第19話


ルキアがなぜ後かと言うと、単純にヒルデガルトとの婚姻が避けられぬなら、俺が一番愛するメアリ一人ならともかく、何人も先にと言う訳にはいかない。

更には魔族であるルキアは被差別種族でもあり、政治的に彼女が先にとは言えない。

勿論ルキアが嫌いな訳ではない。魔族の長女帝ローザとの関係も勘案すれば結婚も良い事だ。


「ヒルデガルト殿。なぜこの時間に?」


到着した翌日の真夜中。部屋をノックされ誰何すると返答はヒルデガルトだった。


「陛下は私と婚姻なさるつもりは無いのでしょう?」


「私は、メアリの他にもう1人女性を待たせている。だからおいそれと貴女と結婚するとは言えないのだ。どうしても貴女の方が先になる。」


「…それは。」


「貴女も同じ女性なら分かるのではないか?ルキアは不安なはずだ。話は婚約と結婚式の後にして貰いたい。心配しなくともクルツ王太子の即位にはなんの問題も存在しない。」


「ですが…。」


「この様な時間に男の部屋へ淑女が訪れるものでは無い。護衛は何をしていた。おい!」


「はっ!彼女を部屋へとお送りしろ。」


「承知致しました。ヒルデガルト殿こちらへ」


俯いていたが、立ち上がると一礼し部屋から出ていった。

その後いくつかの書類にサインすると寝台へと横たわり。眠りに落ちて行った。


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「おはようございます。陛下。」


「何故ヒルデガルト殿が食堂に?まだ早い時間だろう。」


時刻は午前五時。早すぎる位だ。


「あまり、眠れなくて。」


恥ずかしそうに言う彼女に少し動揺する。今までに見た事の無い表情。否、向けられていなかった表情だ。


「…失礼だが、アルフォンソ・リヒトランはどうなった?」


「アルは戦死しました。」


成程、彼女専属の騎士で彼女が想いを抱いていた彼は戦死し敵国の王へと嫁がされるらしい。正に事実は小説よりも奇なり。


「そうか、済まない」


少々気まずくなり、無言で侍女が運んできたブラックの濃いめに淹れさせた珈琲を啜る


「公用便箋をもってこい。」


控える専属の侍女サラ・エルバードに持ってこさせた公用便箋に正式な書式でクルツ王太子の即位を歓迎し王として承認する文書を作製する。


「クルツ王にお渡してしてくれ。私の署名が入っている。教皇と魔王に渡せば連署してくれる」


今は先にルキアに応えてやりたいと思う、がこちらも蔑ろに出来ない。ならば向こうに言質を与えてやる。それで取り敢えず対処しよう。


「…ありがとうございます。兄も喜ぶでしょう。」


不満気と同時に漂う安堵には気が付かなかった事にしておく。そう心に決めた。

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