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 夏は自分があの、銀色の拳銃を手にしているかもしれないと思ったからだ。しかし、夏の手にしていたそれは、銀色の拳銃ではなかった。もう少し大きいもの。見ると、それは夏が愛用しているお気に入りのカセットテープレコーダーだった。四角いレコーダーには白いイヤフォンがぐるぐる巻きにされていた。

 それを見て、夏はほっと胸をなでおろした。

「これが欲しいの?」夏は言う。

「はい」と雛は元気よく答える。

「それって音楽を聴くための道具ですよね。私、音楽っていうものに、すごく興味があるんです」雛の顔は真剣そのものだった。

 夏はどうしようかと迷って遥を見た。

 遥は優しい顔をしていた。それはもしよかったら、雛にそれをプレゼントしてあげて、という合図だった。夏は遥の許可を受けて、雛にそのカセットテープレコーダーをプレゼントすることにした。

「いいよ。これ、雛ちゃんにあげるね」夏はそう言って雛の手の上に四角いカセットテープレコーダーをそっと置いた。

「本当にいいんですか?」雛は言う。

「もちろん。ハッピーバースデー。雛ちゃん」夏は言う。

「お誕生日おめでとう。雛」と遥が言った。

「……ありがとうございます」

 雛は感動しながらそう言った。

 雛の小さな体は小さく、ふるふると震えていた。

「じゃあ、雛ちゃん。今度は私のお願い、聞いてくれる?」と夏が言った。

「夏さんのお願い、ですか?」と雛は言った。

「うん。私も雛ちゃんにお願いがあるんだ。それを雛ちゃんに叶えて欲しいの」

「そのお願いってなんですか?」雛は首を小さく傾けた。

「雛ちゃん」

「はい」雛は言う。

「私と、お友達になってください」雛の目を正面から見ながら、姿勢を正して夏は言った。

 すると雛は目を丸くして驚いた。

 その顔があまりにもおかしかったので、夏は思わず笑ってしまった。

「本当ですか?」

「うん。本当だよ」夏は言う。

「本当に私と、友達になってくれるんですか?」

「うん。もちろん」

 そう言って夏は小さな雛の体をぎゅっと抱き締めた。

 か細い体。

 すぐにでも消えてしまいそうなくらい、軽い、空気のような雛の体。まるで雪で作られているみたいに冷たい体。

「嬉しい」雛が言った。

 雛がそっとその両手を夏の背中に回した。

 夏と雛は緑色の世界の上でお互いその存在を確かめ合った。

 そんな二人の姿を、遥はとても嬉しそうな顔で見つめていた。

 透明な風が大地の上を駆け抜けた。

 幸せな夏の夢はそこで唐突に終わった。

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