第22話 AI(愛)の学級対抗戦(後編)
「勇樹は対抗戦には出るの?」
「いや 僕は出ないよ だから全力で応援するんだ!」
((じゃあ出るのは無し))
この時点で、愛もナノも出場しないことが確定した
クラスの頂点が出場しない事にクラスメート達は難色を示したが
「あなた達だけで勝てる自身が無いの?」
と氷のような視線で見下され
「そんな根性の無い奴は出てこい! 俺がぶっ飛ばしてやるぜ!」
ナノの素振りで巻き起こる旋風に戦々恐々となり
3位以下3名の出場が決まった
3位以下と言えど、愛達さえいなければ、Sクラスのトップ3であったであろう実力者たち
次々に勝ちを進める
彼らにとってFクラスなど眼中になかった
それ故に、決勝戦の相手がFクラスと知り、わが耳を疑う
廊下ですれ違うたびに「クズが!」「役立たずが!」と罵っていた無能供が自分たちと戦うに足る強さを持つなどあり得ない
しかし、それが事実であると身をもって知る事となる
Sクラス5位の女子は魔術師であった
周囲から、将来は宮廷魔術師への道が確実視されている
それほどの才能の持ち主だった
両親ともに有能な魔術師
魔術師界のサラブレッド
Fクラスの女子も魔術師だった
子供の頃、故郷に来た魔術師に見せてもらった美しい炎の華
それを見たあの日から、魔術師になりたいと夢見て来た
入学試験で魔術の才能無しの烙印を押され、Fクラス入りを果たす
そんな彼女の使った魔法は『ファイアボール』
初級も初級
魔法使いなら誰でも使えると言っていい魔法だった
「ファイアボールですって!? 私を舐めているの?」
否
彼女は至極真剣だった
何故なら冒険では一瞬の油断が、命を危険にさらす
そう授業で教官に教わったからだ
自分の命だけではない
大切な仲間の命も失うかもしれないのだと
だから試合と言えども、実戦の気持ちで挑んでいる
「これだからFクラスはクズの集まりだって言われるのよ」
過去に何度も彼女を傷つけた言葉
しかし、どんな誹謗中傷の言葉も、今の彼女を傷つけることは出来ない
何故なら、彼女には日頃の努力を認め合える仲間たちが居るのだから
彼女は思い出す、勇樹と相互循環した時の感動を
そこで見た『星の世界』を
子供の頃みた、あの美しい華を思い出した
そして自分の中にも、その存在を感じられるようになった
そこから少しだけ力をお借りする
次に思い出すのは彼の言葉
それは彼女には関係ない武術に関する会話だった
だが何故かそれが彼女の琴線に触れた
「武術の達人はね、唯の突きや蹴りでさえ必殺の威力を放てるんだって」
「だからね基本を何度も何度も練習すれば、それが自分の武器になると思うんだ」
「基本ってとても大切って事だよね」
その日から彼女は初級魔法を徹底的に練習した
魔力を手に集中させ、イメージを明確にし各属性へと魔力を変化させ放つ
それを一日に何度も何度も繰り返す
無限の魔力の源を知った彼女だからこそ、それが可能だった
いつしか呪文の詠唱さえ必要が無くなった
まるで呼吸をするように魔法が使えるようになった
そして気が付けば
彼女のファイアボールは初級の域をはるかに超えた魔法となった
人の背丈ほどもある、蒼い炎球が現れた時
Sクラスの魔術師は、震えながら棄権の言葉を口にした
教官たちは思った
『あんなファイアボールは見たことがない』と
『あれは自分たちでも防げない』と
『将来彼女は、宮廷魔術師になるに違いない』と
Sクラス4位の男子は剣の名手だった
彼は貴族の出で、代々軍の剣術指南役を担う家系であった
3歳の頃から剣を握り鍛錬を続けて来た
その実力はもはや学生レベルではない
相手がFクラスと知り、彼はこう言った
「あんなクズども 目を瞑っても勝てるぞ」
Fクラスの男子も剣を使う
彼の家は不味しく食事も満足に口に出来ない日もあった
冒険者学校に通い、立派な冒険者になって家族を支えるのが彼の目標だった
両親はなけなしの金を払い彼を冒険者学校に入学させてくれた
しかし、栄養不足で痩せこけた彼が待っていた先は最弱のFクラス
彼は夢を希望を失った
しかし、途中から入学してきた男子の言葉が彼を変えていく
「僕たちは何だって出来る」
「諦めない限りね」
それを自ら実践するように、その男子は訓練に励んだ
そして自分もそれに倣った
「体作りは食事からだよね」
言われる通りに食った 食いまくった
気が付けばクラス一の大食漢になっていた
「魔力を体に循環させると、疲労の回復も早いよ」
魔力を体内で循環させ身体を苛め抜いた
