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 白い風車は間近で見ると思っていたよりもはるかに大きく、まるで神話や民話に出てくるような巨大な木のようだった。シンプルなデザインをした巨大な三本の白い羽を持つ風車はとてもゆっくりと回転運動をしていた。

 風車はいくつかの数がまとまって大地の上に並んで立っていた。

 その位置や並び方に規則性があるのかどうかは、夏にはわからなかった。

 丘の上から眺めるドームの中の風景は、今まで夏が見てきたどの世界よりも、美しかった。

 一見すると、それは中世の宗教画のようにも思える。

 実際にあるように思えて、実際にはどこにも存在しない場所。

 まるで天国のようなところ。

 楽園。

 そんな言葉がぴったりの風景だった。

 地平線の果てには、光の加減のせいなのか、うっすらとドームの輪郭が見えた。それは七色に輝いていて、上に行けば行くほど、淡い光に変化して、空の中に溶けるように消えていた。

 これが遥の求めた理想の世界の風景なのだろうか?

 そんなことを、夏は思った。

 緑色の丘の上。

 人工の風と、人工の緑。

 太陽の光。

 そこに二つの人影が見える。

 一人は木戸遥。

 そしてその隣に立っているのは、瀬戸夏、ではなく、木戸雛だった。

 遥は雛と手をつないでゆっくりとした歩調で、丘の上を歩いていた。

 その二人の関係は姉妹のようにも、親子のようにも思える。

 雛を見る遥の顔は笑っていて、そして不思議と、遥を見る雛の顔も笑っていた。

 幸せそうな二人。

 そんな二人の邪魔をしているのは夏だった。

 二人の歩く風景は完璧で、余計なものは夏以外に存在していなかった。

 そこにはあるべき木戸遥の姿があった。

 そこにはあるべき木戸雛の姿があった。

 でも、瀬戸夏はそうではなかった。

 二人は夏に背を向けて歩いている。

 二人の背中を夏は見ている。

 すると、ふっと、木戸雛が夏のほうを振り返った。

「夏は、遥のことが好きなんだよね?」小さな子供のような声で、雛が言う。

「うん。大好き」

 夏は自信を持ってそう答えた。

「世界で一番、遥が好き」

 夏がそう答えると、雛は嬉しそうににっこりと笑って見せた。

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