第21話 はじめてのおつかい
唯と合流し、上野は駅へと向かった。時刻は2時。気温は30度をゆうに超えているだろう。シャツが汗ばむ。
「あっついねー。うちわくらい持ってくれば良かったかな?」
「そうだね」
「直也はさ、夏と冬だったらどっちが好き?私は断然冬だなー」
「俺も冬かな」
「だよねー.......ねぇ!!!」
上野の目の前に唯が飛び出る。驚きと火照りで顔をそらしてしまう。
「なんかそっけなくない!?私とおつかい行くのは嫌なの!?」
「えっ、いや、そういう訳じゃなくて」
「ふーん、私よりもさーちゃんの方が良いんでしょ?」
「いや、だからそういう訳じゃ」
「目も合わせてくれないし」
それは、顔が真っ赤になってるのを見せたくないからとは流石に言えない。
「ちゃんと顔見て。目と目を合わせて会話しようよー」
恐る恐る唯の顔を見る。そして、見た瞬間に顔が熱くなる。多分、真っ赤になっているのだろう。しかし、そうなっているのは上野だけではなかった。
「あはははは。やっぱり暑いねー!暑すぎて顔赤くなっちゃうよー!」
服をパタパタしながら唯は歩いていく。
『唯さ、あいつとデキてんの?』
不意に皐月のセリフが頭に浮かぶ。
「なれないよ......」
唯は赤くなった顔を手で抑えながら小さく呟いた。
買っていく紅茶がある店は、駅前の古民家風な店だった。店の中に入った瞬間、お茶の良い匂いがする。
「いらっしゃいませ...おー、これはこれは。お久しぶりですね」
マスターらしき白髪の優しそうな老人は、洗ったカップを拭きながら唯に話しかけた。
「こんにちは、マスター。久しぶり。いつもの紅茶買いにきたの」
「はいはい。ちょっと待ってね」
マスターは奥の部屋へと入っていき、紅茶の茶葉を何袋か持ってきた。
「そちらはボーイフレンドかい?」
「えっ」
思わず上野は声を上げた。
「ちっ、違うの!この人はうちのホテルで今バイトしてるの。今日はパパに言われて2人でおつかい」
「そうかい。君も気軽に来るといい。大歓迎だからね。はい、唯ちゃん。いつものね」
「ありがとう。これ代金ね」
「はいよ。お父さんによろしくね」
「はーい」
2人は店を後にした。
「なんか、良い雰囲気のお店だね」
「うん。あそこのマスターはちっちゃい頃からお世話になってるの。お茶もすごい美味しいんだよ」
「また行ってみたいな」
時計を見ると、もう4時を過ぎていた。
「じゃ、じゃあさ、今度の放課後に一緒に行く?」
「えっ!?一緒に!?」
「あっ!いや、さーちゃんと3人でさ!」
「あー、そういうことね...」
唯に見えないところでちょっとがっかりする。2人っきりという訳にはいかないか。
「ん、どしたの?」
「いやいや、何でもない」
「私のオススメはミルクティーだよー。あの絶妙な甘さがいいんだよねー」
そんなたわいもない話が、上野にとって新鮮で、喜ばしいものだった。
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