第9話 マスター
「嘘でしょ..!?」
脂汗を流し、驚愕する菓子職人。
うでが鈍った訳ではなく、消費量が生産量を上回る事態に困惑している。
「足んねぇ、やっぱプロだわアンタ」
現代に米騒動的衝撃を与えるとは、欲の力おそるべし。底の無い脅威。
「はぁ、はぁ..もう無理...」
「もう品切れ?
いや、燃料切れか。んじゃあ終わりにしまっせ」
へこたれ膝を落としたマカロンを縄で縛り拘束する。
「ちょ、ちょっと何するのよ!
離しなさいよ!」
「暴れんなって、100均で買った縄跳び解けやすいんだから」
しっかりと縛り終えると正面に仁王立ちいきなり叱咤をし始めた。
「いいか?
職人が菓子に爆薬混ぜるってのは暴挙だかんね!」
「はん!
美味けりゃいいのよ何入れてもね!
素人が語らないでくれます!?」
玄人のプライド、それも崩れる刻は近い。
「..そうかよ、じゃあ食ってみろ自分で作った菓子をさ。」
「何よそれ、どういうつもりよ!
やめなさいよ、ねぇ!」
懐に隠したマカロンを開いた口へ誘う
「動いた衝撃で潰れてっから味は落ちてるかもしれねぇけど安心しなよ。」
「倒れる程に美味いだろうからさ?」
「やめろぉぉー!!」
シャウトと同時に口の中へホールイン。己の作った洋菓子は、弾けるように美味かったようだ。
「..なんか、腹減ったな。
帰ったらムッキーに飯作らせるか」
爆破的食欲は未だ満たされなかった。
「おい、今の音聞いたか?
ありゃワガママ女の屁の音だ。」
「自分の屁で死んだの?」
「逆だバカ、テメェらの片割れを殺したんだよ!」
「そうなんだ」 「がはっ!」
こいつ、今どうやってここまで。
「儚いものだね、一生って」
見えない速さの膝が腹を抉った。瞬間移動の類ではなく、気付いたら腹に刺さっていた。
「お前今のどうやって!」
「……」
「聞いてんのかテメェ‼︎」
「時間ってさぁ、見た事ある?」
「..なんだと?」
人の話を一切聞かず、脈略の無い質問をぶつけるリブライの言葉に思わず質問で返した。
「普通は時間て読んだり、見るとしても数字でだよね、でもそれを見て意味があるのは死期があるからだ」
死ぬ日が必ず来る。その日に備え、人や生物は時間を確認し生きている事を実感する。
「だけど死とかそういう概念を持たない僕やプルトには、時間という単位が数字では無く、別の形で表れる」
「別の形..だと?」
「そ、普段はしんど過ぎるからフード被って周りと一緒に生きてるフリをしてるけど、それが無いと時間は勝手に力に変わる」
「..意味がわからねぇ。」
黒いフードは謂わば制御装置、安静を保つために時間との関わりを極力和らげている。しかしそれを外すと、リブライの身体は時間の影響を受けて、自然と能力が向上していく。
「力は特に近くの時間に比例する、今ならそうだな、君の寿命がそのまま僕の力になって身体を動かす。
「がはっ!」 「止まらないんだよ」
強烈な左ブロー、フレイムの元々の寿命が速さを昇げ、威力を高める。
「俺の時間で俺を殺す気か!?
ふざけんなよぉ!!」
大きく炎を噴かしリブライを狙う、がしかし速さには追いつかない。
「無駄だって、そもそも炎じゃ燃えないしさ」
拳の連打、右膝、左エルボー、右フック、怒涛の打撃がフレイムを襲う。
「いい度胸じゃねぇか、俺は元々消防隊員だったんだ。腕っ節には自信があるんだよ!」
「消防士が炎使うの?
