第92話4-29最前線

4-29最前線



 国王陛下が参加している王宮会議にあたしたちは呼ばれた。



 「ティアナよ、よくぞ戻った。しかし、よくこの短期間で戻れたな?」


 国王陛下エドワード様はティアナに聞く。


 「はい、陛下。急事によりゲートを使い、馳せ参じました。」


 ざわざわっ!


 会議場が騒がしくなる。


 「ゲートを使ったとな?」


 「はい、一度精霊都市ユグリアに赴き、それからガレントに帰還いたしました。」


 「なんと、二度もゲートを使われたというのか!?」

 

 「エルハイミ殿も同行していると言う事は、お二人もゲートを通られたというのか!?」


 大臣たちが騒ぐ。

 師匠の話だと一人飛ばすのに魔術師百人分くらいの魔力が必要らしいから二回も、しかも二人もゲートを通ったと言う事は驚きなのだろう。


 「うむ、見事だ。ティアナよ、そなたの成長うれしく思うぞ。」


 「ありがとうございます、しかし陛下今はそれよりホリゾンについてですが、ヨハンに概略は聞きました。今後どのようにするおつもりで?」


 ティアナの言葉に会議室は静かになる。

 多分いろいろな意見が飛び交っていたのだろうけど、交渉が始まっていなければ次の動きが決められないだろう。

 重々しい空気の中、陛下が重い口を開く。


 「今は交渉の結果を待つしかないだろうが、交渉決裂と同時に即戦闘に入る可能性がある。こちらの準備も行っているところだ。」


 そう言って陛下は大きく息を吐く。

 そして交渉には宮廷魔術師のドミンゴさんが行っているそうだ。


 ティアナはそれを聞いてしばらく考える。

  

 「陛下、その交渉はいつ頃始めるのでしょうか?」


 「予定では三日後だ。場所は北の砦からホリゾン側にやや入った所だ。今は双方の国が会談の場を準備しておる。」


 「ならばその交渉、私も参加さえてください!」


 ざわっ!

 

 ティアナの言葉に会議の場がまたざわめく。

 

 「殿下、そのような危険な場所に殿下自ら行かれるのは・・・」


 見かねた大臣が発言する。

 しかしティアナは大臣たちを見渡しこう言う。


 「マシンドールの何たるやは私が詳しい。それにあちらも第三皇子ゾナー殿が率いていると聞いています。こちらも王族の者が出れば誠意を見せられましょう。父アコードが今動くはそれこそ危険。万が一があれば第三軍隊は総崩れは明白、兄の軍隊が動くにしても今からでは間に合わない。なので私が赴きます。」


 「しかし、殿下・・・」


 「御身に何かあればそれこそ大問題に。」


 大臣たちは口々に意見を言うが、陛下は沈黙したままだ。


 「ティアナ・・・」


 あたしは小声で彼女の名前を呼ぶしかない。

 テーブルの下で見えないだろうけど、ティアナはあたしの手を強く握っている。


 仕方ない。


 「皆様、発言をお許しくださいまし。殿下と私は皆様ご存じの通りかの英雄魔法戦士ユカ・コバヤシを師と仰ぎ、鍛錬を積んで参りましたわ。この度、師匠より免許皆伝を受けその魔術に関する評価を受けておりますわ。ティアナ殿下には私も同伴いたします、殿下の御身は私の命をもってお守りいたしますわ。どうぞ、ご安心くださいまし。」


 そう言ってあたしも大臣たちを見る。

 机の下の握られた手は一層強く握られている。


 「エルハイミ。」


 ティアナはこちらを見て小さくあたしの名を呼ぶ。


 「ティアナよ、これより早馬を用意させる。北の砦に赴き、宮廷魔術師ドミンゴとともに交渉に望むがよかろう。エルハイミ殿、ティアナを頼む。」


 会議場の重い空気を国王陛下の声が吹き飛ばす。


 「この交渉が決裂した折には我がガレント全軍をもってホリゾン帝国を打ち破れ!皆の者戦の準備を始めろ!」


 どよどよっ!!


