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 次に夏が案内された部屋は遥の私室だった。

 遥の部屋は物が少なくてとてもシンプルな部屋だった。あるものはテーブルと椅子とノートパソコンくらいのものだ。この部屋には余計なものがなにもなかった。

 荷物を床に降ろし、椅子に座った夏に遥はコーヒーをご馳走してくれた。

 自分の分と夏の分の二つ分だ。

 遥の淹れてくれたコーヒーはとても美味しかったのだけど、夏には少しだけ苦かった。夏は角砂糖を二つ、コーヒーの中に入れて溶かして飲んだ。

 夏は木戸雛について遥になにも質問しなかった。

 仕事上、法律上、契約上の理由で遥が夏に話せないことが山ほどあることも理解していたし、それにそんな話を聞きたいとも思わなかった。むしろああして遥の研究対象である雛の姿を夏に見せてくれただけでも、遥にできる夏へのぎりぎりの信頼の証であると捉えることにしたのだ。

 しばらくコーヒーを飲みながらゆっくりとした時間を過ごしていると、ぎゅー、と夏のお腹が突然鳴った。

 その音を聞いて遥はくすっと笑い、夏が顔を赤くして、それから奥にあるというキッチンで遥が二人分の食事を作ってくれるということになった。夏もそれを手伝った。二人で料理をして、それを二人だけで食べた。

 夏の持って来た手持ちのラジオにカセットテープを入れて、そこから静かな音楽を流して、夏は遥と二人だけの時間を過ごした。

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