深刻な未練があるんだろうね、興味ないけど」
死因は焼身といったところか。
焼身で傷心、過信で放心。
「馬鹿にすんじゃねぇ!!」
「一回もしてないよ」
留めの右アッパーカット、長引くと大きく負担が掛かる。これでも長くかかった方だ。
「う..ぐっ...。」
「モロ入ったね、起きて来ないでよ?僕も限界だから」
最早体力の限界、ただでさえ現でフードを脱ぐのは初の試み。冥土程に腕は振るえない。文化を覚えたのも最近の事、身体の動かし方など見様見真似もいいところだ。
「ヴォ..」
「何、君ちょっとしつこいよ?」
殴打され、故障した筈のフレイムがぬらりと起き上がる。姿は依然と変わり果て、黒目を失い、全身を炎に包まれている。
「ヴオォォォー!!」
猛る雄叫びその声は、少しだけ消防車のサイレンの音に似ていた。
「勘弁してよ..ヘトヘトなんだから」
自我の無い炎の化身は悪戯に拳を振るう、火達磨になった右の拳を立てる。
「だから燃えないんだってば!」
身を後ろへ引き、拳を避けつつ脇腹に蹴りを一発。ファーストタッチをした事で、先程までに無かった異変を幾つか感じ取る。
「熱つ!」
影響の無かった炎が伝わり、身体を燃やすようになった。魂そのものが、炎と共鳴した事により、現に蔓延る直接的な外傷とは異なる解釈になった事が要因だ。
「ヴォォォ!!」
四隅に火柱を上げ、部屋の温度を上昇させる。体温を持たないリブライにも
それは伝わる。
「消耗させて落とそうって事ね、仕方ない、こっちも少し昇げようか」
上げるのは行動力、今の状態での全力は身体に負担が掛かり過ぎる。しかし手を抜くと、部屋に殺される。
「アンタも限界だろ?
ガタのきた体を炎で無理矢理起こしてんだもんね、お陰でさっきより力が増してるよ」
それは比例して、リブライの力の向上も意味する。
「前に冥土(あっち)で同業者相手にフード外して戦(や)り合った事があってさ、命の限界が無かったんで増えるだけ増えちゃって、気が付いたらお互いブっ倒れてたよ」
昔のドジ話、昔という時間が人よりおびただしく長く存在するので時系列までは把握出来ないが、確かに存在していた時間。
「だから何だって話だけどさ!」
文字通りフレイムとなった男へ猛進、力と速さをふんだんに使い、先程とは比べものに出来ぬ程の殴打殴打殴打。
「ヴォォ!!」 「熱いって」
体表に触れるのみでも熱が伝わるというのに、吠える事で更に燃え上がる。
挙げ句の果てに大きな火球を放ち、攻撃性まで覗かせる。
「やっぱ体育会系苦手だ、一人で騒いでればいいのになんで巻き込むかな」
団結、絆、友情といった表面的な薄いものを愛している運動部は彼にとって身の毛もよだつ化け物だ。毛が身体に生えているかは不明だが。
「でも不思議なんだよなアイツら、文化祭でもはしゃぐんだよ、体育祭であれだけ迷惑かけてんのに」
理解不能な奇行に不満を持ちながら腕を振るう。炎が拳にうつる前に戻し、また前に出しを繰り返し、確実に当てていく。それを繰り返していると相手は一応人の端くれ、怒りの感情が沸々と湧き出す。
「ヴオォォォー!!」「え、何?」
部屋の四隅の火柱が形を崩し、宙に舞い、部屋中を漂う霧状となる。
「..あぁそういう事、それ以上やるとこの部屋ごとみたいなことか」
部屋中を舞う炎の霧が一気に燃え上がれば、この部屋もろとも焼き上がる。
下手な行動は厳禁という訳だ。
「ホントに弱い者好きだね、クラスのそういう奴大っ嫌いだったよ」
学生時代の愚痴ばかりだ。集団行動を強いられる環境が余程嫌だったのだろう。
「面倒だな、上手くできた事ないけどアレをやってみるか」
最早拳も振るえない、そもそも戦闘向きじゃない、というかちゃんと戦いたくないので時間を弄る事にした。
「まずは..時間よ止まれ!」
部屋とフレイムの時間を止めた、慣れていないのでやはりぎこちない。
「よし出来た、後は..僕の力はそのままで、こいつの時間を、少しだけ戻せば..」
強化された時間はそのままに、炎を纏う以前の時間に片方のみを戻す。
「動け、時間!
