第32話 嘘

シロは菜々の家から出て自分の家に戻ろうとした時、何故かドアノブに手を伸ばせなかった。

ドアノブに触れようとしても体がなぜか拒否反応を起こしてしまう。

家に帰って早くマキちゃんに会いたい気持ちはある。でも、さっきの事が脳裏を過ぎり呼吸が次第に早くなり、だんだん息が荒くなって来た。

シロは今ある全ての力を振り絞り、家のインターホンを鳴らした。そして、シロは意識を失った。

シロが目を覚ますと、さっきまで家の前に居たはずが自分の部屋に戻って来ている。

ベットから起きてリビングに行くと、テーブルにマキからの書き置きが残っていた。


『シロへ ちょっと買い物に行って来ます。早く帰って来るから心配しないでね』


シロは書き置きの手紙を読み終わると、四つ折りにして胸ポケットに入れた。

そっか、マキちゃん居ないのね。・・・でも、今は好都合だわ。

今日菜々から聞いた事を改めて振り返り、そしてメモに残した。これで次また話す時に何か聞き出せればいいのだけど。

しかし、問題があのノートだ。先ほど帰り際に渡されたボロボロのノート。

凄く気になるのだが、今見たら絶対に引き戻せなくなる、そんな感じがしてならない。

とりあえず今は閉まっておこう。できればマキちゃんが何日か家を開ける日が来るまで見ないでおこう。

そうすればバレないし、私の中での考えの整理もつくだろうし。

シロがノートを自分の部屋に隠し終わったタイミングでマキが帰って来た。


「ただいまー」

「おかえり、マキちゃん」

「シロ、もう大丈夫なの?」

「うん、少し寝たら良くなったから」

「あんまり無理しちゃダメだよ。ほら、アイス買って来たから一緒に食べましょう」

「うん!」


マキは先ほど買ってきたものを冷蔵庫に入れ、アイスとスプーンを持ってシロの元へ向かった。

マキが座った後にアイスを受け取り、二人で食べ始めた。

アイスを食べ進めて行くうちにマキからとある質問をされた。


「そういえば菜々さんと何話してたの?」

「え?」

「どんな話してたのか気になっちゃって」

「あー・・・着物を褒められてたのよ」

「へー、いいじゃんいいじゃん!私も行きたかったな〜」

「マキちゃんが来たら私の魅力薄れちゃうじゃない」

「なにってるのよ、シロも可愛いわよ」

「あ、ありがとう」


ごめんね、マキちゃん。着物を褒められたなんて嘘なの。

本当のことを言いたいけど、言えないの。

言っても誰も幸せにはならないし、聞いても不幸になるだけだから。

これが私が生涯を通して初めてマキちゃんに嘘をついた日だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る