──第9話──

『……う……ん?』


寝返りを打ち、目を開けるとカインとライアが目の前にいた。


『カイン!目を覚ましたぞ!』


『ああ、本当に良かった。』


心配そうに覗き込んでいた二人は安堵の表情を浮かべる。


『あれ?とうさん、かあさん……?』


俺が声を出すと、先程まで心配そうにしていたライアの顔がみるみる内に笑顔になっていく。


『聞いたか!カイン!!今、ルディが『母さん』と初めて呼んでくれたぞ!!』


俺は気恥ずかしくて今まで『父さん』『母さん』と一度も呼んでいなかった。


無意識に出た言葉に気が付き、顔の熱が上がるのを感じ、恥ずかしくなり布団を頭まで被る。


『ライア、落ち着きなさい。ルディは病み上がりなんだから。』


そっと布団から覗き見ると、カインの頬も緩みきっていた。


言葉と顔が一致してないぞ。

うぉぉぉぉぉ。

恥ずかしい。


俺が布団の中にくるまっていると、大きな手で優しく叩いてくれる。


『のお、カイン。妾は良いことを思い付いたのだ!』


『…………良いこと?』


イイコト?

え、なんだか嫌な予感が。


『今回ルディが怪我をして思ったのだ。HPが少ないと、な。』


『まあ、そうだな。レベルも低いし、人間とわしらでは頑丈さも違うのであろうな。』


『そこでじゃ!ルディのレベルを上げたらHPも上がるのではないか?』


え、そこでレベル上げ?なんで?

子供が怪我をしたんなら、普通危ない物は近くに置かない様にするとか、怪我をしそうな所は柔らかい素材を付けるとか……

俺が間違ってるのか……?


『……そうだな。だが、今のルディでは狩りに行かせるのも不安だな。』


俺も不安です。

その先の未来は死しか見えないです。


『そこは大丈夫じゃ!妾がついて行くからの!』


さらに不安要素が増えた。

カイン断ってくれ。


『そうか、なら安心だな。』


ええ!?

何で!?


『や、いやだ!』


我慢ならず布団から出て抗議をする。


『初めての狩りは誰だって不安だからの。ルディ安心するのだ。妾がついておる。』


『ライアがいれば大丈夫だ。不安はあるかもしれないが、ルディなら出来ると、と、父さんは信じているぞ。』


カインは最後の方は照れながら言う。


照れるなら自分で『父さん』なんて言わきゃ良いのに。


『な!カイン!ルディ、母さんも出来ると信じておるぞ?』


負けじとライアも『母さん』と、言葉を出す。


俺は二人を『父さん』『母さん』と無意識にでも言わなきゃ良かったと後悔した。


その後も狩りに行くのを反対していた俺だが、この強い二人の親に勝てる訳もなく言いくるめられてしまった。


そして、近い内に俺のレベル上げの為の狩りをする事に決まってしまった。




数日後の朝、カインは、いつものごとくお土産を持って帰って来た。


ただ今回はいつもと違い、防具や動きやすい靴等。


『ルディが初めて森に行くからな。この防具はな……』


にこにこと機嫌良さそうに俺に防具の説明をしてくる。


話をまとめると、動きが鈍くならない軽量型で、手足の可動域を計算し作られている、との事。

靴もブーツの様な形で、靴底には弾力性があり足音が立ちにくい様に出来ているらしい。


そんな事を知っているカインって、普段何してるんだろうな。


エルモアの里の中にいるだけじゃ分からない様な事だと思うんだけど。

しかも、人間用だし。


『おお!ルディに似合いそうだの!』


『そうだろう。知り合いに相談して良いものを買って来たからな。』


カインが言う良いものっておいくらですか?

怖くて聞けないけど。


『早速着てみておくれ。』


ライアとカインに促されるまま防具を身に付ける。


これもいつもの流れだ。


カインが新しい服を買って来たら、すぐに着替えさせられる。

量が多いときは着せ替え人形の気分になる。


『おお!良く似合っておるぞ!』


『やはり、これにして良かったな。』


着替えた俺を満足気に二人して見てくる。


そして、永遠に俺を誉める時間になる。


逃げたい。


この時間だけは、どうにも慣れない。


『そうだ、ルディ。これをやろう。』


そう言ってカインは俺に短剣を手渡した。


上品な装飾をされ、中央に綺麗な石が取り付けられている。


『わしが使う短剣とほぼ同じものだ。魔石の付与は【攻撃力上昇】で、防具の方は【防御力上昇】がついているぞ。』


俺の身に付けている防具の胸元にある石をとんっと叩きながら説明をしている。


『ただ、あまり強過ぎるものは子供には出来ないと断られてな……魔法系統が付与されているモノでも良かったんだが。』


いやいや、付与付ふよつきの商品って結構高いって前にカインが言ってなかったっけ!?

そんな高級な商品受け取れないんだけど!


『あ、あの、これ……』


いらないって言おうとすると、カインが自分の短剣を見せて笑顔になっている。


『ルディとお揃いだな!』


『……う、うん。ソウダネー。ワーイ……』


そんな顔で言われたら断れないじゃん。


『短剣の使い方はまたわしの時間がある時にでも教えるからな。』


今じゃないの!?

え、短剣の使い方も分からないまま、魔物と対決!?


『準備出来たようだの。では、ルディ行くか!』


ライアは俺を抱えると勢い良く玄関から飛び出した。


『気を付けてな。』


笑顔で手を振りながらカインは見送ってくれる。


力の強いライアの手を振りほどける訳もなく、そのまま深淵の森に向かう。


もう、どうにでもなれ!








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