お、上手くいってる、案外出来るもんなんだね」
時間が起動すると同時に相手に拳を振りかぶる。
「な、なんだおいっ!」
「ごめんこれは止められない」
未来からのスリップパンチ、過去の身体では到底受け切れない。未知の衝撃には敵わない。
「ノビちゃったよ、少しズルかったね、まぁいいやおやすみ」
事を成し遂げフードを被る。付加された負担が一気に身体を蓄積する。
「おっと..っと、ヤッバイなこれ
ホント一回休まないとマズイ..よね」
余りの負荷に立っていられなくなり、その場に倒れ込む。暫く休息が必要だ
「..炎が消えないな、ソーセージ焼こう、あそうか、プルトいないんだね」
一人で過ごす本当の怠惰が始まった。
廃ビル三階
前裁行人と、現裁行人の叩き合いが行われていた。キリングと名乗る二丁銃の男の撃つ弾を、睦月祥吾の日本刀が斬り落とす、それがひたすら繰り返される。現状は、祥吾の防戦一方といったところだ。
「遠くでピストルばんばか撃ちやがって、拳銃か?」
「..ハンドガンだ。」
お互いに、武器は一組のみ。
小細工はしない。いや、要領が悪い。
「同じ動きばかりか、甚だ疑問だな。
何故彼の方がお前を優遇しているか」
「あの方って誰だよ?」
「お前の良く知っている人だ、お前も本当は気付いているだろう?」
「まぁ、何となくはな!」
弾を跳ね返し銃の表面にぶつける。
「..乗ってきたな、小僧..!!」
「ハナっからやる気マンマンだ!」
より一層撃ち合いは激しく豪快に、弾を撃ち、斬り、撃ち、斬りの連続。途中でシリンダーを取り替え弾を補充している筈なのだが隙は無く、モーションすらも追う事は出来ない。
「どうした、返すだけでは無駄に体力を消費するだけだぞ?」
「お前こそ撃ちが遅れてきてんじゃねぇのか?」
「舐めるな。」「こちらこそだ」
やはり飛び道具に分があるか、刀よりも圧倒的に手数が多い。接近戦を強いる武器では、近付く事すらままならない。延々と続く銃撃に成す術あらずと思われたその時、キリングのハンドガンに異変が生じる。
「..おかしい、弾が出ん」
「やっとか、随分待ったぜ。」
「何をした..?」
「銃口を見てみな。」「これは..!」
二つの銃口に、砕けた弾の破片が敷き詰められ、穴に栓をしている。
「..貴様、唯弾を跳ね返していただけでは無かったのか」
「ゴルフの要領だ、やった事一回もないけどな。」
「こんな、馬鹿な事があるか..舐めるなよ小僧..!」
負けじと引き金を引く、すると銃は表面を崩し、バラバラに砕けた。
「なんだと..!?」
「苦労したぜ、一個一個小せぇ銃に当てるのはよ」
「ここまで考えていたか..やるな。」
攻撃は最大の防御。ならば逆も然り、防御は最大の攻撃なのだ。
「いくぜ?」 「来るがいい」
抵抗はしない。
唯そこに立ち、一太刀を待つ。
「いよっ!」
白刀一閃、キリングに捧ぐ新時代による勝利の証明。
「ひぃ〜、思いっきりぶった斬ったのに消滅もしねぇ!
とんだ強靭な魂だぜったく。」
横たわる身体を残し次の階へ
「いよっし、いよいよかよ。
まぁた階段登るのか?」
部屋の奥を見ると便利な四角い箱が設置されているのが分かった。
「..最上階はエレベーターかよ、全部に付けとけよ。」
文句を言いながら箱に乗り込む。驚く程スムーズに、最上階が顔を出した。
「部屋は少し広いくらいで他と同じか、どうでもいいが。」
中間程まで歩いていくと、禍々しい黒い人影が姿を現わす。勿論背を向けて
「来たか、裁行人よ」
「やっぱりお前か、どこ行ってんかと思えば悪の親玉気取りか?」
「なぁ、マスターよ!」
数日後の再開は、以前と少し雰囲気が違うようだ。
「マスターか、いい呼び名だ。正に私が目指す処」
「目的はなんだ?」
知り合いの野望など聞く気も失せるが、聞かねば道理も分からない。
「世界が歪み始めたのいつだ?」
「知るかんな事。」
「知らないか、だろうな
君のタイミングで起きた事では無い、人の感覚は己では理解しえない物だ」
「何が言いてぇ?」
「ならば歪みで生じた彷徨う魂は何処に行く?」
「質問に答えろっての!」
支離滅裂、自我が先行し話は最早意味をなさない。
「私はね祥吾くん、行き場の無い者達も還る場所が有れば意味のある存在になると思うんだ」
「.....あん?」
「分からないかね?
