお尻気に入ってくれたんでしょ? ね、ここでコッソリ魔力補給しちゃおーよ♥」


「こんなところで!?」


 慌てる俺を見て、雅はさらにいたずらっぽい笑みを浮かべる。

 その顔はまさに小悪魔のそれ。実に淫靡な表情だった。


「じゃ……いくよ」

 前屈みになり、お尻を突き出す。

 当たりは柔らかいが、強烈な圧力だった。

 大きなお尻が円を描くようにして回転する。上から見おろすその腰つきは、とてつもなくいやらしい。


 いやそれより、傍から見たらこの絵面はヤバ過ぎる!!

 もう、何というか、やってるようにしか見えないし!


「わ、分かったから、雅! 早く離れてくれ! こんなところを人に見られたら――」


 ガチャリと扉が開いた。


「!?」


 黒いビキニを身に着けたリゼル先輩が、じっとりしたまなざしで睨んでいた。


 リゼル先輩の水着姿も、背筋がぞくぞくするほどセクシーだった。

 真っ白な肌に黒の水着がよく映えて、妙に艶めかしく妖しげな艶っぽさが――って! そんな場合じゃない!!


「りっ!? リゼル先輩っ……こ、これはっ!?」


「まったく……油断も隙もないわね」

 いかにも不機嫌そうなオーラを振りまきながら、試着室に入ってくる。

 さすがの雅も俺から離れ、あははと誤魔化すような笑みを浮かべている。


「雅、ところかまわず発情するのはやめなさい」


 は、発情!? 何か凄い言葉が飛び出したな……。


「私たち『恋人ラバーズ』のカードには、『愛魔献上ヒーリング・ラバーズ』という行為がついて回るわ。でもそれはあくまで信頼関係に基づいた儀式。もう少し理性と品位というものを持ってもらわないと、いらぬ誤解を受けてしまうわ」


 雅は少しムッとした顔をすると、俺の腕に抱きついた。


「別にそういうつもりじゃないし。アタシは自分の気持ちに素直になってるだけだし。センパイはこーゆーこと本当はしたくないんでしょ? だったらしなければいいじゃん。でも、アタシはしたいんだから」


「な……」


 リゼル先輩は口を開けたまま、驚きの表情で固まった。

 しかしすぐに俺に近付くと、雅とは反対側の腕に抱きついた。


「いつ私がしたくないだなんて言ったの? 私がどれだけ我慢してるか、雅に分かる?」

「そんなの知るわけないし!」


「あ、あの、二人とも……落ち着いて――」


 しかし二人は俺の言うことになど耳を貸さない。俺自身も、両側から抱きしめられ、異常に気持ちの良い体で挟まれているので、いまいち頭が働かない。


「私はユートが魔王大戦に勝つことを最優先に考えているの。そのために耐えているし、色々なことを我慢しているのよ! なのに、どうして雅は自分勝手なの!?」


「そんなのアタシだって考えてるし! でも自分の気持ちに嘘を吐くのも無理だから!」


「ユートと私たちの未来のため、世界のためなのよ!? 少しは忍耐というものを覚えたらどうなの!?」


「センパイはエッチに興味がないんだから、別にいいじゃん!!」


 リゼル先輩はぎゅっと唇を噛んだ。そして、我慢していたものを破裂させるように叫んだ。


「エッチなんて! ……したいに決まってるじゃない!!」


 はっとして、リゼル先輩が固まった。


 思わず口走ってしまった自分の言葉に、先輩自身が驚いているようだった。

 ゆっくりと視線を下げ、恥ずかしそうにうつむいた。長い黒髪から覗く耳が真っ赤だ。


 照れ隠しか、落ち着かないのか、指先をしきりに動かしているが、結果的に俺の腕をもみもみ揉んでいるのでくすぐったい。


 雅も驚きの顔で、うつむいたリゼル先輩のつむじのあたりを見つめている。

 試着室に充満したこの空気、どうしたものか。


「え、えっと……」


 打開策が見いだせず、冷や汗が滲んだとき扉が勢いよく開いた。


「け、ケンカはケンカは、だめだめですっ!」


 真っ白な競泳水着を着たれいなが、飛び込んで来た。

「み、みんな、みんな、なかよくっ!!」


 目に涙を浮かべ、ぷるぷる震えながら訴えている。


「あ……」

「……」

 先輩と雅は気まずそうに視線をそらすと、俺から離れた。


「じゃ、じゃあさ……せめて、アタシとセンパイのどっちの水着がいいか、決めてよ」


 そう来るか!?

 くそ、雅の奴め。無茶振りしやがって。


 俺はわずかな逡巡の後、真っ直ぐ前に歩き、れいなの細い手首をつかみ、ボクシングの勝者のように腕を上げさせた。


「れいなの勝ち」


「へ?」

 れいなはきょとんとした顔を、かくっと傾けた。


「ま……しょうがないっか」

「やむを得ないわね……」

 渋い顔をする二人を前に、チャンプはおろおろと挙動不審。


「れ、れいなの水着、そんなにいいですか?」

 分かっていなかった。


 が、しかし。薄い競泳水着はれいなの幼い体のディテールを、これでもかと浮かび上がらせているのも事実で……はっきり言うと透けているので、それは実に背徳的な妖艶さを漂わせていた。


 端的に言うなら、犯罪の香りだった。


 わずかに盛り上がった胸のさきっぽの形とか、へその窪みとか、その下の……とか。


 後でサポーターというものの存在を教えてやらなければ、と俺は心に誓った。

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