第16話 俺の新生活

こうして、変人学者ジークヴァルトの元で生活をすることになったわけだが、そこでの生活のルーティーンを紹介しておくとしよう。



朝、俺は自室で目覚めると鏡で身支度をしつつたっぷりと自身の美貌を満足いくまで眺める。

そして十分堪能した後は、屋敷の玄関で郵便屋を待つ。


アルバート達と共に暮らしていた頃は手紙や配達はさほどなかったが、ジークヴァルトのもとにはこれでもかというほど大量の手紙が届けられてくる。それを一気に運んでくるのは、配達屋のペレグリンだ。



「おはよ、ルカ坊っちゃん。今日も早いっすね」



「おはよう、ペレグリン。今日も大量だね」



「本当っすよ〜、めっちゃくちゃ重かったんすから!この大量の手紙を頑張って持って来たってのに、ジークヴァルト様ときたら屋敷に入るなーとか言ってくるんすよ!」



口を尖らせて文句たらたらの彼は、手紙の束を俺に渡す。


彼のいう通り、ペレグリンはジークヴァルトに屋敷に入らないよう何度も言われている。何でも、顔は許容範囲だが身なりが最悪らしい。

なかなかに酷評だ。


ペレグリンの服は確かに土で汚れていて、いつも何かしらの葉っぱを頭にくっつけている。それでもなぜか爽やかに見えるのは、彼の太陽みたいな笑顔のせいか。


彼が屋敷には入れないため、この手紙をジークヴァルト本人に渡すのは俺の仕事だ。本来はニナの仕事だが、俺はその仕事を買って出た。

勿論、狙いはアルバート達からの手紙をジークヴァルトに見られない為だ。一応ジークヴァルトにはケヴィンとの繋がりがあるから、二人で共犯となってアルバートを騙そうとしている可能性はありえなくはない。それを考慮して、直接手紙は受け取っておきたかった。



「おはようございます、ペレグリンさん」



「あ、おはよう!ニナ!」



俺の背後からやって来たニナは、ペレグリンに配達料を払う役目だ。

ニナもペレグリンも俺がこの屋敷に来る前から顔なじみらしいが、特に仲が良いわけでも悪いわけでもなさそうだ。というか、ペレグリンの目線はいつもニナの胸にいっている。

健全にすくすく育っている証拠だ。勿論、俺も毎日ちゃんと堪能させてもらっている。


さて、俺が不必要にこのペレグリンという少年と仲良くしているのにも目的がある。



「あ、そうだ。今日は昼過ぎぐらいから暇だから、それから村に出よう!」



「その時間でしたら、ジークヴァルト様は屋敷にはいらっしゃいません。6時までにはお戻りになられますよう」



「うん、そうするよ」



彼は俺を弟のように思っているらしく、両親と離れ離れでこの屋敷に暮らしている俺を可愛がってくれている。その延長で、あの馬車から見えた村にちょくちょく遊びに連れていってくれるのだ。

これは、俺にとって思っても見ないことだった。この屋敷に来てからは、殆ど毎日と言って良いほど村に出かけている。

これも、ペレグリンのおかげだ。


ペレグリンが再び仕事に戻ると、俺は自分宛の手紙を引き抜いて残りの手紙をジークヴァルトの自室に運ぶ。



「失礼します、手紙が届きましたよ、先生」



「あぁ、ご苦労様」



俺が手紙を持ってくると、彼は本から目を離さずに指示をする。

偉そうな奴め。


ジークヴァルトは、午前中に書斎で難しそうな本を読んだり書類を書いたりと事務仕事のようなことをしてから仕事へと出向く。今でも家庭教師をしているらしく昼過ぎからは出て行って、夕食の時間になるとまた戻ってくる。

正直言って、どれが本業なんだか分からない。


それから、力のコントロールの件はなかなかに難航中だ。身体中に意味不明なプラグのようなものを貼って測定したりなんやらかんやらとしてみたが、成果は得られていないようだ。



ただ、一度だけジークヴァルトが興味ありげにしていたことがある。



それは、俺が彼の書斎で本を取るよう指示された時だ。割と高い位置にあった本を踏み台から背伸びをして取った際に、近くの本も一斉に落ちて来た。


やばい、雪崩だ!


そう思った時には遅く、目の真ん前に本の雪崩が迫って来ていた。とっさに目を瞑った瞬間、あの時の体から何かが抜けていくような感覚がして、周囲が光り出し、迫っていた本は四方八方に吹き飛ばされてしまった。



「へぇ……なるほどね」



俺の力を目の当たりにしたジークヴァルトは、ニヤリと嫌な笑みを浮かべる。

この野郎、てめぇのせいで危ないとこだったんだぞ。と抗議してやりたかったが そこはぐっと堪えて怯えた顔をして彼に抱きついた。



「先生、僕……僕…………‼︎」



「そう怯えなくとも、この力を使いこなせるようになるさ。それにしても都合のいい力だね。一体どのような法則で発揮されているのか、調べる価値があるようだ」



とかなんとか言われて、今は何故だか変な実験はなく、ただ普通の生活を送っている。

廊下を走ってみろ、だとか 歌を歌ってみろ、だとか言われてやってみるがそれでは力は現れない。


俺が思うに、この間のロゼットが襲われていた時のことも考慮すると 俺の身に危険が及んだ時だけ現れるのではないか。


よく考えてみると、どちらも危険が迫った瞬間に力が現れていることは明らかだ。


まぁ、これは俺からジークヴァルトに言うのはもう少し後にしておこう。今はまだ、ここの生活に慣れておきたい。それから、近くの村での知り合いも作っておかなくてはならない。英雄となるには、それこそ幼少期から優れた才能と人望を持っておくべきだ。


勿論、それも全て世界征服という目標に続いているのだから。

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