総ての命は私が支配する、世界を崩したのは、得る魂を増やす為!」
「やっぱりあれは、ミスった訳じゃねぇんだな?」
契約をおざなりに敢えて済ませ、世界の歪みを拡大させた。多くの魂を己に取り込む為に。
「私は世界を担うのだ!
そう、総ての命に君臨する唯一無二の
支配者(マスター)に!!」
大門に魂が集う。
街中に浮遊し蠢く魂が、一同に介し取り込まれ、奴の身体に大きな翼を宿す
「はっはっは、どうだ!
これがマスターたる者の姿、ひれ伏しこうべを垂れるが良い!」
「支配されてんのかてめぇだろうが、自分の自我も抑えられねぇのか。」
「ムッキー!」 「ガキか!」
「うっわ何だコレ!」
エレベーターを伝い、ミルカが合流する。変わり果てた上司の姿に思わず声を上げ驚嘆する。
「管理人は?」
「二階で寝てたから声掛けたけど、やる事が有るとかいって先に行かされた。」
「こんなときに何してやがんだ!」
戦闘態勢を整えようと一先ず刀を抜いてみるも、意味をなさない事は直ぐに解った。
「私が渡したなまくらか、そんなもので何をしようというのだ?」
「何させる為に渡したんだよ、そもそもさぁ!」
「我が糧とする為だ、お前達の後は街を喰らい、世界に侵攻する。そんな刀で斬ったものなど前菜程度に過ぎん」
刀に魂を吸わせる事で、祥吾の価値は高騰する。最終的には餌となるのだ。
「なんだよ腹減ってんの、アタシと同じじゃん。」
「一緒にすんな!」
「笑い事じゃないよ、アイツを野放しにすりゃ街の命は吸われ、しまいには生物は世界にいなくなるだわさ。」
「だわさって..でもどうすりゃいい?
手の出し用がねぇぞ!」
大門の頭に丸い光の輪が浮かび、腕を掲げ振り降ろすと、祥吾らの元に雷撃が落ちる。
「ほう、奴も未だ街を彷徨っていたか..」
「落雷!?
これってお前、あん時の!」
「電気技師の奴じゃんか。」
街に洗脳を掛け住人を支配した国王気取りの男、紛う事無き奴の力。
「アレもアンタの仕業だってのか?」
「私はきっかけを与えただけだ、やったのは彼自身だ。」
「力ある奴が良く言う事だ、認めろよ。強者の感じ出すな!」
権力はいつも勿体ぶる。絶対にはいと言わない。視聴率が悪くてもなかなか打ち切りにしない。〝我々が目覚しているのは視聴率ではない〟などとスカした事を言ってのけ、感覚の異なる高尚な存在だという事を演出したがる。
「もう皆んな気付いてるからなその感じ!」
「お前誰に言ってんだよそれ。」
「ならば私の力で潰してやろう!」
「届いてんかよ、あの変な言葉」
白く鈍い光を放つ十字型の大きな物体を出現させる。
「でけぇなおい」「三つもあるわ」
「聖なる十字架だ、光に包まれ圧し殺されるがいい」
天に浮かぶ十字架が、こちらに目掛け隕石の如く降り落ちる。
「朝だろ!?」「避けろムッキー!」
必死の形相で回避に励み、ギリギリの間隔で二つ程の回避に成功した。
「大丈夫かガキ!」「なんとかね!」
「クソっ、範囲がデカすぎる!」
一つ目を避けた段階で確保された部屋のスペースを使い切ってしまった。
「どうすんだよあと一個!」
残る最後の一つは祥吾に向かって降りそそぐ。
「クソッタレがぁ..!!」
十字架の表面に刀を当てがい、切断を試みる。
「くおぉ..‼︎」
「無駄だ!
お前達は所詮私の支配下、握る刀の一振りも私のものだ。私の武器で私の力に、傷をつけられると思うかぁ!」
裁行人は、魂の弁護士。
裁行人がいる事で管理人は街の魂を管理する事が出来る。つまりそれを支配下におけば、街全体の魂を見定める事が可能となる。
「いい事を教えやろう、元々私は自縛魂だ。お前達と変わらない、この世に未練のある愚か者なのだよ」
「だろうな。」
「じゃなきゃここまでしねぇだろ」
執着心が生み出した、野望の権化。今それと相対している最中だ。
「私の未練は世界!
