第33話 バカ男子の会話
圭太と涼介は冴子と別れた後に映画館にやってきた。無事に解放されたことに二人でホッとする。
「なあ、ケイタ、すごかったな」
「ああ。俺もいつボコられるか気が気じゃなかったよ」
「そうじゃなくて、たい焼きの食べっぷりさ」
「言われてみれば、そうだったな」
「あのおっぱいは、小豆で育て上げたんだろうな」
「そうなのか?」
「うむ」
見に来た映画は前評判ほどは面白くなかったが、主演女優のバストは中々のものだった。おバカなお色気ギャグ映画なので、涼介も前川先輩とは見ることが出来ないらしい。それで、圭太が付き合ったのだった。
「75点くらいかな」
映画館の入ったショッピングモールのフードコートで昼飯を食べながら涼介が厳かに宣言する。
「随分点数が辛いんだな」
「まあな」
「チクショウ、その余裕の笑みをやめろ」
「すまん。どうしても前川先輩と比べるとな」
「だったら、先輩のだけを見ておけばいいじゃないか」
涼介は、チッチッチと舌打ちをして指を振る。
「時々、他のを見ないといかに素晴らしい物なのかを忘れそうになるんでな」
「ほざいてろ」
圭太は唇を尖らせる。
「まあ、そう怒るなよ。それで、結局、ケイタと宇嘉ちゃんはどうなったんだ?」
「さっきも言っただろ。休みに入ってから会ってないって」
「ということは、ドリームランドの件もまだ話してないのか」
「ああ」
「頼むぜ。前川先輩はしっかりした性格だから、チケットを無駄にするのとか嫌がるんだよ」
「別に俺じゃなくてもいいじゃないか」
「そう言うなって。先輩は結構お前のことを気に入っててさ。なんでも、お前なら気を使わなくても良さそうなんだってさ」
「それって、空気ってことじゃねえか。俺ってそういうキャラとして認識されてるのかな?」
「まあ、別に悪い印象じゃないと思うぞ」
「なら、いいけどさ。陸上部の女の子もそういう印象みたいなんだよね」
「1年生の子か?」
「うん、川内さんと伊藤さん」
「なんだよ。しっかり、女の子になじんでるんじゃないか。しかも、割と可愛い子だし。残念ながら俺の秘密ノートでは高ポイントを得られないが」
「だろ。宇嘉といい勝負な薄さなんだよな」
「うーん」
涼介は考え込む。
「ケイタ。お前って実は微少女に好かれやすいんじゃないか? ビと言っても美しいじゃないぞ。この場合は、そっちの意味もあるが」
「やめてくれよ。偶然だよ、偶然」
「とは言ってもなあ。俺なんざ、前川先輩ぐらいなもんだぞ、評価が悪くないの。残念王子とか呼ばれてるんだぜ」
「そりゃ、初対面の相手のサイズとカップ数を言い当てるとか、変態以外の何もんでもないだろ」
「いや、そんなに褒めなくても」
照れながら、あははと笑う涼介。
「褒めてねえ。しかし、前川先輩がお前を受け入れたのが謎で仕方ない」
「だよなあ。俺も不思議だ」
「自分で言うなよ」
「とりま、ドリームランドの件頼むぜ。宇嘉ちゃんによろしくな」
「なんで、宇嘉って前提なんだよ」
「だって、いい子じゃないか。それにもう時間もないんだし。誘ったら絶対喜ぶって。な、な」
「お前、手のひら返し過ぎだぞ。前は裏切り者っていってたくせに」
「別におっきなおっぱい偏愛主義を返上するつもりはないんだ。ただ、おっぱいはおっぱいだ。俺は巨乳派を内包する汎乳派にクラスチェンジしたんだよ」
横を通りかかるお姉さんに、このエロガキどもめ、という目で見られて果てる圭太なのだった。
***
圭太と涼介がどうでもいい話に花を咲かせている頃、宇嘉と石見は作り笑いを張り付けたまま、てんてこ舞いをしていた。白装束に袴をつけて、御守りの受け渡しや、御祈祷の受付に忙しかった。ゴールデンウィークになってから働きづめである。しかも、無給のボランティアなのだった。
別にお金に困っているわけでは無いのだが、こき使われてタダ働きというのは、それはそれで楽しいものではない。しかも、二人が忙しい間に山吹は楽しく京都の町を遊び歩いているのだった。
夜になって、あてがわれた宿舎で宇嘉はぐったりとしていた。
「観光客多すぎ……。バスも混んでるし、お店も長蛇の列だし、人ばっかりで疲れるわ。ずっと笑顔っていうのも大変だし。ねえ、石見、私の顔の表情筋死んでないかしら?」
「大丈夫かと思います。お嬢様。あと数日ですから辛抱なさいませ」
「ああ。圭太は大丈夫かしら。どこかの悪い女に引っかかってなければいいけど」
「その点はご心配いらないかと」
「あの市川という女は間違いなくガチだというのは身をもって分かりましたけど、他にも脂肪の塊で誘惑しそうな女が数人いますし」
「仮にそうだとしましても、圭太さまのあの童貞感丸出しの奥手ぶりでは問題ないと思いますが」
「それならいいのですけれど。白鳥とかいう不埒な男に酷い目に会わされていないかも心配です」
「それを気遣ったからこそ、直接手を下さずに、市川に制裁を加えさせたのでございましょう?」
「ええ。でも、馬鹿はどのようなことをしでかすか予想がつきませんから」
憂い顔をする宇嘉の耳に、別のバカの声が聞こえてくる。
「ただいま~。あ~楽しかった」
ちょっとほろ酔い加減で山吹が帰ってきた。体の線がぴったりと浮いたオレンジ色の派手な服を着崩し、手には経木の包みを提げている。これで頭にネクタイを巻いていたら昭和のおっさんの出来上がりであった。
「どこへ行ってたの?」
「先斗町です。駅前でナンパされて、数軒お店をハシゴしてきました」
「へーそー。良かったわねえ」
「あれ? ひょっとして怒ってます?」
「怒ってなんかいないわよ。ただ、自分一人で遊び歩くのはさぞかし楽しかったでしょうね、ってだけ」
「だって、しょうがないじゃないですか。もう私、清らかな乙女じゃ無いから、お勤めできないんですもん。私は働く気はあるんですよ」
そう言う山吹が真面目にお勤めする姿は想像もできない。それでも、まあ、仕方ないかと思いかけた宇嘉に山吹は余計な追撃をする。
「お嬢様もさっさと圭太様とよろしくやっちゃえば、お勤めしなくても済んだのに残念ですね」
「ちょ、あんた。言うに事欠いて……」
「山吹。ちょっと鴨川まで行きましょうか。さすがにここを汚すわけにはいかないから」
「あ、すいません。酔ってるもんで変なこと言ったかもしれませんけど本心じゃないんです。あ、怖い。そ、そうだ。お土産の助六いかがですか?」
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