テンプレ2 「トラック転生 その2」

 イスズが白い空間に来る前、彼は自前のトラック『ジョニー号』を気分良く運転していた。

 意外かもしれないが、彼は今まで一度も交通違反で捕まったことのない、優良運転手ドライバーであり、この日も信号をきっちりと守り運転していた。

 

 交差点の信号は明らかに青を指し示していた。イスズはさっさと通ろうとアクセルを軽く踏む。


「っ!?」


 しかし、そのとき、一人の学ランを着た高校生が飛び出してきた。

 イスズは咄嗟にハンドルを切り、トラックは横転した。


 イスズの判断の正確さにより、その事故での死亡者はイスズ一人だけだった。

 イスズは横転したトラックの中、薄れゆく意識で、歩行者の信号が青だったことをぼんやりと見ていた。


「ふざけんなよ。クソがっ……」


 こうして銀河イスズの30年という短い生涯の幕が降りた。



「お、お主、佐藤正義の代わりに誤ってここへきたというのか……」


 神は驚きの表情を浮かべ、イスズをまじまじと眺める。


「ああ、半分不本意ながらな。まぁ、だがいい機会だ。俺はここで異世界転生への憧れってやつを全部ぶっ壊してやるよ!」


「そ、そんなことをしたらっ!」


「俺の元いた世界のトラックでの事故率が下がるな」


 イスズは神へと顔を近づけると、とても人とは思えない凶悪な顔を神へ向ける。


「さて、まずは手始めにお前だな」


「い、いったい何を」


「これから転生してくるやつにチート能力を与えるのをやめろ。いいな!」


 神はガクガクと頷く。


「それから俺を転生させるな。この身体のまま、『マヒア』っていうテメーの世界に送れ。それから愛車の『ジョニー号』も一緒にだ! いいな。わかったな」


 神がどうしようか決めあぐねていると、ガンッと顔の真横に足が振り下ろされた。


「わかったな?」


「わ、わかりましたっ!」


「今の言葉がウソだったらどうなるか分かってるだろうな?」


 神は一瞬、マヒアに行ったらここに戻ってくるのはムリではと思ったが、しかし、神にさえ打ち勝つこの男なら、なにがなんでもここに戻って来るだろうという予感が働き、神は「もちろん」と頷いた。


「か、神はウソをつけぬ存在ゆえ、口にしたことは全て守られます!」


「そうか、なら良し! それじゃ、行ってくるわ」


「あ、あの~、最後に1つよろしいですか?」


 神はすっかり及び腰になり敬語でイスズへと尋ねる。


「能力を与えるとき、我よりは強くならない最強の身体能力にしているのに、なぜそんなに強く?」


「はぁ!? んな分かりきったこと聞いてんじゃねぇよ。漢が限界超えて強くなるのは気合と根性だろうがっ」


 背中を見せながら銀河イスズは異世界へと降り立った。

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