欲望や役職にのめり込む貴様らとは次元が違う、程度の低いお前らにどこまでの一体どこまでこの世の想像ができている?」
「要は世界を己通りに変えたいと、中学生みたいだな。」
「盛大なワガママってこったな」
彼らにとってこれが精一杯の解釈だ。
「分からんならいい、元々期待などしていない。潰れろ裁行人!」
十字架が重くのし掛かる、刀で防ぐ事は出来ず、逃げ場は無い。
「くっ!」 「落ちろぉ!!」
重みに耐えきれず十字架を受ける。重厚な音に沈み、姿は完全に隠れた。
「ムッキー!」
押し潰された祥吾、見えるのは十字架のみ。
「何やってだテメェ!」「………」
言葉を紡がず口を閉じたまま、翼から飛ばした無数のカッターの様な者で十字架を斬り裂き砕き壊す。
「……ふん。」
十字架が割れ、床が見えると、横たわる祥吾の姿が現れる。
「ムッキー!」「生きていたか..」
「げほっ..良く言うぜ、加減してたのはそっちだろ?」
死なない程度に傷を負わせた、支配者の甘噛みとでもいおうか。
「擦り傷程度に抑えた筈なのだがな、そこまで傷を負うとは」
「これでも..裁行人なんでね...。」
「まだそんな事を云うか。」
「とんでもなくベタだよね、ホント」
街に蠢く魂を処理し、事件を解決する。唯一の魂一課であり裁行人である
「もう無理だ諦めろ、お前らは何も裁けない。何も救えないのだよ!」
「そうでもないと思うよ」
エレベーターから三人目の刺客、敵か味方か。コイツに限っては、本気でどちらとも言えないが、取り敢えずこの場に駆けつけた。
「管理人」「ヘトヘトじゃんアンタ」
「ちょっと無理してね、放っといてよ、ホントにキツんだから」
汗をダラダラとかきながらギリギリの状態で立っている。かなりムチを打っているようだ。
「リブライか、今頃お前に何が出来る?」
「これ、見てみなよ」
文字の刻まれた二枚の紙切れを、ヒラヒラと見せびらかす。
「何だそれは?」
「あんたの名前で記された二人の魂の契約書、それを今破棄をしたんだよ」
「バカな!
それが意味か分かっているのか?」
「冥土(あっち)に、帰れなくなるんだろ?
いいよ、どうせ似たようなもんだし」
〝自らが担当した契約書を無断で破棄した管理人は冥土への帰還を禁ずる〟冥土の掟の一つだ。それをリブライはいとも簡単に打ち破った。
「でも嫌な事ばっかりじゃないよ、制約が解けたんだ、裁行人さん、あんた達の力も制限されない」
本来刀の持ち主は大門だが、契約を破棄した事でその権利すらも剥奪され、所有権は正式に祥吾の元へ。
「悪いな、オッさん。
俺にはこれしか無くってよ..」
「ふざけるなよ、私の支配から逃れる言うのか!
そんな事は断じて許されんぞ!!」
大きな楔を失い、浮遊魂の集合体で形成された翼ハリボテを身につけているだけの状態となった。最早抜け殻、翼の生えたオジさんだ。
「じゃあな、マスター。
..コーヒー、美味かったぜ?」
大門の核に刀が放たれる。翼は霧散し、身体は浄化されるかの如く粒子状に空に流れていく。
「これからどうすんだ?」
「アタシらはただの彷徨う魂になったんだね」
意味も無く留まる魂、契約者を失った事で身体から出ることも出来ない。
「いいんじゃないかな、自由にすれば、街でも、守り続ければ?」
「..冗談だろ、俺達にマスターになれって言ってんのかよ。」
「先ずは、コーヒーの仕入れだな。」
「.....乗り気かよ。」
睦月祥吾は今日から、バーのマスター兼魂一課刑事、そして裁行人となる。
「帰ろうぜムッキー疲れちまったよ」
「..あぁ、そうだな。」
事件は解決、刑事の帰還。
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