健康的な食生活も幸いしたのか、言われたように次の日にも疲れは残らない
「俺は魔法が苦手だから剣を使う」
そう決めた彼は、確かに器用な方では無かった
だが一つの事を繰り返す事は、まったく苦に成らなかった
だからひたすら剣を振った、体中に魔力をみなぎらせ振りに振りまくった
百回が千回
千回が万回に達した時
彼は剣が自分の手足のように感じるようになった
制服の上からでもその隆起が伺える、引き締まった筋肉
手にした模擬剣は、彼の背丈ほどもあった
学長が将来これを振れるものが現れるようにと、期待を込めて作らせた大剣
だが残念なことに、以降一人で持ち上げられた者は居なかった
その剣を軽々と上段に構え、常時体内循環させている魔力を最大限に引き上げる
ドンッと大地を震わす程に魔力が増大した
「うおりゃあ!」
掛け声とともに、素振りを一振り
その斬撃は触れずとも大地を割り、壁に大きな傷をつけた
「じゃあ やろうか?」
勝負は一瞬で片が付いた
「す、すみません 棄権します」
Sクラス3位の男子も剣を使う
だが、切るのではなく突きを主体とした剣
レイピアを愛用していた
Sクラスの者でさえ彼の突きを躱せる者は居なかった
愛とナノを除いてだが
『細剣の貴公子』そう呼ばれる彼は伯爵家の御曹司だった
だが、その性格は残念なことに貴族の品格を備えてはいなかった
「Fクラス? しかもあのようなチビを相手にするなど 俺の人生の汚点だ」
Fクラスの男子は小柄だった
「おいチビ! お前なんかが冒険者になれる訳がないだろう?」
小さな体、もちろん力もない
学校に入る以前、彼は毎日のように虐められた
身体が小さいただそれだけの理由で
何度も何度も、思い知らされた
(僕は小さくて力もない だから冒険者になれない)
だが、その思いは否定された、1人の男子の言葉によって
「体が小さいってことは、それだけ素早く動けるって事だよ」
「僕の住んでいたところにはね その昔、忍者って呼ばれる人たちが居てね」
「凄い速さで走ったり、壁を飛び越えたり、空も飛べたんだよ!」
「僕もそのニンジャ? みたいになれるかな?」
「なれるさ!」
「その為にも、一緒に走ろう!」
「君なら走れるよ 誰よりも早く 風のようにね」
彼と一緒に走った 走りまくった
「魔力を足に集中させれば、君はもっと早く走れるよ」
身体強化を一定の部位に集中させるのは非常に難しい
「風のように走りたい」
彼の強い願いは、それを可能にした
もう誰も彼の前を走れる者は居ない
彼は風になったのだ
「試合はじめ!」
『疾風突き』
を放とうとした『細剣の貴公子』は相手を見失う
『疾風斬 寸止め』
気が付けば模擬剣が首に当てられていた
同じ名を冠する技
だがその速さには、歴然たる差があった
「しょ、勝負あり!」
その動きは、審判を務める教官でさえ捉えられなかった
F組の完勝だった
Sクラスの教官は内心ほくそ笑んだ
F組とS組の生徒が入れ替わる
どちらにしろ自分のクラスが最強なのだ
「ではFクラスとSクラスは生徒の入れ替えを行います」
「それはお断りします」
Fクラスの少年がきっぱりと拒否した
「僕たちの教官は、お一人だけですから」
優勝の胴上げを行った
この世界では行われない行為らしい
Fクラスの教官が、この世界で最初に胴上げされた人物となった
「せーのっ! わっしょい! わっしょい! わっしょい! わっしょい!」
勇樹に教えられた掛け声と共に、生徒たちに胴上げされる
(この日の事は私の一生の思い出になるよ)
(本当にありがとう)
彼は教育者としての人生の中、Fクラスの教官であり続けた
最低のクラスに入ることになり、絶望で瞳の輝きを失った生徒たちに、かつての生徒たちの話を聞かせる
「君たちは何にだってなれるんだ」
「君たちが諦めない限り」
かつて一人の生徒が教壇に立ち
勇気を出して語ってくれた言葉を生徒たちに伝える
「そして私もあきらめない」
「君たちがあきらめない限り!」
教官の言葉は心から生徒たちを思って綴られている
その言葉が、生徒たちの瞳に再び輝きを取り戻させた
彼の教え子たちは、みな優秀な人材として卒業していく事になる
「そう言えばFクラスの出場者ってどうやって決めたの?」
愛の問いに
「じゃんけんさ! 僕以外、みんな同じくらい強いからね!」
嬉しそうに答える勇樹
その後、誰もFクラスを馬鹿にする者は居なくなった
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