第60話 何を捨てるべきかは(奏サイド)

夜中に珍しく目が覚めた。

泣いたからか冷静に今の状況を考えられる。


私はどうしたいんだろう?


手術しなきゃ、いつか本当に音を失う。

音の無い世界か…。自分のサイトの名前に自分がなりそうなんだから笑えないなぁ。


でも手術したら、完全に治ることはなくなる。

今より悪くなることが無くなるけど、良くなることも無くなる…。


一生この耳と補聴器と付き合って行くのか…。


無意識にピンクの補聴器にれていた。


───あの人ならどちらを願うかな?


この先も難聴の私と一緒に居てくれるかな?

健常者の人がよかったと思ったりしないかな?


思わず笑ってしまった。

自分のことなのにあの人のことばかり考えてる。

それにあの人ならこの選択肢に迷ったりすることはないはずだ。迷う私を怒るかもしれない。


…その怒る声が聞こえないなんてイヤだな。


私の中での答えは決まった。

何を捨てるべきかは決めた。

もう1度、補聴器にれたあとに両頬を叩いて気合いを入れた。


そして


次の日に父に自分の気持ちを伝えた。

それと『お願い』をひとつした。

それは『お願い』じゃなくて『ワガママ』なのかもしれない。


あの人との…、彼との時間を1日欲しいと。



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