EP08-02
南天を統べる太陽の輝きをブラインドの隙間から覗く。昨晩の出来事の何もかもが夢であったかのように、白昼の光に満ち満ちた外界はあるがままの姿で広がっていた。
焼け焦げた木々や焦土と化した
「……
物知り顔を浮かべるテラの言葉を、間の抜けた声で反芻する。円卓と表現するには少しだけ頼りないテーブルを挟んで、不敵な笑みを湛える彼が首肯した。私の右手には、まだ青白い顔をしたクレアが気怠げに腰かけている。私とクレアは、ホムラが目を覚ました直後に気を失うようにして眠ってしまったのだった。
「そう、あの火吹き虫たちが襲来する数分前に、俺の
突如として始まった
「今や現代人の生活に欠かせなくなった
「……う、うん?」
「人々が使用する
素っ気ない口調で私のほうを見ようともしないクレアは、私を敬遠しているようでさえあった。最初から説明する気がないとまでは言わないけれど、言葉の端々に小さな棘を覗かせている。
「うーん。要するに、赤色の
「は、はぁっ?」
私の指摘が図星を指したらしく、クレアは奇声を上げて顔を赤らめた。これは物珍しいものを見せてもらったとばかりに、テラの顔がにやつく。
「いいか? 昨日見たものはすべて忘れろ。俺はいつだって平静で冷血だ。いついかなる時も、
「なにそれ。私を笑い死にさせたいとしか思えない」
私もテラも、ひどく動揺するクレアを生暖かい目で眺めた。こんなやり取りができるのも、ホムラが一命を取り留めてくれたからこそだ。それでもホムラの苦痛とこの先の困難を思うと、すぐに陰鬱な気持ちに引き戻される。
「まぁとにかく、エリカの解釈で間違ってないよ。突発的に起きた
滑らかな語勢でテラが仕切り直した。つまりはそれが、ナギさんだと言いたいのだろうか。
「神奈木はシロだ。少なくとも、ハエ共が襲来したこの一件についてはな」
口惜しそうに断言したのは、意外にもクレアだった。テーブルに身を乗り出してテラが便乗する。
「クレアと同じ意見だね。そもそも俺が
テラの言い分は至極単純なようでいて、実のところごもっともだった。彼は得意げに続ける。
「クレアも知っているとおり、
APサンプル。聞き慣れない言葉に戸惑いながらも、空間に展開する、という部分については感覚で理解できた。アンは
「……
思わず独りごちてしまった私の声に、テラとクレアが目を瞠った。
「なぁ
「うん。それって最初に会った時にホムラが言ってたやつだよね。私はあなたたちの目的のひとつが、
少しだけ考える素振りを見せたクレアを、テラがじっと見つめている。
「"
やたらと怖い顔で問いかけるクレアの剣幕に、心騒ぎを覚えずにはいられなかった。けれど私は、思うままを答える。アンの
「たしかに
意図せぬ沈黙が場を包んだ。クレアはともかくとして、多弁が取り柄のテラまでもが黙り込んでしまう。
「……簡単には信じられない感じ? それとも私には到底理解できない理論で、赤潮を引き起こしたのがアンだって断定したわけ?」
二人へと問いかける声の中に、押し殺せなかった苛立ちが滲んでいた。顔を背けて目を閉じれば、焼け爛れたホムラの左腕が脳裏に浮かぶ。事の元凶がアンである可能性を、今までだって一度も考えなかったわけじゃない。
だけどそれでも、その事実が確定してしまったら。
足元が揺らぐような感覚があった。草むらに伏せて状況を見守っているだけだった私は、自らの責任を軽く見積もり過ぎているのかもしれない。
自責の念なら、もちろんある。
けれど──。
「エリカ。馬鹿なことは考えるな」
クレアが私の腕を引き、真剣な眼差しで私を覗き込んだ。彼女の手を反射的に振り払おうとした私の口に、無理やり
「
テラが語って聞かせたのは、先ほどの
「エリカ。君はもう今さら、俺の話が妄想だと断言できるのかい?」
テラが雄弁に問いかけた。私が力なく首を横に振ると、クレアはやっと私を解放する。舌の上の
「酷な話だけどね、最重要容疑者を更新するしかない。おそらく君の親愛なる
私はもう一度、無言のままに首を振った。
アンの能力がどうかなんて関係ない。
私の知る彼はポンコツで、どこまでもポンコツで仕方のない育ての親でしかなかった。
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