第44話 三人の絆

「で、美人だったっすか?」



「え、あ、う、うん」



「び、美人さん……だったの?」



「うん……まぁ、うん」




帰宅した途端にコレだ。



やっとこさ屋敷までついて、さぁ自分の時間だと部屋に入れば 暇を持て余したペリグリンとメリーが俺を出迎えた。


ペイジという聞きなれない仕事について興味満々と言った様子で、あれやこれや聞いてくる。正直、ペイジなんてカッコいい名前だがやっていることは自由奔放なフィオナ嬢のお守役。ただの話し相手でしかない。




「くぁっ〜〜〜〜‼︎いいっすねぇ‼︎大金持ちのお嬢様に俺も会ってみたいっす‼︎」



「す、好きになっちゃった?その大金持ちのお嬢様、好きになった?」




勝手に盛り上がるペリグリンと、何やら不安げな表情を浮かべて問いただしてくるメリー。


例の事件以来、2人とも俺をより慕うようになった。特にメリーは、恐ろしいくらいにベッタリで、俺がこの屋敷にいるときは常に服の端を掴んでついてくる。大人しいし可愛いから嫌ではないが、逆に俺がこの屋敷にいないとき大丈夫か?と心配になる。




「え、いや、好きって……お二人とも優しくていい人だから勿論好きだよ。あ、でも、僕は2人も大好きだからね」



「本当?……よかったぁ」




はい、可愛い。圧倒的天使。


フニャッと笑うメリーににやける顔を抑えつつ、俺は話題を無理やり変える。




「それより、ペリグリンとメリーは今日何をしていたの?ずっと屋敷の中じゃ暇だった?」



「いや、大丈夫っすよ。俺たち、ニナの手伝いで屋敷の掃除と別館の修理をしてたっす。って言っても、俺たちみたいな素人にはそんな大層なことできないっすけど……まぁ、出来ることからやろっかなって。な、メリー」



「うん。今日は、此処の二階のお掃除と 別館の壊れた家具を外に運び出したの。ペリグリンが風を起こして、あちこちを吹き飛ばしちゃって一気に片付いちゃったの」




なるほど、ニナの手伝いね。


それにしても、ペリグリンは最近 能力を惜しむことなく使用するようになった気がする。

鍛錬のつもりなのか?




「ペリグリン、最近 よく能力を使うのは練習なのかな?」



「え、あ、いやぁ……まぁそうっすね」




へへっと照れながら頰を掻くペリグリンの発言は、どうも歯切れが悪い。

ペリグリン?と心配そうなメリー。

俺も同じだ。


ペリグリンは俺とメリーが心配しているのを感じ取ったのか、少し間をあけると彼の本心を喋り出した。




「その……俺、ルカ坊っちゃんみたいに強くなりたいなぁ〜って思って」



「え、僕?」



「この間の戦闘で、俺 ルカ坊っちゃんに迷惑ばっかかけちゃって……悔しいっすけど、ドクトルの言う通りっす。『お前は自らの命を差し出して二人を救ったつもりでいるのか』って。本当そうっすよね。俺、グレゴリオと戦ってた時 本当は勝とうだなんて思ってなかったっす。絶対に勝てない、負けるって分かってたんっすよ。でも、それでも俺が死ぬまでの間に2人が逃げられたらそれでいいって」



「ペリグリン……」




ペリグリンの言葉に、メリーはぎゅっと胸の方で両手を握りしめる。


そうか、こいつそんなつもりだったのか。

俺が2人を見捨ててでも助かろうと逃げていた時、ペリグリンは自分の命を捨ててでも俺やメリーを逃がそうと戦っていたんだ。




「でも、この間 手紙の配達でロレンツァさん家に行った時 言われたっす。グレゴリオが能無しでよかった。もし貴方が洗脳にかかっていたら、大変だったって。それで、ハッとしたっす。俺が2人を守ろう守ろうって思ってやってたことが、実は2人を危ない目に合わせていたんだって。俺、本当に何にも考えてなかった。その時に思いついたことをして、場を混乱させて……なのに、ルカ坊っちゃんはそんな俺を責めることなく受け入れてくれて……だから俺、もっと賢くなるっす‼︎賢く、強くなって、それでメリーとルカ坊っちゃんを守れるほどの男になりたいっす‼︎」




グッと拳に力を込めて、ペリグリンはまっすぐした瞳で訴えかけてくる。


熱血なヤツだ。

だが、これは都合がいい。

思いの外 彼が俺を慕っていたことがわかった今、それを利用しない手はない。


俺は、ねぎらうように彼の肩に手を置こうとした。その時




「私も……私も、強くなりたい‼︎」




いきなり、今までボソボソと弱々しく喋っていたメリーが聞いたことないほど大きな声でハッキリとそう断言する。

おい、お前もか。




「ずっと、今まで誰かに大人しく従っているか逃げているかの毎日だったけど、ここに来て2人に出会って 分かったの。従っていたのも逃げていたのも、本当は自分が自らそうしようとしていたんだって。誰かのいうとおりにして逃げていれば、傷つかずに済むし……立ち向かう勇気もなかった。でも、この間 『何かを守るためには戦わなくちゃならないんだよ』ってルカに言われて そうか、私も戦わなくちゃって思ったの。私は、やっと見つけた私の居場所を守りたい。私と仲良くしてくれる2人を守りたい。だから……私、もっともっと強くなって2人を守れるようになる‼︎」




え、俺そんなこと言ったっけか?

若干記憶が曖昧だが、ここで聞くわけにもいかない。



俺は2人の手を握った。

このチャンスを無駄には出来ない。




「ありがとう、二人とも。僕は君たちのような誠実で優しい友達を持てて、本当に幸せだよ。この間の事件のことは、前も言ったとおり三人とも無事でいられたのだから気にする必要はないよ。でも、2人が色々と得られたものがあったのならそれはそれで良かった。それと、実は僕にも一つ分かったことがあったんだ。それは、僕は決して強くないってことだ」



「まさか!ルカ坊っちゃんは強いっすよ‼︎」



「そ、そうだよ……‼︎」



「いいや、僕は強くなんてないよ。僕の能力は、攻撃を受けなければ使用することができない厄介なモノなんだ。今回のグレゴリオのような間接的攻撃であれば、なんの役にも立たない。それに、僕はペリグリンやメリーのように応用魔法を使うことはできないし 剣を握るほど力強い腕を持っているわけでもない。僕は何の役にも立てない……」




俺はそう言って、二人の手を取る。

瞳を涙で潤わせ、唇を震わせて、ぎゅっと手に力を込めた。




「ただ、二人だけが頼りなんだ」



「ルカ坊っちゃん……‼︎」



「ルカ……‼︎」




感激して目に涙をためる二人。


やっぱりガキはちょろい。

ここまで言っておけば、少々のことでは信頼と好意は揺るがされることはないだろう。

ある意味、安心して動かせる駒が増えた。それも、若い応用魔法の使い手という特典付きの。


内心ほくそ笑みながら、俺はにこりと二人に微笑んで見せた。




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