 国王陛下の決断にだれも異論を言えずどよめきだけがする。


 大戦なる。


 誰もが覚悟を決めなければならなかった。



 ◇



 「して、ドミンゴ殿、お話はどこまで進んでおりますか?」


 あたしたちは早馬を走らせ、二日後にはここ北の砦についていた。

 ここはガレント領内最後の砦。

 国境までは目と鼻の先である。


 「ホリゾン帝国の軍隊が国境付近に配備して早七日目、交渉は明日となりますが今まで交わされた内容は我々のマシンドール配備によるホリゾン帝国への侵攻を危惧するものであるとのことです。それ以外には今のところ何も。」


 ドミンゴさんは額の汗を拭きながらティアナに答える。


 あたしたちがここに来てドミンゴさんはかなり驚いていた。

 そしてこの交渉が決裂した場合、ガレント側は全軍をもって打って出る準備をしていると聞かされ更に驚いている。


 「つまりはあちらも退く気はないと言う事ですか。しかし南下侵攻してくる本当の目的は?」


 領土拡張の野心を持っていたとしても、今回のような無理やりの理由付で戦を始めるには損失があまりにも大きい。

 南下侵攻の真の目的が読めない。

 それが何なのか分からない限りこの交渉は難しくなる。


 「いったいこの地に何があるというのですか!?」


 この辺りは強いて言えば地下資源が多少あるくらいだ。

 山岳が多く、ホリゾン側なんてほとんど山しかない。

 ウェージム大陸最北端のここは不毛な土地として知られている。

 確かにガレント側に近づけば森林があるから多少は森の恵みが得られるだろうけど、それだってたかが知れている。

 後はと言えば・・・

 

 あたしはこの近辺の地図を見る。

 北はすぐにホリゾン帝国の領地の山岳帯、山岳を超え切ったここがガレントとの国境になる。

 この近辺を見ても、せいぜい地下資源を採掘しているガレント王国保護下のノルウェン国があるくらいだが・・・


 ん?


 「ドミンゴさん、そう言えば黒の集団って最初ガレント領のこの辺で動いていたのですわよね?」


 「確かにそうじゃが、それがどうしました?」


 「黒の集団は特にどの辺に出没して、どこを襲っていましたのかしら?」


 確か~とか言いながらドミンゴさんも地図を見る。


 「初期出没とその後の最多出没はノルウェン領ですな、特に採掘場がよく襲われたはず。」


 「その採掘場で採掘されているものは何なんですの?」

 

 「確か魔晶石原石が最多のはずですじゃ。あそこは珍しく魔晶石原石が豊富に採掘される。」


 魔晶石原石。

 これはこの世界は魔術師がよくよく使うもの。

 原石自体はそれほど価値が無く、水晶なんかと変わらない価格帯。

 その気になれば小さいものなら農民でも簡単に手に入る。

 これが便利で重宝されるのは魔法が封じ込められると言う事だ。


 アイミの魔晶石核や双備型魔晶石核の原材料にもなっている。


 高度な魔法を封じたり、簡単なもので一回ぽっきりで終わってしまう魔法など様々な用途に使われる。


 そう言えばマース教授やソルミナ教授も北の原石の方が品質が良いようなこと言ってたっけ?


 もしかすると・・・


 「ホリゾン帝国の狙いはノルウェンの魔晶石原石ではないでしょかしら?」


 「魔晶石原石ですとな?しかし、あれはホリゾンでも採掘されているはず。それをいまさら?」


 「問題は魔晶石原石の品質ですわ。学園の研究室で同じ魔法を封じるにしてもその原石の質によって耐久度や保持力が変わると言う事が研究されてましたわ。」


 「あっ!」


 ティアナは思い出したようだ。

 サラマンダーの魔晶石核はだめでもウンディーネの魔晶石核は残った。

 マーズ教授の理論は原石の質によっても左右されることを立証していた。


 もし、ルド王国でも質の良い魔晶石原石を欲していたとしたら・・・

 

 確証はないが可能性はある。

 もしそれが目的ならば。


 

 目的はノルウェンの侵略だ。


 

 

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