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「雪山で遭難した日、それが私の人生のターニングポイントになったんです」

 ターニングポイント、……人生の分岐点。

「女の子は救助され、不思議な動物は大人たちに殺される」

 静かな声でそう言って、雛はそっと夏を見る。

「夏さん」

「なに?」夏は笑顔で雛を見る。

「……私は、この世界の中に生まれてきてもよい命だったんでしょうか?」夏を上目遣いで見つめながら、自信がなさそうな顔で、雛が言う。

「そんなの、いいに決まってるじゃん」夏はそう即答する。

「命にいいも悪いもあるわけないじゃん」夏は言う。

 事実夏はその通りだと思っている。

 自分の命は自分のもの。

 好きに使って、かまわない。

 いつでも生まれて、かまわない。

「そう、ですね」雛は言う。

「夏さんの言う通りかも、しれません」

 雛はなんだか嬉しそうな顔をした。

 その雛の顔を見て、夏はとても嬉しくなった。

 夏はゆっくりと銀色のカプセルの周りを歩きながら、手でカプセルを触って、その感触を確かめた。それから夏は、自分にとって人生のターニングポイントとなった時期はいつだろう? と、そんなことを考えてみた。

 その答えはすぐに出た。

 それは遥と出会ったときだ。 

 でもそれともうひとつだけ、同じくらい自分の人生を変えた出来事があることに気がついた。

 それは夏のお母さんが亡くなった、という出来事だった。

 あの日は雨が降っていた。

 雨の降る夜の、真夜中の時間に、お母さんが息を引き取ったときに、夏の人生のレールは間違いなく切り替わっていた。夏自身はそのことに今の今までずっと気がついていなかったのだけど、考えてみると、それは間違いないように思われた。

 夏は頭の中でお母さんの顔を思い出してみた。

 それから、

「お母さん」

 と、夏はその思いを言葉にして、自分の声に出して言ってみた。

「お母さん?」と雛が言う。

 お母さん。

 ……お母さん、か。

 夏は思う。

「お母さんは幸せだったのかな?」

 夏の言葉に、雛は首をかしげるだけだった。

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